第17話:それでも俺が彼女を守りたい~ジルバード視点~
「まさか殿下が、500年前に生きていた第二王子、ギルド殿下の生まれかわりだっただなんて…」
口を押えて固まる公爵。
「俺はずっと後悔していました。どうしてジャンティーヌに、全てを背負わせてしまったのかって。本来なら、王族でもある俺が、魔王を封印しなければいけなかったのにと…
前世の記憶が戻ったあの日、アイリーン嬢がジャンティーヌの生まれかわりだと、すぐに気が付きました。彼女はジャンティーヌに、瓜二つだったので…
ジャンティーヌは、18歳という若さでこの世を去りました。彼女は令嬢らしい生活を、強く望んでいたのです。もしかしたらそんな彼女の願い、さらには彼女を失ったかつてのマクレス公爵の無念さが、アイリーン嬢から魔力を奪っていたのかもしれない。
マクレス公爵、たとえアイリーン嬢に魔力が戻ったとしても、俺は彼女に魔王軍と戦ってほしくはないのです。もう二度と、あんな辛い思いをしたくない。愛する人を失いたくはないのです」
「もう二度と、愛する人を失いたくはないとは?」
「昔の俺は、8歳上のジャンティーヌを愛していたのです。目の前でジャンティーヌを失った時の悲しみや絶望は、今でも鮮明に覚えています。二度と俺は、同じ過ちを繰り返したくはないのです」
「殿下の気持ちは理解しました。殿下がそんな風に、娘の事を思って下さっているだなんて…私たちも、殿下と同じ気持ちです。あの子は生まれながら、英雄の末裔として重い責務を背負わされていました。
そして魔力量が少ないとわかると、今度は掌を返したように迫害されて来たのです。そんな奴らの為に、どうしてアイリーンが命を懸けて戦わないといけないのだ!どうして今、命を懸けて魔力を受けいれないといけないのだと。
あまりにも理不尽な出来事に、私ども家族は胸が張り裂けそうな思いを抱えております。
ただ、万が一魔力をうまく吸収できた時、アイリーンはきっと魔王軍との戦いを覚悟するでしょう。ジャンティーヌの記憶が戻ったのですから…」
悲しそうに呟く公爵。確かにアイリーンならきっと、魔王が復活したら魔物討伐に参加するだろう。
でも俺は、絶対に参加させたくはない。
「公爵、実は最近、魔物どもが活発に動き出しているのです。きっと近いうちに、魔王が復活するでしょう。ですが俺も、アイリーン嬢には魔王討伐に参加して欲しくないのです。
今既に王宮内でも、アイリーン嬢は病に伏せているという噂が流れております。たとえ元気になっても、どうか家から出さないでほしいのです。幸い世間では、アイリーン嬢は魔力量が少なく、魔物と戦えないと思われておりますので。
このまま病気という事で、貴族学院も休ませてください。出来るだけ情報を入れなければきっと、魔王が復活しても、アイリーン嬢の耳に入る事はありませんから」
「魔物の件は、息子からも聞いております。承知いたしました。まさか殿下が、その様にお考えだなんて…殿下のお心使い、ありがとうございます。殿下にこの事を黙っていて、申し訳ございませんでした。もし殿下に知られたら、アイリーンを魔物討伐部隊に入れられるのではないかと、不安で…」
「謝らないで下さい。公爵。俺が公爵でも、同じことをしたでしょうから。公爵、あの…もし叶うのでしたら、その…魔王を封印でき、もしアイリーン嬢が俺を受け入れて下さったら、彼女との結婚を認めては頂けないでしょうか?」
さすがにちょっと図々しかったかな…でも、アイリーン嬢との未来を期待できるのなら、それだけで俺の力もみなぎるのだ。
「ええ、もちろんですよ。あなた様はずっと、アイリーンを守って来てくださったのです。どうやらアイリーンも、あなたに好意がある様ですので」
「それは本当ですか?ありがとうございます。魔王が復活した暁には、俺が必ず魔王を封印してきます」
今度こそ俺の手で、魔王を封印する。そして、俺の手でアイリーン嬢を幸せに出来たら…
長くなりましたが、次回アイリーン視点に戻ります。
よろしくお願いします。




