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快楽の国の女王  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ


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成人の儀③

 人数的には、グッドガル家とケイマール家の騎士たちの方が数は多いが、武器をもつカルバネア家の騎士相手では不利過ぎる。

 

 しかもグッドカル家の家紋をつけた騎士達は陛下の御身を守るためにそばから離れられない。

 そしてそのあたりには、怯えた顔で眺めるだけのユーリアスもいた。

 彼は未だにショックに立ち直っていないらしい。

 ユーリアスが呆然としていたところから察するに、彼はこの事態をまったく知らなかったらしい。


 ユーリアスのことが気になったが、そのユーリアス派閥であるカルバネア家の騎士達が剣を構えて間をさえぎってきたので、見れなくなった。


「何を言う! 私はスプリーン王国第二王子、クリスティアン=エルド=スプリーン本人だ。私に刃を向けることはすなわち王族を手に掛ける覚悟があるということか!」


 クリスティアンの堂々とした声が響く。

 明朗とした彼の声は、次代の王に相応しい貫禄だった。


 グッドガル家の騎士に守られるようにしていた王も毅然と顔を上げた。


「そうだ! この私が間違るはずもない! あの者は間違いなく我が息子、クリスティ……ン、グ!」

 王が、息子の名を呼ぶちょうどその問いに、ドンという嫌な音が響いた。そしてくぐもった陛下の声。近くにいた王妃の悲鳴。


 そこには、王がいるその場所には、踊り子が良く着るような服を着用した女がいた。

 そのものが、青白い顔で小さい短剣を王の胸に差していたのだ。


「この曲者が!」

 周りにいたグッドガル家の騎士たちが女を捕らえる。

 残りの騎士は膝をつく王の介抱に向かう。


「おお、王よ! なんということだ! ……おのれ、暗殺者め!」

 そう言ってカルバネア当主は、騎士から自分の剣を受け取ると大きな足取りで王のもとに向かう。

 そしてその勢いでグッドガル家が捕らえていた踊り子の服をきた女の首をはねた。

 式典の会場に血が舞う。


 再び、王妃をはじめ、淑女達の悲鳴が鳴り響く。

 そんな芝居がかったことを行ったカルバネア家の当主は、獣じみた鋭い目を私に向けた。


「あの恰好は、ルダスの踊り子であろう! やはりこの者達は、陛下を害そうとしていたのだ! あの男はやはり偽物に違いない!」

 カルバネア家の当主の声に、会場が震えた。

 周りから敵意と、戸惑いの視線を感じる。


 これはしてやられた。

 カルバネア家の騎士たちの鋭い剣先が私達に向いている。


 カルバネア家の騎士が、待ち構えていたように剣を持って現れた時から嫌な予感がした。


 彼らは、もともとこの儀式のときに、王を殺すつもりだったのだ。

 しかも、ルダス一座に罪を着せる形で。

 

 もともと武官を多く輩出するカルバネア家は、内政に注力する現在の王に不満があったのだろう。

 しかもなかなかユーリアスに玉座を明け渡さない。

 痺れを切らして、強硬手段に出ることにしたのだ。


 私は、白いドレスのスカートを縦に破る。

 あらわになった太ももから引っ掛けていた大鞭を取り出した。

 パシッと鞭を床に打ち付けて音を響かせる。


「その女性はルダスの者ではないわ。ま、ここで言ったところで貴方達は否定するでしょうけどね」


 憐れな女性に視線を向ける。

 おそらく何かで脅されたてするしかなかったのだろう。家族を人質に取られていたダニエルと一緒だ。酷いことをする。


 けど、運が良いことに短剣は確かに王に刺さったが、傷が浅いようで即死にまで至ってない。

 すぐにでも治療すれば、命を取り留める可能性がある。


 私が王を観察していると、王はキッと鬼の形相で顔を上げた。


「クリス! 私のことは気にせず、成人の儀を行え! そしてそのまま王位指名を行うのだ!」

 王の突然の宣告に、場が騒然となった。次の後継を選んだのである。


 本来なら、その時点でもうほとんど決まりなのだが、しかしカルバネアの騎士は此方に向ける剣を下ろさなかった。


「父上、それは……!?」

 狼狽えるクリスに私は視線をむける。


「陛下の言う通りよ! あなたは、成人の儀を終わらせて! ここは私達で抑える」

 私はそう言って前に出た。

「だが……!」

「この場をうまく納めたとしても、もし王が命を失えば、次の王は唯一成人の儀を済ませて王位継承権を持つユーリアスに決まってしまう。それを止めるためには、貴方は王が存命のうちにきちんと王位継承権を手に入れなければならない」

「……!」

 クリスが王の真意を理解したのか、分かったと小さく声を出して、先ほどから可愛そうなぐらい狼狽えている白いひげの祭司に頭を見た。


「祭司殿、どうか、儀式の続きを早く!」

「ふぁ、ふぁい!」

 クリスに促されると、さらに顔色を悪くさせてプルプル震えていた祭司は、返事をした。

 かわいそうに。

 けれど、震えながらも、彼は祝詞の言葉を紡ぎ始めてくれた。


 となれば後は、この場をどうにかするだけだ。すくなくとも、彼が王位指名式の祝詞を聞き終えるまで。


 大きく、渾身の力で鞭を振り下ろす。鞭がしなり、床を叩く音が響く。

 何人かが大鞭に打たれて尻餅をつき、剣を落とした。


「貴方達が敵に回したのが誰なのか、きちんとその体に刻んで差し上げてよ」



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