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「なあアルジェ」
「どうしましたクリス?」
夕方が過ぎて、私が後片付けをしているとクリスが声をかけてきました。
クリスはどこかさびしそうに笑ってこちらを見ました。
「お前さ、ジュニアスのことどうおもってるわけ?」
「どうとは? お友達ですわ」
「お友達……か」
ふうとクリスは長くため息をつきました。
そして私の目をまっすぐに見て、そして小さくつぶやいたのです。
「俺さ、ずっとジュニアスとお前のこと応援してやろうと……」
「え?」
「でも……できなさそうだ。悪い、俺これ以上ここにいることが……」
クリスが切なげに笑いました。
今まで見たことがない表情です。私の手をぎゅうっとクリスは強く握りしめ、そして私の体を引き寄せ抱きしめました。
「クリス?」
「俺、ずっとお前を見てきた。そしてお前がさ……いつか」
「クリス?」
「俺はずっとずっとお前を……好きだ。今も好きだ。友達としてじゃねえ、一人のさ……男としてお前が好きだ! でもお前の目はずっと俺じゃないあいつを見ている。俺は祝福してやろうと……でも」
クリスは切なげにまっすぐに私を見ました。私の顎をあげて……。
「いや、いやです!」
「悪い……でも俺はお前を好きだ。友達としてでもなく愛している。それだけがわかってくれ、お前とあいつを見るのがつらい。俺は幸せを願っているんだお前の……でも」
辛い、悲しい、苦しい、そんな心が流れ込んできます。
クリスの目が私を見て、どうしてこんなことにと呟きました。
「俺、黙っていたけど、俺にも囁く声があるんだ」
「え?」
「お前を奪え、そしてお前を……そんなのはダメだ。わかっている。でも心が引きずられる。だから俺はダメだ。俺は……悪い、もう」
「クリス、私は!」
「俺はお前を愛している。そしてあいつのことも好きだ。だから俺は……この声にあらがう。でもここにいたら無理そうなんだ!」
声が聞こえてきます。暗い暗い声、愛しているのに、どうしてわかってくれない? ずっとずっと一緒にいたのは俺だ。
なのにどうして? という声が。
それに重なるように愛しているのに裏切ったという声も……。
「クリス、しっかりしてくださいまし!」
「お前、ジュニアスのこと……」
「クリス、私、ジュニアスさんのこと多分、す……」
そういおうとした瞬間、扉が乱暴にあいてアッシュさんが険しい表情で入ってきました。
そして杖をクリスに向けたのです。
「アッシュさん?」
「闇の気配がクリスさんからします。捕縛させてもらいます」
「俺は!」
奪え、そしてお前の思いを遂げろ! という声が聞こえ、クリスがそんなことじゃない、好きだってことはそんなことじゃないと絶叫した途端、黒い光がクリスからあふれ出しました。
「クリス、クリス、負けちゃダメですわ闇に!」
「……俺は、絶対にアルジェの幸せを祈る。だから消えろ、消えろ!」
クリスが叫んだ途端、闇の光が消えていき、そして声も聞こえなくなりました。
私がクリスにかけよりぎゅうっと抱きしめると、クリスが床に倒れ落ちます。
「闇の気配が消えた?」
「アッシュさん、クリスはもう大丈夫ですわ。お願いですベッドに運ぶのを手伝ってくださいまし」
「え、ええ」
クリスの体をアッシュさんが抱き上げます。
闇の気配はしません。でも声も聞こえなくなりましたが……。
「クリスさんから闇の気配がするとティンカさんがちらっと言われましてな」
「ティンカさんが?」
「ええあなたに心配をかけたくないから調べて祓ってやってくれと」
ティンカさん、うーん、少し様子がおかしかったですがなぜ言ってくれなかったですよ。
なんというか……うーん、悩んでいるとティンカさんが飛んできてごめん、クリス大丈夫? と泣きながら言ってきたのです。
「あんた、乱暴にしないでって言ったじゃない!」
「いや私は何もしていません」
「クリス、クリス!」
「ティンカさん、クリスは大丈夫です。でもどうして私に言ってくれませんでした?」
「だってあんた最近ずっと元気なかったもん、そんな時にクリスも変っていったら心配するって思ったんだもん! ジュニアスは忙しそうだしい、私、私……」
わんわんと泣くティンカさん、心配しないでと私がティンカさんを抱きしめます。
小さいからだをきゅってしたらごめんねとティンカさんが謝ってくれました。
気にしていないというと、クリスごめんねと謝ります。
クリスは意識がないようですが無事のようでした。




