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快楽の国の女王  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ


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王子の決意

 日暮れ過ぎにクリスは戻ってきた。

 彼は大事な話があると言って、借りた部屋の中で一番大きい部屋に殿下御一行と私達ルダスの幹部を集めた。

 部屋のテーブルには王子御一行が席をつき、私たちルダスは壁際に立つ。


「悪いが、みんなに話がある」

 クリスはそう言った。

 その顔に迷いが無くて、とうとう決めたのかと私は思った。

 彼の近くにいるアレクシスがそれはもう嬉しそうな顔をしてる。


「俺は成人の儀にて、王位継承権を放棄するつもりだったが、それをやめる。みんなには俺のわがままに付き合わせて悪かった」

「殿下、では……」

 と驚きを隠せないでいるグンデに、クリスは頷いた。


「俺は、王位を継ぎたいと思う。兄上を押しのけてでもだ。おそらく派閥を二分する大きな争いになるだろう。でも、俺はそれでも王になる。……皆には俺のわがままでここまでつきあわせたけど、この先も俺のわがままについてきて欲しい」

 そう毅然とした態度でクリスが言うと、最初に反応を示したのはグンデだった。


「おお、若……! 勇ましくなられて……!」

 グンデはそう言って、感動ですすり泣く。


「ケイマール家はもともと貴方を王位にと思っておりますので、殿下の気持ちが固まったのでしたら何よりです」

 アレクシスがそう言って賛同を示した。


 みんなの反応を一人一人確かめたクリスは、部屋の壁際でそのやり取りを立って眺めていた私達ルダスの幹部に視線を向けた。


「ということだ。お前達にも世話をかけた。俺が王位継承権を放棄するってことで、成人の儀の時の段取りも決めたが、一旦全部白紙だ。悪い」

 なんかめちゃくちゃ軽いノリで爽やかに謝られた。

 しかし、悪い気がしないのは、彼の人徳のお陰かな。

 それとも私が美しく輝きだした宝石の眩しさに目が眩んだのかもしれない。

 彼には、もうしょうがないなぁって許してしまう魅力がある。

 そう言うところが、傾国の娼婦と言われたお母さんに似てる……。


「私は構わないわよ。まあ、いろいろ振り回された分、報酬はもらうから」

「そこは少し甘く見てくれると嬉しいけど、満足できる報酬が用意できるようにどうにか頑張るよ」

 クリスが笑って請け負った。


「では殿下はこれからどうなさいますか?」

「どちらにしろ、俺はまず成人の儀に参加しなければならない。俺はまだ王位継承権は持っていない、成人の儀を行なって初めて兄上と戦える権利を得られる」

「そうですね。是が非でも成人の儀は無事に最後までおらわせないといけません」

「だが、おそらく兄上からの妨害が入る。無事に儀式を行い継承権を授与できたら、その場を離れてケイマール家にかくまって貰うつもりだが、それで大丈夫か?」

 そう言ってクリスがアレクシスに確認する。


「はい、それで問題ありません。殿下が王位につくように現在ケイマール家は準備しているはず。一度安全な場所まで逃れ体制を整えて戦をするという流れでよろしいかと」

「あとはできれば、父上とも話がしたい。父上はこのような事態になっても、俺達兄弟のことには口出しをしてこなかった。おそらく父上なりのお考えがあるはず。それを伺いたい。そして父上の協力が得られれば、兄上と戦をしなくても俺が王位につくことができるかもしれない」

 内戦がないのが一番だ。クリスは、ギリギリまで内戦を回避する方向で話をつけたいみたい。その心意気は悪くない。

 

 彼の王としての輝きが、きらきら光って見えて、その眩しさに目を細めた。

 だめね。欲しくなっちゃう。だってこれは磨けば磨くほど美しくなる素晴らしい宝石だ。


 そうして大事な話が終わると、その場で解散になった。



 今回のクリスの話で、今後の流れでいくつか変更しなくてはいけない点は確かにあるが、そこまで大きな変更ではない。すぐに話し合わなくてもどうにかなる些細な変更だ。

 なにせ私たちルダスにとっては殿下を無事に成人の儀に届けるという大元は変わってないからね。

 早速自分の泊まる部屋に行こうとしたら、なぜか私の部屋の前にアレクシスがいた。


「あら、私に何か御用?」

 私がそう声をかけると彼は柔らかい笑みをうかべる。


「ええ、クリス殿下から伺ったのですが、戦駒盤が随分お強いとか。ぜひ私とも一局お願いできたらと思いまして」

 そうニコニコ笑い顔で言うけれど、絶対にそれだけが目的じゃ無いのは明らかだ。

 まあ、でも話ぐらい聞いてもいいかな。私としても聞いておきたいことはあるし。


「構わないわよ。あ、でも、護衛を一人つけてもいい?」

 私がそういうと、ルダスの護衛官であるローベルトが私の隣に来た。

 アレクシスはローベルトをチラリと見てから私の方に視線を移して頷く。

「ええ、もちろんいいですよ」

 そうして私の部屋でアレクシスと戦駒盤を打つことになった。



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