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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第四章 彼らと彼女は、何かを繰り返していた
27/55

24「やっぱり、私が言うのは無粋で無意味だ」

 あと3日で、夏休みが終わる。長いようで短かったような、夏休みが。期待通り、いや、期待以上に、本当に、今年は楽しかった。花火も見たし、山でキャンプもしたし、温泉にも行ったし、夏ライブにも行った。もちろん、クラスメート達と一緒にである。


 さすがに、いつも全員というわけではなく、湯沢さんや鳴海さんなどのいつもの女子グループ、安藤くんや柿本くんなどの考察(?)グループ、松坂くんなどの極限(??)グループ、などなど、それぞれが得意としているイベントに誘ってもらった。その中でも、安藤くんと行った美術館めぐり、柿本くんと行った古書店めぐり、松坂くんと行ったクレーンゲームめぐりは、なかなかに興味深かった。休み明け後にあらためてひとりで行ってもいいかもしれない。特に、クレーンゲームは。もふもふ。


 なお、くどいようであるが、笹原さんのお誘いは全部断った。即売会なるものが年2回だけではなかったことがうんちくとして残っただけである。


 ……ということを、自宅の部屋で日記のようにつらつらと書きながら思い出していた時、メッセージアプリの着信音が鳴り響いた。


 ピロン♪


【しゆ】@all タ ス ケ テ


 湯沢さん!?



「お前なあ……。どう考えても、12回もループしたやつのすることじゃねえぞ?」

「いやあ、すっかりパターン化しちゃったなあと」

「陸上は、周回のたびに限界に挑戦しているのになあ」

「いやあ、陸上は別腹というか、ね?」

「あ、あはは……」

「ほれみろ、安積さんもいつものように呆れているじゃないか」

「いやあ……って、いつもじゃないわよ、バカ柿本!」


 というわけで、宿題である。湯沢さんより、3日じゃひとりで終わらないよというメッセージが号泣スタンプと共に全クラスメートに送られた。これも、ほとんどの周回で起きていたことらしく、既に出来上がっているローテーションのメンバー+私が、自宅の部屋を訪ねてせっせと宿題を進める……湯沢さんを、サポートしている。いくら今回も過去問相当があるからといって、丸写しはダメである。私が許さないし、そもそも、すぐバレる。丸写しとはそういうものである。


「だいたいだな、自分なりの『過去問』を用意しておけば、こんなことにだな」

「うっさい! あんたに言われなくたって、クラスのほとんどがそうしてるって知ってるから!」

「じゃあ、なんでお前はやらないんだよ?」

「い、インターハイが……」

「それは8月上旬に終わっただろ」

「そ、その、菜摘ちゃんと仲良くするため……」

「過去の周回は安積さんはいなかったし、その安積さんも宿題は終わっている。なんと、自力でだぞ?」

「菜摘ちゃん、写させて!」

「ダメだよ、湯沢さん。本来なら自力でしかできないんだから」

「うひー」


 いずれにしても、現段階の様子では、残り日数の全ての時間をかけることを前提にしても、やはり厳しい。


「まあ、たぶん今度も白鳥先生に泣きついて、一緒に科目担当の先生方に頭を下げてまわって締切延長ってパターンかな」

「えええ……」

「おい、安積さんが心底呆れてるぞ。今回は先生のフォローをやめてもらうか? もしループを脱出しても、お前だけは一年のまま(・・・・・)だがな!」

「いやいやいやー! 菜摘ちゃん、『14回目』もお願い! また一緒に遊べるよ!」

「いやあの、別に私がみんなをループさせてるわけじゃないから……」

「嫌なら手を動かす。ほれ」

「うう……やる……」


 柿本くん、容赦ないなあ。まあ、それだけ湯沢さんを心配してるってことなんだろうけれども。


 というか、ですね。


 ひそひそ


「ねえ、みんな。湯沢さんと柿本くんって、とーっても仲がいいよね?」

「ああ……うん、まあ」

「でも、菜摘さんが思ってるのとは、ちょっと違うと思うよ?」

「そうなの?」

「松坂や笹原の言葉を借りるとだな、えーと、『幼馴染属性』?」

「おさななじみ」


 幼馴染……私には、あまり縁がないかな? ずっと街の郊外に住んでいたせいか、近所に年の近い子たちがいなかったんだよね。あ、司がそうなのかな? いとこで4歳ほど離れているけど。


「昔からの腐れ縁ってやつ? それを言ったら、私たちもそうなんだけど」

「ただ、あのふたりは初期の周回からいろいろあってな。お互い、変なところを知り尽くしているところがあるんだよ」

「……えっと、あまり詳しく聞かない方がいい案件?」

「だね」

「安積さんって、そういう機微を捉えることにも優れているよね」

「はー、柿本くんと安藤くんが憧れる(・・・)わけだわー」

「………………え?」

「あっ」


 憧れ……? 私の、何に? というか、柿本くんと……安藤くん?


「いやあの、えっと……え? でも、……あれ?」

「ご、ごめん、混乱させちゃったね。ふたりとも別に、菜摘さんにヨコシマなことを考えているわけじゃなくてね」

「いや、それも違うだろ。えっと……ああうん、アイドル、クラスのアイドル的な位置付けかな!」

「そうそう。あのふたりはいつもの相手、柿本の場合は湯沢だな、その相手と一緒にいることがデフォルトなんだけど、それはそれとして、安積さんにも関心があるってこと」

「そういう意味では、私たち女子もそうだよ! 12回もループしてると同世代の子たちがどうしても幼く感じるんだけど、菜摘さんはそんなことないし!」

「だよなあ。っていうかさ、これまでの周回の中でループのことを話して信じてくれたの、クラス以外ではマジで安積さんだけだったしな!」


 そう、なのか……。そういえば、なぜ私はあっさり信じたんだろう? いや、もちろん最初の最初はからかわれていると思ったんだけど。それが、安藤くんに天気予定(・・)の手帳を見せてもらって、それから、みんなが活発に議論をしているところに参加して……。


「……もしかして、私はループ現象(・・・・・)そのもの(・・・・)を信じているんじゃなくて……」

「安積さん?」

「え? あ、ううん、なんでもないよ。でも、ありがとう、いろいろ教えてくれて」

「? どういたしまして」


 この問題は、私自身の、私だけの問題かもしれない。年度末の3月31日までにはまだ時間がある。じっくり、考えてみよう。あと、恋愛関係について語るには、やはり私はまだまだ未熟のようだ。でも、特訓は今のところのーさんきゅー。


「ううう……おわらない、おわらないよう……」

「はあ……いや、そこはだな……」


 私たちの長いひそひそ話に関わらず、湯沢さんと柿本くんの宿題攻略が進んでいた。進んでいたが……確かに、終わりが見えない。厳しいとかそういうレベルではないかも。でも、最初から白鳥先生を頼るのもねえ。風邪を引いていた白鳥先生……と、その時の安藤くんの様子が思い浮かぶ。


「ねえ、今残ってる宿題って、全部が全部、同じだけ時間がかかる科目ばかりってわけじゃないよね?」

「そうだけど……」

「お父さんに聞いたことがあるスケジュール管理方法だけどね、時間がかからないものを優先的にこなすことで、結果的に全体の期限オーバーの仕事を減らすことができるんだ。もちろん、時間がかかる仕事も分割して、間に挟んでいって……」


 根本的な解決にはならないけど、なんとかしてみますか。



 とりあえず今日の分のあれやこれやの面倒を見た後の夕方、湯沢さんの家を出て自宅に向かう。明日は別のメンバーがローテーションの順番なんだけど、私がちょっとトリッキーな進め方を伝えたせいで、少し予定が変わった。なので、全体をとりまとめている安藤くんに帰宅途中でそのことを伝えるつもりで、連絡をとったのだが。


「……既読にも、ならないなあ」


 メッセージアプリで直接会えないか送ったのだが、何分経っても反応がない。ちょっと込み入った内容だから、口頭で話したかったのだけれども。……白鳥先生の家、なのかなあ。


「そういえば、安藤くんの家って、この近くだよね」


 湯沢さんの家と安藤くんの家は、同じ地区の住宅街にある。住所を見る限り、柿本くんの家もそうなのだが。なお、クラスのみんな(+白鳥先生)の自宅住所は、メッセージアプリの登録ファイルに全部記載されている。みんな自主的に登録しているのだからすごい。私は、夏休み前の自宅訪問で必要になった時に教えたのだけれども。


「あ、ここだ」


 『安藤』の表札と、郵便受けの家族全員フルネーム記載。イマドキ珍しいよね? 湯沢さんや鳴海さんなどのクラスの女子達は、ストーカー対策っていって自宅にもいろいろと工夫しているみたいだし。


 きいっ


「あっ」

「あら」


 門の入口付近を通りがかった時、ちょうど家の玄関から女性が現れた。安藤くんのお母さんかな? 買い物袋らしきものを肩から下げている。呼び鈴鳴らそうとしていたから、ちょうどいいといえばちょうどいいのだけど、少し戸惑ってしまった。


「あ、あの……」

「……もしかして、安積さん?」

「えっ……いえ、そうですけど、私を知っているんですか?」

「ウチの息子から聞いているわ。会いに来てくれたの?」

「え、ええ、少しだけ、クラスの伝達事項があって」

「そう。……ねえ、時間があるなら、私のお買い物に付き合わない? 近くのスーパーなんだけど」


 え?



 ガラガラ……


「あの子、安積さんの唐揚げが美味しかったって言っててね。私は冷凍のしか作ったことなかったんだけど、それなら手作りしてみてもいいかなと思って」

「でも、私に相談するほどでは……」

「そんなことないわよ。材料選びから参考になるわ」


 そんなものだろうか……と思いつつ、私がいつも選んでいる食材を伝えていく。あ、ここってこのブランドの生姜(しょうが)があるんだ。香りに効果があるから良いものを使いたいよね。私も買っていこうかな。


「……あの子は、担任の先生と仲がいいみたいね」

「っ……!?」


 いきなり、直球が来た。え、えーとえーと、クラスのみんなは、安藤くんの気持ちは知ってることがあっても、白鳥先生の方は知らないはずよね。だから、うん。


「そ、そう、ですね。先生も安藤くんも、クラス運営のことでいつも苦労してるので、は、話す機会は多いみたいですけど」

「それで、仲良くなったのね。夏休みの間も、たまに家を訪ねているようだけど」

「そそ、それは、私たちも、ですよ? 白鳥先生、まだ若いのに一人暮らしで、生徒の立場としてはどうかと思いますけど、ちょっと、心配で」

「そう……若くて一人暮らしで、生徒の立場で、ね……」


 うぐっ……もう、ダメ。私みたいな、恋愛初心者未満の人間には辛すぎるやりとりだよ……。


「あ、あの! でも、私、安藤くんのことはそれほど詳しく知らなくて、だから、その……」

「あら? 安積さんのことは、あの子もウチでよく話題にしているわよ? 先生の次に、だけど」

「かはっ」


 もう、変な声が出ちゃった。柿本くんの気持ちがわかってきたような、わかりたくないような。と、とにかく。


「わ、私のこと、安藤くんは、どんな風に…?」

「そうねえ。美人で可愛くて賢くて。でも、ちょっとほんわかしていて。そうそう、安積さんって、ものすごいお嬢様なんですって?」

「お、お嬢様というのが何を指すのかわかりませんけど、私は特にそんな……」

「そうよね、唐揚げを作るのも食べるのも好きなお嬢様って、聞かないわよね」

「あ、あはは……」


 よ、よし、なんとか私の方に話題をずらせたかな。でも、安藤くん、私のこと家でそんな風に言ってくれてるんだあ。『ほんわか』っていうのがすごく気になる表現だけど。


「……私としては、安積さんのような娘と、お付き合いしてほしいんだけど」

「……」


 黙秘します。ごめんなさい、安藤くんのお母さん。


 でも。


「……安藤くんなら、大丈夫だと、思いますよ」

「大丈夫?」

「安藤くんは、きちんと考えて行動するタイプです。その……感情、に突き動かされることはないかなと」


 少なくとも、私の知っている、この周回では。


「……そう。安積さんがそういうなら、そうなのかもしれないわね」

「え?」

「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって。でも、家でも話題にしているあなたに一度聞いてみたかったのよ。当事者の先生には訊けないし」

「はあ……」


 安藤くんも、お母さんを困らせるようなことはしないしだろうし、考えてもいないと思う。思うんだけど……それだけだ。やっぱり、私があれこれ言うのは無粋で無意味だ。今のところは。うん。



 そうして、再び安藤くんの家に近づいた頃。


「えっ、安積さん!?」

「あら、お帰り。遅かったわね」

「あ、ああ。えっと……」

「ごめんなさい、クラスの伝達事項があったんだけど、安藤くんのお母さんとばったり会って、話し込んじゃって」

「そうなのよ。ほら、安積さんが鶏もも肉選んでくれたの。今晩は唐揚げよ!」

「……なぜ、そんなことに」

「それはまあ、いろいろと。あ、そうそう」


 かくかくしかじか


「そっか、頭を下げるのは一部の先生だけで済みそうなんだ」

「そうだね。だから、明日からの担当の人に伝えたいんだけど、安藤くんもそうだったよね」

「わかった。グループに登録したファイルも僕の方で修正しておくよ」


 なんとなく、ほっとした表情をする安藤くん。一緒に頭を下げるの、白鳥先生だからかなあ。


「よろしく。……それでは、お邪魔しました」

「どういたしまして、菜摘ちゃん(・・・・・)!」

「ふえっ!?」

「ふふふ、『安積さん』じゃあ、この子と同じ呼び方で味気ないじゃない? それとも、ちゃん付けは嫌?」

「そ、そんなことは、ないですけど……」

「か、母さん、もういいだろ」

「あら、ごめんなさい。それじゃあね」

「はい。安藤くん、それじゃ」

「う、うん。またね」


 とことことこ


 ……うーん。もしかして、安藤くんのお母さんに気に入られた? これって、どうなんだろう……。

ここまでを第四章とし、登場人物まとめの後に第五章となります。

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