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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第六章 彼らと彼女は、何かを知っていた
38/55

33「頭がすぐに反応できなかった」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第六章(クリスマス&年末年始編)の3話目です。

 がらっ


「安積さんに笹原、ここにいるか!?」

「いるけど、入ってくんな!」

「ごべしっ」


 ずしゃあっ


 がららら、ぴしゃっ


「え? え?」

「ったく、柿本も何考えてんのよ。いきなり女子更衣室の扉を開けるなんて」


 体育の後、クラスの他の女子と更衣室で着替えていたら、柿本くんが以下略して、湯沢さんが以下略した。あっという間の出来事に、頭がすぐに反応できなかった。


「ああ、過去の周回でもたまにやってたのよ、さっきの」

「へっ?」

「おかしいよねえ、鍵は必ずかけてるのに」

「……つまり?」

「この娘の仕業」


 ぐりぐり


「……ハプニングは……スパイス……」

「いらんわ! 全く、この周回は菜摘ちゃんがいるからやらないと思ってたのに」


 笹原さん……。



「……」

「安積さん怖いですごめんなさい」

「……ごめんなさい、菜摘さん」

「……」


 柿本くん、笹原さんを避けてたんじゃなかったの? なのに、たまにこうしておかしな方向に気の合うようなことをしたりして。湯沢さんも、何か達観したような反応してるし。


 ああもう、さっぱりわからない。さっぱりわからないから、もう追求するのはやめよう。いつかふいにわかる時が来る、そう信じておく。


「もう、いいよ。それで?」

「あ、ああ。以前、笹原が調べた国会図書館の北欧神話関係書籍のリストの中に、俺たちのループ現象に似た物語らしきものがあったんだ」

「そうなの!?」

「書籍タイトルで概要を調べてみたらそんな感じでな。今のところ、少しでも古い北欧語を知ってるのは俺たちだけだし、一緒に行ってみないか?」

「国会図書館に? 電車で2時間以上かかるよ」

「そうなんだよ。元の本は絶版になってて、個人蔵書を除けば、もうあそこにしかないらしい」

「うーん……まあ、いいか、次の土曜日なら。確か、日曜日は入れないんだよね」

「本当か!? 笹原もおっけーだよな?」

「……おっけー」

「よっし、決まり!」


 なんか不安だけど、次の土曜日は柿本くんと笹原さんとで遠出することになった。不安だけど。



 ガタンゴトン、ガタンゴトン


「でな、キリスト教改宗の前と後ではやっぱり違いが大きくてさ」

「聖書の影響が大きいってこと? それとも、宗教活動そのものからなのかな」

「両方だな。あの頃は聖書を翻訳するってことはあまりなかったけど、布教のためには現地の言葉で説教しなければならないし」

「日本に最初に来たのはカトリックだったけど、聖書主義の影響を受けた後だったよね」

「……神話は、口伝が基本。文字の記録は、後付け」

「だな。活字中毒の笹原には皮肉な話だけどよ」

「……お互い様」


 神話も言葉そのものも、太古の昔から分離と統合、繁栄と消滅を繰り返している。時の流れを扱う物語も、社会や自然の変化の影響を受けながら変わっていく。


 その中から、実際に起きたと思われる『奇跡』をどれだけ見い出せるかは、わからない。それは当然なのだけど、クラスのみんなにとっては、藁をも掴む希望になり得るかもしれない。


 ガタンゴトン、ガタンゴトン


 (ひそひそ)


「ねえ、あそこに座ってる娘って、動画の……」

「かもね。なんか、中二的な単語が聞こえてきたし」

「へー、あんた、『フォルトゥーナ』のこと詳しいんだ」

「や、そ、そういうわけじゃ……って、あんたこそ意味わかってるでしょ!」


 ん? なんか、動画とかフォルトゥーナとかって言葉が聞こえてきたような。私たちのこと、噂してるとか……?


 ぷしゅーっ


 ざわざわ


 ………………


 ガタンゴトン、ガタンゴトン


「ん? あの人……」

「柿本くん?」

「俺、ちょっと行ってくるわ」


 とことこ


"Excuse me, may I help you to get out?"

"Oh...ah..., this station, Ok?"

"Ah, Sprichst du Deutsch? Und der nächste Bahnhof ist bestimmt für Sie."


 ………………

 …………

 ……


"Ach! Vielen dank!"

"Bitte schön."


 すたすた


「あの人、ドイツ語圏の人?」

「だな。あの訛り方はスイスかも」

「……オーストリア」

「そうか? あそこは行ったことないんだよな」

「……モーツァルト萌え」

「そっちかよ!」


 笹原さん、幅が広いなあ……。



 そうして、ようやく着いた国会図書館にて手続きをし、目的の書籍を閲覧する。


「トンデモ本かよ!」

「……静かに」

「んなこと言ったってさあ。くそ、聞いたことない出版社だと思ったら」

「……オリジナルの、ノルン三姉妹を……三貴子起源、としたのは……興味深い」

「時代が500年以上逆だろうが! 因果関係ガン無視かよ!」

「……ファンタジー説派が、よく言う」

「お前ほどじゃねえよ」


 あれ、笹原さんも『このループは神様の仕業』説だったのか。でもまあ、そっか、神様がこの世界の『作者』って考えるのは、本好きなら理解しやすいのかも。


 一応、メモを取るだけ取って帰ろうとした時。


((kayf yumkinuni aistiearat ktab?))


「英語、じゃないよな……困ったな」


 あー、職員さんが困ってる。


「今度は、私が行ってくるね」

「ほーい」


 とことことこ


((alhuiat alkhasat bik 'uwla.))

((shukraan laka! muafik jawaz alsufr?))

((bialtaakida.))


 ………………

 …………

 ……


 すたすたすた


「おつかれー。まだ数か月なのに、すごいじゃん」

「知ってる単語を並べただけって感じだけどね。これまでは文字中心だったし」

「それでもすごいさ。カイロのバザーで値切りやすくなるぜ!」

「えええ……」

「……バザー、じゃなく、バザール」

「笹原、細かいな?」



 そして、私たちはなぜか秋葉原にいる。なぜか。


「いやまあ、悪い意味ですぐに用事終わっちまったし、せっかくだからさ」

「でも、ふたりなら神保町の方がいいんじゃないの? こちらはどちらかと言えば……」

「松坂だろうって? それはそうなんだけどさ」

「早く……行く……」

「そうだな、行くか」

「え、ど、どこに?」



 からんからん


「御主人様おひとりに、お嬢様おふたりですね。お帰りなさいませ!」

「ちょっと、柿本くん……」

「すまん、安積さん。メイドカフェは笹原の希望なんだ」

「えっ」


 じー…………


「……お客さんの方を、見ている?」

「あのな、こういう店って、男が複数で来ることが多いんだ」

「はあ」

「で、悲しいことに、そいつらはたいがいモテない」

「はあ」

「つまり、恋人がいない。異性の、な」

「はあ。…………はあ!?」

「妄想さえできればいいんだよ、あいつは」


 ええええええ……。


「あのふたり……お互いを、慰め合って……今夜は……」


 ふ、深すぎる……。


 ん?


「そういえば、柿本くんってクラスの中でも安藤くんと割と仲いいよね?」

「だから笹原を避けてんだよ! 特に、教室では!」


 ああ、そういう……。


 からんからん


"Huy! Jap he*ta* girls are here!"

"Holy sh*t! Hey, no thank you for milk and let's g*t l*id!"


 すたすたすた


"Shut your mouth and bye-bye, jerks."


 ぱたん


 ………………

 …………

 ……


 えっと、男性ふたりが入口から入ろうとしながら何か乱暴な言葉を放ったら、笹原さんが近づいてひとことつぶやき、そのまま入口の扉を閉めた。あっという間の出来事に、頭がすぐに反応できなかった。


「はあ……か弱い男、ふたり……尊い……」



 ガタンゴトン、ガタンゴトン


「つ、つかれた……」

「こんなことなら、家でネットサーフィンやってれば良かったかもなあ……」

「……これも、思い出」


 そうなのかなあ……?



 ピロン♪


【みき】@なつみ http://12ch.bbssite.lp/...

【みき】@なつみ 今日、東京に行った?

【みき】@なつみ なんか、話題になってる


 あああ……

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