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「何も感じません」


「確かにか?」


「ええ」


 王都から闇の魔法使いの人が来てくれました。移動魔法ならすぐらしいですよ。

 でも私を見ても何もと首を振ります。


「闇の気配は?」


「いいえ何も、ただの魔力が強いお嬢さんです」


 闇の魔法というものはその痕跡を残しやすいそうです。ちなみにユライさんには何か少し黒いものを感じたそうですが、過去のもので消えているそうです。

 うーん、私の中に何かいるのは確かなんですけど。


 黒髪のお兄さんはすみませんと謝りますが、仕方ないです。ほかの魔法かもしれないですよ。


「わかりませんねえ」


「父はもうすぐしたら母ときてくれますから、話をしてみましょう」


 数日たちましたが、特にへんなこともなく過ごしています。クリスもじいと私を見ています。

 クリスに話をしてみましたがやはり違和感は感じないと言っていました。

 わかりません、それにお守りのおかげかこの数日いやな夢は見ていません。ゆっくり寝てます。


「ジュニアス」


「ジュニアス、来たわよ」


 扉が開いてジュニアスさんとよく似た顔立ちの青年と、そして私より少し年上といった外見の女性が入ってきました。

 銀の髪に緑の瞳をしたとてもきれいな人たちです。ジュニアスさんのご両親です。


「お久しぶりですな、ジュリアン殿」


「久しぶりです。アッシュさん」


「お変わりなく……」


「アッシュさんも」


 おば様は私のほうへと歩いてきてお帰りなさいと優しく笑顔で私を抱きしめました。そういえばまだ一度もお会いしてませんでしたよ。


「おば様、お……触るな、穢れし竜よ」


 私がどんとおば様を突き飛ばします。みな驚いた顔で私を見ています。


「愚かな女、お前が私の大切な者を奪った。消えろ、消えてしまえ!」


 私の口から私ではない人の言葉が流れます。私は口を閉じようとしますが体の自由が利きません。

 違う違うと首を振りたいですが、まったくだめです。


「ばかばかしい茶番だ、どうして……」


「シルヴィ……ア?」


「穢れし竜、裏切り者よ、お前にかけた呪いは終生解かぬ、穢れし……」


「アルジェさん!」


「お前を……ジュニアスさん、たすけてくださ……」


 ジュニアスさんの声を聞いたとたん、呪縛が解けたようです。なんとか言葉を振り絞りました。

 私はジュニアスさんが走ってくるのを見て、助けてと腕を伸ばします。


「……愚かなこと、哀れな……こと」


 強い目で私がジュニアスさんをにらみつけているようです。あう、また自由が利きません。


「ルードエイリアス!」


 私の口から知らない呪文が漏れます。ジュニアスさんに向かって何か黒い光が走ります。だめです!

 そう思った瞬間、おじ様の口から歌のような一節が聞こえ、闇を吹き飛ばしました。


「アルジェさん!」


「ジュニアスさん、ごめんなさ、ごめんなさいです。あう……ルード・ファリス!」


 ぎゅうっとジュニアスさんが私を抱きしめました。私の口からまた呪文のようなものが漏れます。

 それはまっすぐに闇の矢となりおじ様に向かって走ります。またおじ様が闇を吹き飛ばします。


「……たすけ……」


「アルジェさん、アルジェさん、アルジェさん!」


「……助けてくださいで……あはははは、まだこの娘は我がものとは……今日のところは……」


 私の頭がずきずきと痛んだかと思うと、ふうっと私の意識が闇に沈みました。心配そうなジュニアスさんの顔が見えます。

 お願いですかなしそうな顔は見たくないんです。

 だから私の中に誰かいるなら消えてほしいです……私の中から何かが消えていくのを感じた瞬間、私の頭はまた痛み出し、そして意識が闇に沈んでいきましたです。


 お願いだから助けてあげてという声が聞こえて、白い光が私を包み込みました。

 それだけは覚えていたですよ。

 暖かい、そう思った瞬間、目の前に綺麗なお花畑が広がりました。

 とても幸せな気分になりましたが、でも私のものではなさそうでしたですよ。




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