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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第四章 彼らと彼女は、何かを繰り返していた
24/55

21「もし『14回目』があったなら……」

 インターハイの各競技全国大会が始まった。今回も湯沢さんが出場する陸上の応援をと考えていたのだが、会場がとにかく遠い。電車はもちろん、飛行機を使っても遠い。2日後の弓道競技は車で一時間くらいのところなので、学校が応援団のためのバスを借り上げる予定なのだけれども。


 と、思っていたら。


「はははは……。安積さん家、プライベートジェットなんてあるんだ……」

「ん? ウチのじゃないよ。お母さんの会社のジェット機を安く借りただけだよ」

「いや、安くったって、結局、数人分の飛行機代相当がかかるよね?」

「その前に、ジェット機を維持している会社に驚くべきだろう……」

「お母さんの会社、国際関係のお仕事が多いからね。ユーラシア大陸をあちこち飛ぶのに便利なんだって」

「ああ、なるほど、御両親はこの飛行機でドバイから帰国したのね……」


 というわけで、お母さんが会社の飛行機をチャーターしてくれたので、私を含めた数人のクラスメートで、湯沢さん所属の陸上部の応援に向かった。空港までの移動にも時間がかかるけど、飛行時間自体は1時間程度だし、比較的すぐに到着できるだろう。


「ふおおおおおおっ……」


 なお、先ほどからなにやら雄叫びのような声を上げてるのは柿本くんである。過去の周回で救助された時に使われたのがこの飛行機だったようだ。



「湯沢さん、今日の見込みは?」

「わかりませんよ。もちろん、全力は出しますけど」


 地区予選で始まっていた湯沢さんPR企画は、全国に進んだ今も続いている。もっとも、地元メディアを中心にしていた頃は学校側が売り込んでいた形だったが、全国まで順調に進んだ今となっては、様々な全国メディアが積極的に取材に来ていた。今も、いくつかのテレビ局のインタビューを受けている。


「さすがに、予選は突破できるでしょう?」

「……あの、他の選手の迷惑にもなりますので、ここまでにしてもらえますか?」

「あ、は、はい、もうすぐ始まりますからね。がんばって下さい!」

「ありがとうございます」


 湯沢さんの表情が、少し固い。というか、言葉に棘がある。地元競技の頃は陸上女子向上アピールが強かったのに、今はある意味、普通の陸上選手である。失礼な話だけど、普段から元気いっぱいの湯沢さんを見ているだけに、かなり気になる。


「湯沢さん、緊張しているのかな?」

「そうだろうね。全国で勝てるかどうかは、どの周回でも微妙だったし」

「勝てたこと……優勝したこともあるの?」

「1回だけね。えっと……10周目か。僕らの感覚では3年前になるね」


 安藤くんが、手帳を広げてそう言う。あの手帳、どこまでクラスのみんなのことが書いてあるのかな? いや、それよりも。


「え、それじゃあ、11周目と12周目はダメだったの?」

「うん。準優勝だけど」

「他の選手は同じ人達なのに?」

「そうなんだ。そこが『限界点』なんだろうと思う。本人の努力の、ね」


 湯沢さんのことだから、他のクラスメートとも協力して、10周目で優勝した時の、4月からの練習スケジュールを整理しているだろう。それを基に、11周目と12周目、そして、今回の13周目も臨んでいるはずだ。それでも、優勝できたりできなかったりするということは……。


「自分自身との戦い、とはよく言ったものだね」

「その瞬間のわずかな迷いや油断が、結果に大きく影響するってこと?」

「今の湯沢さんの場合は、そうだね。地区予選突破までは、努力や工夫で伸びてきた。でも、いずれそんな努力や工夫だけではどうにもならなくなってくる。迷いや油断もそうだけど、運だって関わってくる」

「ループしていても?」

「ループしていても。過去問の時もそうだったけど、僕らが知らないうちに周囲に微妙な影響を及ぼしていることもあるからね。『バタフライ・エフェクト』と呼べるほどではないにしても、相手選手に微妙な精神的変化を与えているかもしれない」

「でも、そんなことを言っていたらキリがない……」

「だから、それらをひっくるめて僕とかは『限界点』って呼んでるんだ。同じことを何度も繰り返して何が起こるか把握しても、意図的に未来を確定できない限界があるってことで」

「そっか……」


 それなら、過去の周回に存在しなかった私が、今の湯沢さんに『優勝するかしないか』に大きく影響を与えるかもしれない。実際、他のクラスメートだって、過去の周回ではこうして観に来ることもなかった。もちろん、私たちの存在が『優勝しない』方に振り切れてしまう原因になるかもしれない。でも、それでも……。



 湯沢さんは、予選と準決勝を難なくクリアし、決勝に駒を進めた。


「うわあ。確かに、他校にもすごい選手が揃ってるね」

「公開プロフィールを見ると、小さい頃から陸上一筋って人が多いようですね」

「だからこそだろうなあ。湯沢がここにいるのを『奇跡』のようにマスコミが取り扱ってるの」

「そういえば、湯沢が初めて地区予選突破した周回の時、ドーピング疑惑が出たよな」

「そうなの!?」

「あの頃は、地区予選段階でPRとかしてなかったから、なおさらな。ぽっと出も程があるって感じでよ」

「そうして、本当に全国出場選手全員に検査が施された時には、唖然としましたけどね」

「実際、ドーピングしてたのが数名いたんだからねえ。もちろん、湯沢はクリアしていたけど」

「え、それじゃあ、今回の周回ではドーピングしている選手が何人かいるってこと?」

「「「「「あ」」」」」


 気づかなかったの!? いやまあ、もうどうこうできないけど。でも、もし『14回目』があったなら……!


「あ、安積さん、それよりも、今は応援しようよ。僕らにとってもこれは初めての経験だから」

「そ、そうですよ! 横断幕、広げましょう」

「なにしろ初めてな上に急ごしらえだから、ショボい出来だけどな!」


 応援は気持ちが重要なのです。もちろん、他の人々に迷惑をかけないように。横断幕作成は私も手伝ったよ!


<これより、陸上競技の決勝が始まります。選手のみなさんは……>


 湯沢さんが、他の選手と共に、スタートラインにつく。観客席からは少し離れていて表情までは見えないけど、やはり緊張しているのだろうか。


「位置について。よーい……」


 ………


 パンッ


「よし! スタート時点で他の選手を引き離した! これで準優勝は固い!」

「え、それじゃあ」

「ふたつ隣の走者が、いつも途中から追い上げるんだ。バネがあって、持続力もある」

「だから、最近の湯沢は、スタミナ強化を中心に鍛えてきたはずだ。でも、それでも……!」


 確かに、順調に走っている湯沢さんをぐんぐん追い上げている選手がいる。体格差のせいだろうか、すぐ近くまで追い上げてきたその選手は迫力もある。湯沢さんも、前を向いているとはいえ、追い上げてきていることに気づいているだろう。


 よし!


「湯沢さーん! がんばれー!」

「「「うおおおおお!」」」


 4月の入学式の日のHR、私が自己紹介を始めた時にも似た歓声が挙がる。意味合いから規模から何から何まで違うが、湯沢さんにもきっと届いただろう。


 その時、湯沢さんの目が、私の目と、合った気がした。


「うわっ、湯沢がペースアップした!?」

「いける、いけるぜ!」

「そのまま、そのまま……!」


 パンッ


「「「「やったーーー!」」」」


 僅差で湯沢さんがゴールラインを切った。僅差と言っても、写真判定とか審判協議とかそんなことをするまでもない差ではあったが。


「おっしゃー、優勝ー!」


 いつもの、湯沢さんの元気な笑顔が見えた。



 地元に戻った私たちはすぐに学校に向かい、湯沢さんの優勝を報告した。もちろん、報告したのは引率した先生だし、そもそも、テレビの報道番組やネット経由であらかじめ地元にも知られていたのではあるが。秋以降にも各種大会はあり、それまでの予定が話し合われた。どうやら、湯沢さんPR企画が再スタートしたらしい。


 その後、他のクラスメート達も集まり、もはや定番となったカラオケショップで祝勝会を行った。


「いやあ、ベタだったけど、やったな!」

「なるほどなるほど、湯沢の決定打には俺たちの応援が必要だったのか」

「ちょっとー、普段の努力や体調管理が前提なの、わかってるでしょ?」

「それでもですよ。応援はモチベーション向上が大きい、これまでの周回ではあまり重視していなかったかもしれません」

「だなあ。安積さんのおかげだよな」

「そんなこと、ないと思うけど」


 我ながら、突発的な反応をしたものだと思っている。はっきり言って、いきなり声を出して逆効果ってこともあったはずだ。特に、今回のような不安定な状況の時には。


「いーや、今回ばかりは菜摘ちゃんのおかげだね。みんなには悪いけど!」

「ん? どういうこと?」

「いやあ、あの迫力ある選手が近づいてくるのを感じた時、『うわー、またかー』って思っちゃってね。まあ、決勝に進出した時はいつもそうだったんだけど」

「だけど?」

「声が聞こえて、菜摘ちゃんの姿を見たら、入学式の日のことを思い出しちゃって。『ああ、これまで(12回ループ)とは違うんだな』って」


 え、それって……。


「だから、菜摘ちゃんのおかげ! 他のみんなの応援は蛇足!」

「うわ、ひでえ」

「うそうそ。嬉しかったよ、みんなの応援も、横断幕も」

「んー? 湯沢、もしかして照れてるのかー?」

「ち、ちがわいっ! ええい、柿本、こんな時だけ偉そうに!」


 わいわい


 なんかはぐらかされたけど、まあ、結果オーライなのかな? でも、『これまでとは違う』って、やっぱり逆効果の可能性もあったんだよね。こう言ってはなんだけど、他の選手にだってこれまでの努力や工夫があったのだし、応援している人々だっている。それらをひっくるめての、今回の結果だったのだ。やはり、予測不能なことは予測不能であると肝に銘じるべきなのだろう。


 ところで。


「ところで、過去の周回でも1回だけ、優勝したことがあったのよね? その時も、みんなが応援に行ったとか?」

「いや? 相手選手がドーピング発覚で出場停止になっただけだけど」

「え?」

「え?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 陸上競技界の闇は深い ループが続くなら以後は事前に大会運営に参加選手の中にドーピングをしている人間がいると匿名で密告かなw
[一言] 過去の優勝の経緯が笑えました。
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