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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
最終章 彼らと彼女は、何かを取り戻していた
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45「そうすれば、また、みんなに会える」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、最終章の3話目です。短編版後半の一部を、連載版に沿って大幅加筆修正したものです。

 4月も半ばを過ぎて、少し落ち着いてきた。もっとも、それは私だけのことであり、行方不明となった旧1-C生徒や白鳥先生の家族は、みんなをずっと探し続けている。状況が状況だけに、簡単には諦めないだろう。安藤くんのお母さんとも再会したが、かなりやつれていた。それは、当然だろう。


「なぜ、ループは起きていたのか。なぜ、私が13回目のみ存在したのか。なぜ、……」


 ループを抜けても、いや、結局私にはループの影響はなかったのだけど、何もわからないままだ。謎が増えただけかもしれない。


「……でも、意思(・・)を感じる。柿本くんの神様説とは限らないけど、ループを起こしている『誰か』の……」


 地震の直前に起きる、リセット。それはおそらく、みんなを地震という災害に巻き込まないようにするためだ。そのために、そのためだけに、時空を操り、ループを引き起こす。いや、ループだけではない。私が体験した、他のみんなの、あの物理的な消滅。記憶だけに留まらない、完全な時空間転移。


「そんなことまでできる『誰か』でも、災害に巻き込まれないようにすることはできないってことなの……?」


 地震を起こさないようにすることが不可能なのはわかる。けれども、ならば地震の時だけ他の場所に転移させればいいはずだ。無茶かもしれないけど、ひとつのクラスをまとめてループさせたり転移させるよりも、より簡単で、より意味がある。


 でも、その『誰か』は、それを望んだ。クラスとしてまとめて、永遠とも思えるループを起こして、最後には物理的に転移させて、そして、


「そして、その『誰か』は、クラスのみんなのループや転移のことと、4月1日の地震のことの両方を(・・・)知っている」


 そんな人物は、ひとりしかいない。他ならぬ、この私(・・・)自身(・・)しか―――



 それからの私は、ひたすら学び、調べ、知り、考えた。全ては、ループ現象の解明のために。解明して、整理して、構築して、期待する(・・・・)。時空間理論を確立し、ループ現象が実現可能であることを証明し、『未来』に向けて約束する。実現が可能ならば、時間軸のいかなる時点においても、時空間転移を発動できる。今とは比べ物にならないほどに科学技術が発達した、未来において。


 そうすれば、また、みんなに会える。そう、信じて。


 そんな様子の私は、周囲の人々にはかなり奇異に映っただろう。まだ高校生であるにも関わらず、何かにとりつかれたように研究に没頭し始めたのだから。もちろん、みんなと過ごした1年の間にそれなりの評価を得ていたから、突拍子もないこととは思われていなかったようだけれども。クラスメート失踪事件をきっかけに、科学分野の才能を発揮し始めた。そう捉えた人々も多かったのは確かだ。


「まだ、足りない……」


 ループ現象が実現できるという確信(・・)があるのは変わらない。なにしろ、クラスメートのみんなに繰り返し話を聞いただけでなく、4月1日のあの日、物理的な消失も目撃したのだから。ループ現象自体は、記憶の移動で実現可能である。それだけでも複雑怪奇であるのに、それをはるかに上回る物理現象も認識した。


 でも、結局のところ、私は、1-Cの生徒と先生の中で、私だけは、ループを経験していない。現象そのものに関わる『因果関係』が見えない。私自身に、直接的なループ現象に関わる何かがないのだ。目撃や信念だけではない、事実としての何かが―――



 そうして、数年が経過したある日。私が推薦に基づく理系の大学に進学し、しばらくの月日が過ぎ去った頃。


 今でも『事件』を調査し続けている警察関係者のひとりが、私を尋ねてきた。


「数年が過ぎても、失踪の手がかりは一向につかめません」


 それは、そうだろう。


 私は、表情を変えずに少し(うつむ)きつつ、心の中でそうつぶやく。


「ですので、失踪に関する全ての事柄を根本的に再調査しました。ほとんどが以前と同様だったのですが……」

「何か、新しい発見があったのですか?」

「今回の事件に関わる、ある人物の情報だけが、どことなく気になるのです。辻褄は合っています。合っているんですが、『合いすぎている』といいますか」

「……どういう、ことですか?」

「この資料を見て下さい。安積さん、あなたならすぐに理解できると思います。今のあなたは、その方面(・・・・)では既に著名な人物ですから」


 そうして受け取った資料に記載されていた人物の情報を見た私は、あまりに拍子抜けした顔をした。『……この人物が?』という思いに駆られたからだ。何かある(・・・・)とは当時も思っていたが、想像していたこととはまるで違った側面のものだったのだ。


 しかし、資料を読み進めていくにつれ、疑いが徐々に進み、一通り読み終わった頃には、確信に近いものを覚えるようになっていた。記憶がフラッシュバックし、その人物の言動や様子、仕草に至るまで、ある『事実』を示すかのように。


「どうですか?」

「確かに、変ですね。『因果関係』が重複している箇所がいくつかあります。まるで、あの1年の間に、あの場所で、あの生活を送るためだけに『設定』されたかのように」


 出生地、在住歴、交流歴。それらは一見、全く問題ないように見えた。だが、本来であれば存在するあいまいな部分、たとえば、御近所の目撃情報や証言といった形で現れるものが、皆無に近いのだ。にも関わらず、明らかにそこに住み、そこで生活していた……という記録だけが、疑いようがないほど揃っている。


「失礼ながら、あなたが提唱している『因果関係の意図的構築に基づく時空制御理論』は、トンデモ理論の域を越えていないと言われています。ですが、あなたが定義したその概念は、既に驚くほど役立っています。特に、我々のように複雑怪奇な事件の解明を行う者にとっては」


 もちろん、その理論を提唱する本当の理由までは広く知られていない。本当の理由は……。


「あなたの分析結果を詳細に示していただければ、その『設定』を真っ向から否定して、捜査することが可能かもしれません。ですので……」

「あの、この人物について、もうひとつ調べてほしいことがあるのですが」

「何でしょう? プロフィール情報は既に十分揃っているはずですが」

「いえ、プロフィール情報ではありません。その人の遺留品から得られるはずの―――」


 遺伝子情報、を。

以降の最終章3話分は、連載版としての新規追加分です。そして、最終章における菜摘視点の物語は、この第45話で終了となります。

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