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「そうですな、その発言を聞いている限りシルヴィアが連想されますが……」
「私の中にシルヴィアさんがいるですか?」
「可能性としては魔法で精神に寄生して少しずつのっとるというものがありましたから……しかしそれは闇属性であり、シルヴィアは使えないはずですが」
アッシュさんに朝相談してみると、うーんと首を傾げて考え込んでいましたが、可能性としてはシルヴィアさんを連想させる何かが精神を侵食しているかもしれないとのことでした。
心配そうに私に寄り添うジュニアスさんを見て目を細めて少し嬉しそうにアッシュさんは笑いました。
「ジュニアス殿、そなたは長老の言う事に振りまわれない様に……」
「ええ肝に銘じます」
銀の竜の長老はお年寄りで千年近く生きているそうです。
おじ様とシルヴィアさんを引き裂いたのも長老ってきいたらいい感情はもてないですね。
「アルジェ、どうしたの深刻な顔して?」
扉がぎいっと開いてパタパタと飛んでティンカさんが入ってきました。開館時間になっていたんですね。深刻な顔で話し合う私たちを見て不思議そうな顔をしています。
「ティンカ殿」
「なあにアッシュさん?」
二人は顔見知りになってます。さすがに52歳に向かってアッシュなどと呼び捨てにはティンカさんでもできないようです。
「聞いたところによるとユライに不可解な気配を感じたとか……」
「うん今はしないけどね」
「アルジェ殿にもそのような気配を感じますか?」
「ううんぜんぜんしないわよ?」
不思議そうにたずねるティンカさん、そういえばティンカさん一人がユライさんに変な気配がするといっていたのですね。
妖精さんですからでしょうか?
「そうですか……」
アッシュさんはティンカさんが何か気配を感じとれるのでは? と思ったようです。
しかしティンカさんは私の周りを飛び回り、わかんない何も感じないと首をひねります。
「どうしたの何かあったの?」
「私、どうも変なことを口走るようなんです。ジュニアスさんに触れるなとか攻撃魔法をしかけようとかしたんです……」
「うーん、それは確かにあんたらしくないというか、アルジェなら絶対言わないししないわね」
うーんとまた首をひねるティンカさん、長もそんなこと言ってなかったし、おかしいなといいます。
確かに長は何も言ってなかったです。ティンカさんより魔力は強いから私に何かあればいってくれるはずですよ。
「そうですな、私が見たところも何も感じませんし、一応魔物封じのお守りを渡しておきます。王都から闇が専門の者を呼び寄せましょう」
「お願いします」
私の手に銀の札のようなものをアッシュさんは握らせてくれました。魔物封じのお守りは気休め程度ですといわれましたですよ。
「私、やはり父と母に聞いてみます」
「それもあわせてお願いたほうがよろしいですな。ジュリアン殿に私もお会いしたいですし」
「ええ、話をします。後、シルヴィアさんのことも聞いてみます」
「お願いしますです」
どうしたって不安です。私の中にもう一人の知らない人がいるようなのですよ。
うーん、そうですねそういえばおかしな感じがしたのはおじい様からシルヴィアさんのお話を聞く……いえ王都にいたときもそんなことというか……。
「シルヴィナさんのお顔……」
「どうされましたアルジェ殿?」
「いえ、夢でみたんですがシルヴィアさんは緑の目に銀の長い髪、顔立ちはどちらかというと可愛らしい感じのお人ではないですか?」
「そうですな、よく外見から麗しいといわれましたが、アルジェ殿のようなおきれいな顔立ちではなくどちらかというと可愛らしいと形容されるものでしたな」
「私、似たようなお顔の方を見たことがあるというか……クリスティーナさんがシルヴィアさんに似ておられると思ったことはないですかアッシュさん?」
私の言葉にうーんと首をひねるアッシュさん、そうですなんとなく感じがクリスティーナさんに似ているような気がしたのです。どこかで見たようなと思ったのですよ。
「私はそうは思いませんでしたが……数度宮廷で見たことがありますが」
「なんとなく感じがです。後私、一度クリスティーナさんが泣いているところを見たことがあるんです。その泣き顔が感じがよく似てましたです」
しかし可愛らしい顔立ちといってもシルヴィアさんのほうがおきれいな方でした。
かわいいといわれる顔立ちといっても作りが違います。
気のせいでしょうかと私が首をひねると、シルヴィアの血縁の可能性もありますなというアッシュさん。
「血縁ですか?」
「ええ孫、もしくは娘、年齢からして孫が一番可能性がありますな」
確かに血縁なら似ていても当然ですし、クリスティーナさんの魔力は強いです。確かに同じ血に連なる人から魔力が強い人は生まれやすいです。
ジュニアスさんはその可能性も視野に入れましょうといいます。
うーん、ほかに見落としていることがありそうなのですがね。
「その線も調べさせましょう。確かにあの娘の魔力は庶民が持つものにしては大きすぎますからな」
「お願いしますです」
しかし私の中にいる何か得体のしれないもの、いったいなんでしょうか? 私は銀の札を握り締めふうとため息をつくことしか今はできませんでした。
「アルジェさん、あの落ち着いたら私、お話があります」
「え?」
「私はもうすぐ成人です。その前にあなたにお話したいことがあります」
「はいお伺いしますが」
「ええ、落ち着いたらお願いします」
ジュニアスさんはにこっと笑います。ミニチュアドラゴンさん、かわいいですよ。
私と同じくらいの背丈になっていますが、銀のドラゴンさんの姿で昔はずっと一緒でした。
ジュニアスさんは私の手を握り、大好きですと小さく囁くと、ティンカさんとアッシュさんはそろそろ図書館を開けようといって離れていってしまわれました。
「私も大好きですわ」
「……成人する前に私は決めなくてはいけません」
「え?」
「アルジェさん、だから……」
「ええお伺いしますわ」
絶対ですよとジュニアスさんが笑うと、胸がどきどきするのをなぜか感じましたです。




