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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第六章 彼らと彼女は、何かを知っていた
40/55

35「お酒の減りがやたら早かった」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第六章(クリスマス&年末年始編)の5話目です。

 突然始まった演奏と熱唱は、数千の歓声と共に響き渡り、メロディが奏でられていく。最後の音が終わりを告げると、余韻をかき消すかのような絶叫が会場をこだまする。


 わー、わー

 きゃー


『みんな! 今回の新曲はどうだったかな? 秋の新曲とはまた毛色が違うが、新生「フォルトゥーナ」に相応(ふさわ)しい言葉と旋律だったはずだ!』


 きゃー、きゃー

 うおー


『なかなか野太い声も聞こえてきて大変結構! 前は黄色い声ばかりだったからな、女性メンバーが不満たらたら……げぶしっ』


 がしゃっ

 どこっ


 ぶー、ぶー


『っててて……だが、ここからしばらくは、あの暑かった夏より前の曲が続く。美しき堕天使達よ、古の宴の復活だああああっ』


 きゃー、きゃーきゃー


 ♪♪♪、♪♪、♪……


「きゃー! キラ様ー、十字架がステキー! ほら、なっちゃんも一緒に! せっかく、サングラス(・・・・・)とかで(・・・)カッコ良くしてるんだし!」

「あ、あう」



 というわけで(?)、本日12月24日の午後、『フォルトゥーナ』のクリスマスライブが始まった。今年はちょうど日曜日にあたったせいか、1万人を超す人々が収納可能なはずの会場ホールは、観客で埋め尽くされていた。


「なあ、クリスマスって」

「はいはい、本当は12月24日の日没からって言うんでしょ? 昔の一日は日没から始まって、その名残がクリスマス・イブって」

「詳しいな、湯沢」

「柿本が周回のたびに言うから、クラス全員が知ってるわよ!」

「そ、それじゃあ、安積さんは」

「あ、小さい頃にお母さんから聞いたことがあるよ」

「そっか……」


 そういう意味では、このイベントは正確には『クリスマス前日ライブ』である。中高生のファンが多いということもあり、昼間開催にしたとのこと。


「そういえば……柿本くん、前もって手に入れていたチケットはどうしたの? 私たち、結局全員要らなくなったわけだし」

「も、もちろん、他のクラスや知り合いで行きたがっていた連中に売ったさ。定価で」

「定価で? プレミアム会員なら少し安くなるよね?」

「……」

「柿本、だから安積さんにはすぐにバレるって」

「柿本くん?」

「……後ほど申し開きをいたします」


 開廷は年明けかな?


「もう、瑞希とお父さん(・・・・)の分は、ちゃんと自分で買って来てるっていうのに……」

「まあまあ、多少の手数料をとることは、物流の効果を高めるためには必要なことだよ」

「でも、お父さん、柿本くんのは別にお仕事ってわけじゃないでしょ?」

「そうだね。でも、今回は予約制チケットじゃないからね。新進気鋭の彼らにとっては、多少の転売は目を瞑りつつ、売り切りを目指したんだと思うよ」

「そんなものなのかな……」


 確かに、いくら人気が出たと言っても、ヒットしてからまだ数か月だ。この会場だって、ゴールデンウィークの時と比べたら、収納可能人数は桁がふたつは違う。主催側も『賭け』に出たということだろうか。


「安積さんのお父さんの言う通りじゃないかな。前は……じゃなかった、本来ならば、1割以上の空席が出ていた……出ると思うから」


 横でお父さんとの会話を聞いていた安藤くんが、そう補足する。お父さんに『ループ』のことを話すわけにはいかないから、なかなか言いにくそうだ。


「君の予想(・・)は正しいよ。菜摘から話を聞いて興味が出たから、向こう(ドバイ)にいる間にネット経由で彼らの芸能活動をざっと分析してみただけだが」

「そして、そんな予想は事務所にもあったはずなのに、この会場にした理由は……立地条件、でしょうか?」

「僕もそう思う。彼らはそれまで比較的ローカル……だいぶ広い地域だけどね、複数の都県に渡って活動してきた。それが、急に全国的なヒットになって、それまでのローカル的な方針で会場を決めていたら、かなりの潜在顧客を逃しかねない」

「1割以上空きが出ても、赤字が出ないトントン状態で次につなぐ……ということですか」


 おおお……お父さんと安藤くんの会話のテンポがとてもいい。隣の柿本くんが寂しそうにしているほどだ。性格もちょっと似ているかな? 穏やかだし、丁寧だし。


 ……あれ?


「ねえ、だとすると、今回(・・)客席の空きが全く出てないのはどうしてなの? 空きどころか、立ち見席まで特別に用意されているし。いくら私たちが特別枠でクラス全員来ているといっても、1割とはほど遠いよね?」


 ………………


 あ、あれ? ふたりとも、私を見て呆れた顔をして……いる? え、柿本くんや湯沢さん、あと、瑞希まで!?


「……菜摘が、素直で賢い、いい娘に育ってくれたのは嬉しいが……」

「いやあの、それ(・・)が安積さん……菜摘さんの、一番いいところですから」

「そうなんだろうけど、時々、不安になるのよね……」

「えっと、インフルエンサーだっけか、それが無自覚に行われる場合の社会の変化とか結構興味が」

「柿本、しゃらっぷ」

「Yes, ma'am.」

「なっちゃん……なっちゃんが、どんどん天上人に……」


 なにがなんだか。瑞希に至っては、歓声を上げるのまでやめちゃってるし。なに、なんなの?



 そんなこんなでライブは進み、残すところ、2曲となった頃。


「よし、スタンバイ開始。全員『持ち場』について」

「おっけー。いやあ、わくわくするな!」

「だねー。こういう体験はこれまで(過去の周回で)だってなかったし!」

「ああ、安積さん、サングラスと帽子を取るのを忘れないで。湯沢さんも」

「うん」

「いやー、有名人は辛いね!」

「なに言ってんだ、湯沢の場合は夏休み明けにはすっかり下火に……へぶし」

「静かにねー。『サプライズ』じゃなくなっちゃうから」


 ぞろぞろ


「え、なっちゃん?」

「ちょっと、みんなと(・・・・)行ってくるね」

「菜摘、頑張りなさい」

「ありがとう、お父さん」


 ………………

 …………

 ……


『さーて、残念ながら、これが最後の曲だ』


 コトッ

 カチャカチャ


 ……ざわざわ


『俺たちが楽器を置いたのを、不思議に思うかい? 俺たちが今、こうしてここにいる理由。それは、これから奏でるメロディが、ここまで俺たちを引っ張ってきたからだ。具体的には、先々週の売上上位ランキングまでな!』


 ははははは


『けど、その曲は本当に、俺の歌だったか? 俺たち『フォルトゥーナ』だけの、曲だったか?』


 ………………


『ここにいるみんなは、あの曲を一度は自ら歌ったことがあるはずだ。カラオケとかでな。だが、その時、ひとりだけで歌ったか? 部屋でひとり寂しく口ずさんだか?』


 ………………


『違うよな? その場にいた友人達と、仲間達と、級友達と、共に歌ったはずだ。みんなもよく知っている、彼ら彼女ら(・・・・・)のようにな! だから、この曲は、ここにいる全員で歌おう!』


 ざわざわざわ


『なーに、心配はいらない。周りを見回してくれ。ひとりかふたり、どこかで見たような制服を着て、澄ました顔をして立っている者がいないか? 彼ら彼女らが、俺たちと共に歌ってくれる。あの、舞台のように!』


 ざわざわ……ざわざわざわ


『そして、楽器はただひとつ! 俺たち4人も「合唱」に参加させてもらうぜ! ってことで、スタッフさん、スポットライト!』


 カッ


 うおおおー


『菜摘ちゃん、よろしく! それじゃあ行くぜ、「Song for Tomorrow Morning」!!』


 わー、わーわー


「な、名前を呼ばれるなんて、聞いてないよー! っていうか、ちょっと(まぶ)しい……」


 私のささやかな抗議の声は、熱気と歓声に包まれた会場の空気に、淡くもかき消されていった。



「いやー、今が冬で良かったな! 夏ライブで同じようなことをしようとしたら、俺たちの宴の間にキミたちがバタバタ倒れちまうぜ!」

「はあ、どうも」

「まあ、ウチの制服って結構カッコかわいいし、これはこれで良かったけど」

「公立なのにアニメ柄って、有名だよな」

「指定のコートもシックだけど、夏に着たくはねえな」

「でも、最初から制服で観客席にいたら、サプライズにならないのは確かだし……」

「それって、安積さんだけで良かったんじゃね?」

「そう言わないでくれ。これ以上、菜摘ちゃんを特別扱いしたらマズいって、白鳥さんが言うんでな」

「それなら、私の名前を呼ばなくても……」


 ライブが終わった後の、舞台裏。バンドのメンバーとスタッフ、私たち1-Cのみんなが集まり、併設の会議スペースで、ジュースを手に簡単な打ち上げをしている。


「キラ様! サイン下さい!」

「いいよー。お、会員ナンバー二桁か。昔からの応援、ありがとうな!」

「きゃーっ」

「僕もいていいのかな?」


 瑞希とお父さんも、打ち上げに混ざっている。ふたりを先に帰すわけにもいかないしね。


「さてと、ここからが相談なんだが……」

「デビューはしませんよ? キラさん」

「わかってる。でも、今日のライブのビデオソフト化と、菜摘ちゃんの伴奏の収録と特典販売だけは、認めてくれないか?」

「ライブはしょうがないよね、もうやっちゃったんだし。っていうか、それ前提だったよね」

「私のは……どうしよっか、お父さん?」

「僕は、菜摘さえ良ければ。ただ、お母さんがなんていうか……」

「ああ、お母さんかあ……」


 反対はしないと思うけど、お母さんって何かを判断する時、必ず直接確認してからってタイプなのよね。アザレアグループの直接指揮のために、本部のドバイに引っ越すほどだし。


「なら、今夜の『本邸』でのパーティに参加してもらうかい? お母さんも帰国して準備しているから」

「でも、今から大丈夫かな? クラスのみんなは最初から呼ぶつもりだったけど」

「披露宴のために貸し出せるくらいの広さだからね。あ、『フォルトゥーナ』のみなさんも、今夜は空いてるんですよね?」

「え? いやまあ、ライブの後だし、内輪で夕飯に行くだけのつもりでしたけど……え、パーティ?」


 人数的には問題ないけど、お料理が心配かな。おじさん達も参加するから、瀬尾さん達もパーティでお仕事するはずだけど。


「ちょーっと待ったー! え、なに、パーティ? 菜摘ちゃんちの? それも、もともと住んでいた家で?」

「あれ、言ってなかったっけ? 今夜一緒にクリスマスパーティするって」

「いやいやいや、またカラオケ店借りてするつもりだったから!」

「あ、前のウチでもカラオケできるよ? いつも来てもらってる人達、結構なんでも弾けるんだ」

「文字通りの『空オーケストラ』かよ!」


 というわけで、夜は前に住んでいた家の接客用(・・・)ホール(・・・)で、クリスマス・イブのパーティが行われた。いつもの親戚の方々(安積一族)に加え、クラスメート達と瑞希、『フォルトゥーナ』の4人とスタッフの方々も参加ということで、かなりの大所帯となった。心配していた料理は、もともとビュッフェ(立食)形式だったこともあって、給仕はもちろん、食材についても問題なかったようだ。


 ただし。


「ほーお、お前らがウチの娘らで稼ぎまくってる『幸運』な奴らかー。ひっく」

「え、や、その……はい」

「旦那からもあらましは聞いてるが、事の経緯をじーっくり聞かせてもらおうか。なあ、殺人者(キラ)様よー? げっぷ」

「あ、あう……」


 お酒の減りがやたら早かったと、お手伝いさん(メイドと執事)達が嘆いていた。お母さん……。

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