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【憎しみ、悲しみ、絶望……】
長い銀の髪の少女が泣きながらどこかにいます。
私は闇の中、銀の少女が泣く姿しか見ることができません。
【それがあるのなら、我が手を取れ】
少女がいやと首を振ります。しかし声がさささやき続けます。
とても暗くて怖い声です。
【お前を裏切った者たちに、穢れた竜たちに復讐をと思わないのか?】
いやとまた首を振る少女、そうすると声が何か映像のようなものを見せ、そこには幸せそうに笑う銀の竜たちが映っていました。
【幸せそうだな、お前を裏切った竜たちは……】
泣き続ける少女、愛しているとささやいたことは嘘だったのだとまた声が囁き、少女は……。
「うー、朝」
「おはようございます。アルジェさん」
「あう、ジュニアスさん、私またカウンターで寝てましたの?」
「そうみたいですねえ」
「ジュニアスさん」
私が言葉をかけると、どうしました? と小首をかしげるジュニアスさん。
私はどうしても私の中にいた邪悪とも思える存在と、悲しく泣いていたシルヴィアさんが同じだとは終えませんでした。
だからジュニアスさんに尋ねてみたのです。
「まだ魔獣は封印されていますの?」
「え?」
「復活の予兆などはありませんの?」
ジュニアスさんは困っています。確かに魔獣は封じられているといわれてますが、しかしどうしたってあの声は暗いものがありましたわ。
「魔獣が今回のことに関係している闇ならば、王家の機密ということもつじつまがあいますのよ」
私はおじい様から聞いたことありましたのです。
魔獣を最初に封印したのは実は、今の王家の初代で、もし恨んでいるとしたら魔獣も王家を恨んでいるはずなのですよ。
なら、私を利用して王家に復讐とかするなら、魔獣の可能性もあると思いました。
「それも考えられますね。確か王家の先祖の英雄と言われた青年が魔獣を封じたそうですから、力を貸したのが確か銀の竜……」
「そうなのです。だとしたら魔獣は銀の竜と王家を恨んでますもの。銀の竜は英雄に一時力を貸しただけで、盟約を交わせず、それを確か今の王家は悔やんでいたそうですもの、これはクリスが聞いてきたことなのですが……」
クリスはあれからおじ様に話を聞いてくれましたですよ。
そうするとこの事実がわかりましたの。
アッシュさんには内緒にしてます。だってねえ。
「アッシュさんも何か隠してます」
「私もそう思います。アルジェさん」
銀の竜と銀の魔法使いが魔獣を封じて、しかし数百年おきに魔獣がよみがえるなら……数十年でよみがえる可能性もあるのです。
なら、今私の中にいるという存在もその一部の可能性もありますもの。
「私、呪われて……」
「いませんよ、大丈夫です。私がアルジェさんを守ります。それに伴侶は……」
「え?」
「私、伴侶は竜と決めていません。あのアルジェさん私が愛しているのはあ……」
「おーい、ジュニアス、アルジェ、飯にしようぜ!」
うーん、ジュニアスさん何か言いかけましたが、ばんと扉を開けてクリスが入ってきた瞬間、肩を落としましたですよ。
はう、どうしていつも残念そうなのでしょうか?
私も調べてみますねとやさしくジュニアスさんが笑いました。やっぱり胸がドキドキしたのですよ。




