イレーネ、誘惑する
その三人の中で一番年かさのある男が胸に手を当てて敬礼をした。
短く切りそろえた髪が清潔感があっていい男だ。
薬指に指輪があるので既婚者みたい。
「私は、ダニエルと申します。このたびは我々に力を貸してくださいまして、ありがとうございます。美しい女王にお会いできて光栄です」
ダニエルがそう言って、にっかり白い歯を見せて笑うと、何故か自慢げにクリス坊やがダニエルの肩に手を置いた。
「ダニエルは、俺の小さい頃から騎士として仕えてくれてるんだ」
補足のように王子がそう付け足すと無邪気な笑みを浮かべる。
それにこたえるようにダニエルも優しい笑みをみせた。
王子と使える騎士と言うよりは、兄と弟という感じに近いかもしれない。
続けて、もう一人の騎士が胸に手を当てた。
「私は、ヨキアムです! ダニエル殿の部下です! こんなに美しい人にお会いしたことがないので、すごく! 緊張してます!」
そう顔を真っ赤にさせながらヨキアムが言う。癖のある茶色の髪がピョコピョコは寝ていて、可愛らしい印象の人だ。
そして最後に一番若そうだけど、体格は一番大きい騎士が胸に手を置いた。
「……ディックです」
それだけ言って頭を下げた。
「すまん。こいつは無口っていうか、人見知りが激しいんだ。悪気はない」
王子が再び補足した。
補足されたディックは王子のいうことが正しいとばかりにうんと一つ頷く。
なんとも、それぞれ個性的な騎士の方々が揃っていらっしゃる。
「皆さんよろしくね。しばらくこちらのクリスの坊ちゃんの面倒を見なくてはいけない者同士、仲良くやっていきましょう」
私がそういうと、騎士の3人からは朗らかな笑い声が返ってきたが、近くでむすっと顔を顔をしかめたクリス坊やがいた。
どうやらご機嫌斜めらしい。
「どうしたの、クリス坊や。さっきから変な顔して」
「俺は、坊やじゃない! すでに成人している大人だ! だいたいお前とそんなに年齢変わらないだろ!?」
クリス坊やがガミガミいうので私は首を傾げて見せた。
「あら、そう見える?」
「え……違うのか?俺とおなじぐらいだろ?」
クリス坊やはいぶかしむように私を見る。
なんていうか、クリス坊やみたいな子は、あんまりルダスにいないから新鮮だ。ついつい揶揄いたくなる。
「いや、クリス様、あのどっしりとした安定感から察するに彼女はもっと上のように感じますが」
クリス坊やに少しばかり癒されていると、ダニエルがそう言った。
何そのどっしりとした安定感って……。ちょっと失礼じゃない?
私は、キッとクリス坊やを睨みつけた。
「失礼ね。女性に年齢の話はしちゃいけないって、ママに教わらなかった?」
「俺が言ったわけじゃないだろ!? こいつだよ!」
と、ダニエルを指す坊や。
でも最初に年齢の話をしたのは、坊やだし。
とはいえ、逆切れですね、すみません。
そろそろ場も温まった頃だし、話を先に進めるか。
私はちょっと憤慨している坊やの腕をとって絡めた。
坊やはびっくりして固まる。
「そういえば、これからのクリスさんのご予定は……?」
「え、よ、予定? 別にないけど……」
「あら、じゃあ、寝る前にちょっと私に付き合ってくれないかしら?」
「つ、付き合う……? 付き合うって、何を……」
坊やはそう言って、チラッと腕に押し当ててる私の胸を見てからきょどり始めた。
素直ってかわいい。
「私が使ってる天幕に来てくれる? 貴方が坊やじゃないってところ、見せてもらおうと思って」
そう言って思わせぶりに上目遣いをすると、クリスの顔が赤くなる。
「え、おま、おま、みせてもらうて、それって……」
私はしっかりとクリスの腕を抱きしめて胸を押しつけながら、他の護衛達に目を向けた。
「今日は悪いけれど、彼、貸してもらうわ。一緒についていくなんて、野暮なことは言わないでね」
そういうと、戸惑うように一様にして目を見開いたが、ダニエルが慌てたように口を開いた。
「しかし、そうしますと護衛が……」
「構いません。今日ぐらいはいいでしょう」
ダニエルの言葉を遮るようにゆったりとした声が響いた。
声の主は、いつの間にか近くにいたアレクシスだ。
彼の後ろにはどこか不満そうな顔をしているグンテがいる。
どうやら無事にグンテの説得に成功し、私の計画を後押ししに来てくれたらしい。
「アレクシス様、しかし、王子の護衛が手薄に……」
「たまにはいいではありませんか。せっかく快楽の国に来たのです。……殿下にもそろそろ大事なものを捨てる時期がきたのかもしれません」
「ア、ア、アレク! おまえ! お、俺は別に、大事なものなんて、とっくに、あれだよ、その、別に、捨ててるようなものだからな……!」
焦って放ったクリスの言葉が彼が童貞であることを物語っていた。
童貞卒業の言葉に、3人の騎士は妙に納得した顔になり、王子にガンバレの眼差しを送って私とクリス坊やを見送ってくれた。




