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快楽の国の女王  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ


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アレクシスと戦駒盤をする

 アレクシスとの戦碁盤勝負は、手が進むにつれて盤上が複雑になって来た。


 予想はしていたけれど、アレクシスの戦駒盤の腕前はなかなかのもの。

 というか、定石に忠実で手堅い一手を打ち込んでくるその打ち方はクリスと似てる。

 いや、クリスがアレクシスに似てる、と行ったほうが正しいのかもしれない。


「あなたがクリスに戦駒盤を教えたのよね」

 先ほどまでずっと無言だったけれど、ある程度彼の打ち方が分かって来たので私は一手返したついでにそう尋ねた。


「ええ、そうです。ですが、もう殿下に教えることはないでしょう。特に最近はあなたに鍛えられているので、打つと私のほうが負けがこみます」

 彼も盤面を見ながらそう答える。


「そう。でも、貴方は殿下に本気を出したことはないでしょう? あなたはいつも指導をするための戦駒盤しか打たない」

「どうしてそう思うのですか?」

「クリス殿下の戦駒盤の腕前はなかなかのものだけど、あまりにもお手本すぎるものばかり。きっと綺麗な勝負しかしてこなかったのだと思ったの」

 私がそういうと彼は顔を上げて私を見た。

 最初はぽかんとした顔をしていたけれど、みるみる顔に笑みが浮かぶ。


「ふふ、そうなんです。ばれましたか。殿下は本当に素晴らしい方で、教えたことはすぐに吸収してくださいます。ですから私は、彼に正道だけを学ばせました。綺麗な道を綺麗なままで。王とはそういうものです。だって、殿下は王になるべき方ですから」

 そう言って心底楽しそうに微笑むアレクシスに私は鋭い視線を向けた。


「綺麗なだけでは、国を治められないわ」

「問題ありません。汚い部分は私が担います。殿下には、ただ太陽のように眩しく玉座にいてくださればいいのです」

「でもクリスはそれを望まないわよ。彼には、暗い部分も受け入れる覚悟がある」

 だからこそ、今日クリスは、王になるという決意をしたのだ。

 綺麗なままでいたいだけなら、きっと彼は死を選んだだろう。


 私はアレクシスを睨むようにしてみて、駒を一手進めた。

 相手の王の駒に、私の騎士の駒を寄せる。

 勝負の一手だ。

 私の一手に、盤を見たアレクシスは少しばかり眼を見開いた。


「ねえ、アレクシス、貴方トゥエールの町のこの惨状を知っていたわね? だから、貴方は王都に戻る道の中で、わざわざトゥエールを通る道を推した」

 私がそう切り込むと、盤に目が行っていたアレクシスは私に視線を移した。

 最初は驚いていたようだけど、すぐににったりとした彼特有の笑みに変わる。


「さあ、なんのことでしょう。私はただ、この道が一番安全だと思っただけです。もともと通ろうとしていた道には、ユーリアス殿下の配下のものが待ち伏せしてるという情報がありましたので」

 そう、私たちはもともとトゥエールの町ではなく、ケイマール家の領地を通って城に戻るはずだった。


 成人の儀に間に合うために王都に戻るためには、ユーリアスの領地か、ケイマール家の領地か、どちらかの道を選択しなければならなくて、ふつうに考えたらクリスの後ろ盾であるケイマール家の領地を通る方が安全だ。


 だからそこを通るつもりだったのだが、そこにはユーリアスの罠があるとアレクシスが情報を持ってきた。


 だから私達は危険なユーリアス殿下の領地、トゥエールの町を通ることにしたのだ。


「私はね、疑い深い性格なの。念のためと思って、ルダスの子にもともと通る予定だったケイマール領の様子を見てもらったわ。そして見てもらった結果、ユーリアスの配下がそこで待ち伏せしてる形跡はなかったみたいよ」

 余裕の笑みを浮かべなら、ゆっくりとそう言うとアレクシスはさらに笑みを深める。


「さすがですね。密偵も飼っているのですか」

「飼ってはいないわ。ルダス一座の中にたまたまそういうことも得意な子がいるだけ」

「なるほど、お噂通りですね。快楽の国ルダスは小さな移動国家で、住民は全てが英雄、天才足り得る者達であり、そこを統べる女王は稀代の名君だとか」

 感心するようにそう行ってからアレクシスは、先程から見せる笑みを消して私を見た。


「確かに、私は嘘をつきました。殿下にはトゥエールを見てもらいたかったのでこの道を選ばせました」

「クリスに王になってもらいたくて?」

「そうです。あなたも知っているでしょう? 殿下は素晴らしい王になれる。その可能性を多く秘めているのです。臣下となるのなら、私は素晴らしい王に仕えたい。それなのに殿下は王にはならないとおっしゃるので……本当に、ここまでとても大変でした」

 ばれたのなら、もはや何も隠すことはないとばかりにペラペラとしゃべり始めたアレクシスに、私は疑いの目を向けた。


「ねえ、ユーリアスをそそのかして、弟を殺させようとしたのは、貴方?」

「さて、そそのかす? どういう意味でしょう?」

 まるで何も知らないかのように白々しく驚いた顔をしてみせたアレクシスに私は目を細めた。


「確かに、ユーリアスは、王とするには物足りない人だったかもしれない。でも、ユーリアスの動きは明らかにおかしい。もともと彼が即位をするのは既定事項だった。それなのに彼は何か焦るかのように余計なことばかりして、結局自分の首を絞めている。最初に、弟が王位欲しさに兄王子の命を狙っていると嘯いてユーリアスに恐怖心を植え付けた者がいる気がするわ。そしてその唆したのは、貴方なのではなくて?」

「たくましい想像力をお持ちのようですね」

 そう言って、笑顔を貼り付けて、アレクシスは私の話を流した。

 どうやら認める気は無いらしい。


 でも、おそらく私が言ったことは真実に近いと思う。

 彼はクリスが王になる覚悟を持たせるために、ユーリアスをそそのかしたのだ。

 命を狙っている、玉座を狙われている。

 アレクシスは、直接、もしくは間接的にユーリアスの恐怖を煽り、玉座に固執させ、弟を切り捨てるように誘導した。

 そして今の状況をつくりだしたのだ。

 大した策士だ。

 素晴らしい才能だと思うけれど、だからこそこんなことに使ってしまうのが惜しい。


「クリスはバカじゃ無いわ。あなたが隠していることなんてそのうち暴かれる。そうなったら、きっと彼はあなたを許さないでしょうね」

「次代の王に信頼されないのは、辛いですね。ばれないように、一生懸命隠してみせますよ」

 自信たっぷりにアレクシスはそういうと、駒を置いて立ち上がった。


「すみません。この勝負は私の負けのようです。本当にお強いですね」

「あら、もう終わり? 私に何か話したいことがあったから、戦駒盤に誘ったのではなくて?」

「ええ、そうですね。話したいことがあってきてました。これから殿下は険しい道を歩まれますので、しばらくご協力頂きたいと相談したかったのですが……貴方は少し聡すぎる」

 そう言って冷たい視線で私を見下ろすと、アレクシスは優雅な礼をして部屋から去っていった。





「なかなかの食わせものねぇ」

 彼が去ってった扉をみて思わず呟くと、疲れがどっと出てきて背もたれに深く身を預ける。

 それを見たローベルトが「何か飲まれますか?」と聞いてくれたので、水を一杯お願いした。


「私もまんまとアレクシスの策にハマったのよね。クリスの背中を押してしまった」

 いやだって、あんなにキラキラ輝きそうな才能が目の前にあったらちょっかいかけたくなるじゃない! 人間だもの!

 きっと私が彼に興味を持つことも彼の計画の一つだったのだろう。


「クリスティアン殿下に、アレクシスが隠していることを伝えますか?」

 ローベルトにそう尋ねられて、口を閉ざす。


 クリスがそのことを知ったら、どうなるだろう。悲しむのは確かだ。クリスはアレクシスに信頼を寄せている。

 それに……。


「これは、クリスが自ら気づくべきことよ。アレクシスは隠し通すつもりのようだけど、クリスならいつか気づくでしょう。気付いた時にどう感じ、どうするのかはその時の彼次第」

 私がそう答えると、ローベルトは少しだけ目を丸くした。


「本当に、彼のことを気に入っているのですね」

「まあね。なかなか面白い子だもの。そういう意味では、アレクシスのことも気に入ってるの。目的のためなら、倫理観や大事な人の感情を無視してでも、より良い道を見つけて動ける。軍師向きね。でも、私はもっと彼には向いてることがあると思うわ」

「例えば?」

 と問いかけてくるローベルトに、私はニッと笑って見せた。


「彼、料理が得意なのよ。野菜の皮むきの速さはすごかった。それに何より、段取りを取るのと、人を動かすのが上手い」

 ルダス一座の生活面を支える昼組の仕事は、段取りを上手く取れる能力が必要だ。

 今の昼組のリーダーであるジークは、もともととある屋敷の執事として務めていて、段取りを取ることがすこぶる上手い。

 ただ、彼は人を動かすことに慣れていないというか、好きでは無い。誰かを補佐することが得意で、昼組のリーダーになることに関しては乗り気ではなかった。

 でも、アレクシスは、元々が貴族の生まれ。人に命令を下すことに慣れている。

 人を動かすすべも心得ている上に、段取りを取る能力も素晴らしい。

 普通に出会っていたならルダスで働かないかとスカウトしていたところだろう。


 しかし、彼はちょっと性格に難があるし、クリスから離れないだろうから誘うだけ無駄である。


「本当に気に入っているのですね」

 どこか寂しそうな声でローベルトが声をかけてきて、顔をあげた。


「ふふ、もしかしてローベルトったら、嫉妬でもしてるの?」

 なぜか深刻そうな顔でローベルトがいうものだから、面白くてからかうようにそう返す。

 私がそういえば、彼は笑って『随分とませたことを言うようになりましたね』と兄のような微笑みで私を嗜めるだろう。

 彼とは、私が八歳ぐらいの時に道端で拾ってからずっと一緒。家族みたいな感覚だ。


 そう思ったけれど、彼はなぜか苦悩するような瞳で私を見た。


「……そうだと言ったら、貴方はどうされますか?」

 思ってもみない単語が出てきて、少しばかり目を見開いた。

 試すような瞳が、私を見る。

 なんといえばいいかわからなくて言葉に詰まっていると、ローベルトはふっと息を吐くように微笑んだ。


「冗談ですよ。イレーネ様が意地悪なことをおっしゃるので少しからかってしまいました」

 そう言っていつもの優しい兄のような笑みを浮かべた。


 ちょっと!? めちゃくちゃ焦ったんですけど!?

 私は不満気に口を膨らましてやった。

 ちょっと子供っぽいけど、致し方ない。それに、ここにはローベルト以外誰もいないのだ。もう必死になって女王然としなくてもいい。


「ローベルト、次に私をからかったら減給に処するわよ。まったく。それと、明日は、計画の変更点について詰めていくから、朝早くに会議。幹部を集めておいて」


 私がそう命令すると、御意といつもの涼し気な顔でローベルトは応えた。

 まったく。ローベルトはたまに、冗談なのかどうなのかわからないことを平然というから、困る。




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