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図書館にも戻りました。
あ、ユライさんは目を覚ましましたよ。でも私を襲った時のことは何も覚えてませんでした。
アッシュさんが事情を話して、マリエルさんをさらった事、操られるきっかけはなかったか尋ねてくれましたが思い当たることがないと言われてしまいました。
もう不穏な気配がないとのことで、マリエルさんとアリスさんはほっとした様子でしたが……。
「しかしユライを使ってみたり、王太子殿をまどわせたりなどは……やはりあのおん……」
「あの女?」
「いえなんでもありません」
どうも何か絶対アッシュさん隠してます。でも王家の機密とか言われたら黙るしかないですよ。
少し話してくれたのはシルヴィナさんの失踪が王家に関係あるかもということでした。
「王が……シルヴィアに目をつけ……」
「今の王ですか?」
「いえ当時の王です。御年確か71歳……今の王の祖父に当たる方です」
「はぁ? シルヴィアさんっておいくつでした?」
「17歳でした」
つまり総合しますと、今の王は38歳、当時は生まれていません。王太子殿は18歳、当然影も形もいません。現王のおじい様がシルヴィアさんを求めたらしいです。
つまり当時の王は71歳、その子供王太子は15歳、若くして亡くなりました。
確か今の王が生まれてすぐですから、17か18だったらしいですよ。
その当時の王、現王のおじい様も他界していたので王妃が摂政をつとめたそうです。
「まるで呪いのようですね。シルヴィアさんが魔の獣を倒してから次々に……」
「そうですね。71歳の王がシルヴィアを側女にと望み、シルヴィナが拒否しました。では王太子妃にという声もあったようですが……闇の魔獣を倒した英雄を王家に取り込みたかったようです」
シルヴィアさんは王家に酷い目にあわされた? いえ……しかし71歳が17歳を側女とか滅茶苦茶ですよ。それに現王は38歳で元気です。
気のせいかもしれませんが。
「シルヴィアさんが生きていたら57歳ですか?」
「はい私が当時12歳で5歳下でしたから」
「おじい様が60歳ですから少し年上だったのですね?」
「ええ当時20歳でした」
うーん、お母様が生まれたのがおじい様23歳の時、今お母様は37歳、そして呪いのように銀の髪に緑の目をしていた。何かがひっかかります。
40年前の出来事から何かが連綿と続いているようですよ。
「私の父はどうだったのでしょうか?」
「当時は17歳、確かシルヴィアと同い年だったが、今も多分お若いのでしょうな」
「ええそうですね私と外見はそう変わりませんよ」
「年月というものは残酷ですな。あの時は世界を救うのは自分だなどと息まいていましたが、今はただのじじいですよ」
「まだまだお若いですよ!」
「いえ年をとりました……」
アッシュさんが寂しげに笑いました。でもおじい様はお元気ですし、相変わらずの娘馬鹿、孫馬鹿です。
52歳ってまだまだ若いですよ!
私を見て懐かしそうにアッシュさんは目を細めました。
「シルヴィアさえいてくれれば……」
「え?」
「多分もっと違ったのでしょうな」
シルヴィアさんが消えてしまって、多分アッシュさんはシルヴィアさんのことが好きで忘れられなかったのかもしれないです。
寂しそうに呟くアッシュさん、でもまだまだ人生これからなのですよ! と私が言っても説得力ないですかねぇ。
「ジュリアン殿がシルヴィアを裏切ったというのは誤解だったのですよ」
「誤解ですか?」
「御子息のジュニアスさんには知っていてもらいたいですが、ジュリアン殿はシルヴィナと添い遂げたいと長老に申し出て閉じ込められていたんです。待っていて……と言われたシルヴィアが数ヶ月しても連絡がこないジュリアン殿が心配で会いに行った時、長老がマリー・ルーさんとの婚姻が決まったと告げたのですよ。それで……」
「誤解だったのですね? 父は裏切ったわけではなかったのですね?」
「はい、しかし後でわかったことでして、その当時、実は私とグロウズ殿もジュリアン殿の心変わりを疑ったのです」
すれ違いが悲劇を生んだのですね……でもでも、シルヴィアさんの絶望はいかほどだったでしょう? その誤解を解くことはできなかったのですかね?
結局おじ様はおば様と結婚したのですから……。
「誤解は解けなかったのですか?」
「ええ、ジュリアン殿がマリー・ルーさんを庇おうとしたものですから余計……シルヴィナは嫉妬に狂い、マリー・ルーさんを攻撃しようとして……」
そういえばお母様が言ってました。
言葉にしないと伝わらない事もあるのよって、だからね誤解されない様にしっかり思っていることは言葉にするのよって……もしかしたらおじい様からこのことを聞いていたからかもしれないです。
「おば様とおじ様にも色々あったんですね」
「あなたのお母様とお父様も色々あったようですよ」
「そうですねぇ、おじい様の鉄拳制裁もあったようですから」
私の相手が王太子殿と聞いて、おじい様認めないと怒り狂ってましたからね。
ジュニアスさんはふうと小さくため息をつきました。
「私なら絶対にシルヴィアさんを幸せにしました。長老の反対など気にせず駆け落ちでもなんでもすればよかったです」
「まぁ、それほどの気概がジュリアン殿にあれば二人は幸せに暮らしましたとなったかもしれませんな」
ジュニアスさんが私のほうをちらっと見ました。何かもじもじされてますが?
ふうむ、ジュニアスさんの恋人さんになるお嬢さんは幸せなのですよ。それほどまで……何か今すごく腹が立ちましたがなぜでしょう? アッシュさんにアルジェ様とよばれるのはこそばゆいと言ったらアルジェ殿にかわりましたが、どちらも微妙なのですよ。
「過去は過去です。しかしアルジェ殿が狙われているのは確かです」
「引き続きアルジェさんを私はお守りします」
「ジュニアスさん、弟さんたちのお守はいいんですの?」
「アルジェさんのほうが大事ですから」
すぱっと言い切られましたが、あーう、それはちょっと……。
図書館に今まで通り連れてきてくださいといったらわかりましたと頷かれましたが……。
3Fにクリス、ジュニアスさん、アッシュさんが泊りこむこととなったんですよね。
なんとかなるでしょう。




