第12話:蘇った過去の記憶~ジルバード視点~
“ギルド殿下、大丈夫ですよ。私が必ず魔王を倒してみせます。ですので、どうかご安心を。ほら、殿下のお好きな、お肉のサンドウィッチですわ。どうか私の分も、お食べ下さい”
美しい真っ青な髪に、クリクリのエメラルドグリーンの瞳。あれは、アイリーン嬢か?
騎士団の衣装に身を包んだアイリーン嬢が、まだ10歳くらいの男児に話しかけていたのだ。その眼差しは、まるで女神の様に優しい。
“ありがとう、ジャンティーヌ。ごめんね、僕がまだ魔力をうまく使いこなせないばかりに。君にばかり負担をかけて”
ジャンティーヌだって?それじゃあ、あの女性がジャンティーヌなのか?
“何をおっしゃっているのですか。そんな事、あなた様が気にする事ではございませんわ。早く魔王を倒して、お家に帰りましょう。私、やりたい事が沢山あるのです。これでも私は、貴族令嬢ですからね。美しいドレスを着て、素敵な殿方とダンスを踊って。それで、親友たちとお茶を楽しむのです。
それから、宝石も沢山買いたいですわ。美味しいお菓子を食べて、ゆっくり過ごす。考えただけで、ワクワクしますわ“
そう言って笑ったジャンティーヌ。
次の瞬間、場面が変わったのだ。
“ギルド殿下はここでお待ちください!皆様、ジルド殿下を、どうかお願いします”
“ジャンティーヌ、僕も一緒に行くよ。お願い、僕も戦わせて!”
“そんな小僧に、何が出来ると言うのだ。ジャンティーヌと言ったな、俺を封印できるか?”
目の前には、沢山の兵士が倒れ込んでいた。真っ黒の髪を腰まで伸ばした男が、ニヤリと笑っている。あれが魔王なのだろう。
泣き叫ぶ少年を、傷だらけの兵士たちが、必死に抑えている。
そしてジャンティーヌは、既に腕と足に酷い傷を負っていた。それでも、必死に体を動かし、魔王の前に向かう。
この光景は…
“まだ俺と戦うつもりか?”
“当たり前でしょう。私はこの国の騎士団長なの…私が諦めたら、この国の人々はどうなるの?絶対に私は諦めない。あなたなんかに、この国を奪わせない!絶対に!”
“死にたがり屋の愚かな女、それじゃあ、お望み通り息の根を止めてやる!”
そう言うと、魔王がものすごい魔力をジャンティーヌに向かって放出したのだ。それを必死に受け止めるジャンティーヌ。
“ジャンティーヌ様、私共も”
そう言うと、残っていた兵士たちも応戦する。
するとまた場面が変わったのだ。
そこには傷だらけで倒れるジャンティーヌと、泣き叫ぶ少年の姿が。
“ジャンティーヌ、目を覚ましてよ。お願いだよ。どうして!死なないって、約束したじゃないか”
“殿下、もうジャンティーヌ様は…”
“いやだぁぁぁぁ”
次の瞬間、ぱちりと目を覚ましたのだ。俺の瞳からも、大量の涙が溢れていた。その瞬間、全てを思い出したのだ。
俺は500年前、この国の第二王子として生きていた。兄を守るため、当時10歳だった俺は、魔物討伐に参加させられた。本来なら俺が命を懸けて魔王と戦わなければいけなかったのだ。でも俺は、魔王も魔物も怖くてたまらなかった。
いつもろくに戦えず、泣いてばかりだった。
そんな中、俺を励まし支えてくれたのが、騎士団長のジャンティーヌだったのだ。彼女は俺を守りながら、必死に戦った。
想像以上に強い相手に、絶望する仲間たちを励ましながら、自ら先陣を切って戦ったのだ。親友たちや兄を失くし、自身もボロボロになりながらも、彼女は何度も立ち上がり、そして最後は自らの命と引き換えに、魔王を封印した。
俺はあの日の事を、忘れない。俺にもっと力があれば、ジャンティーヌは死なずに済んだ。俺が彼女を殺したのだ。
そして俺は、密かにジャンティーヌを愛していた。強くて優しい彼女を。だが、俺は無力だった。己の弱さに、どれほど後悔したか。
あの後俺は、誰とも結婚せずに、狂ったように稽古を続け、ジャンティーヌだけを思いながら、生涯の幕を下ろしたのだった。




