27
「アルジェリーク・アーカンジェル様ですな?」
「そうですけど……あなた方は?」
「マリエル殿は無事です。あなたを呼び寄せるおとりにしただけです。申し訳ありません」
出てきた中で一番年がいっている。つまり偉そうなおじ様が私の名前を呼んで頭を下げました。
私こんな人知りませんですが……。ユライさんが驚いた顔をしています。
「アッシュ殿?」
「ユライ、マリエル殿は無事だ。悪いことをしたとは思っているが……」
私の前にジュニアスさんとクリスが立って庇ってくれます。アリスさんはわけがわからんやつだなと炎を噴く態勢に入ってますよ。
山小屋の中で縛られたマリエルさんが見えましたが、怪我はないようです。さるぐつわをされています。
「私に何の御用なのですか?」
「王太子殿の命により貴方様を王都にお戻し……」
「どうしてなのです?」
「それは言えませんが、貴方様の身をお守り……」
わけがわかりませんですよ。ジュニアスさんが綺麗な歌を歌います。
これはドラゴンの言葉です。あぅ、攻撃系ですよ。でも攻撃なんてさせては駄目です。
「ジュニアスさん、攻撃は待ってくださいです。理由を聞いてからでも遅くはないですよ!」
「でも……」
私の言葉を聞いて歌をやめるジュニアスさん、ユライさんは慌てて山小屋に走って行ってマリエルさんの縄とさるぐつわを解きました。
「ユライ、あんたの仲間って一体なんなの!」
「いや俺もわからん……」
怒り狂うマリエルさん、そりゃそうですよねいきなり攫われて縛られてさるぐつわなんてされたんですから、でもどうしてなんでしょう?
静かな感じ、四人の魔法使いさん達は私をまっすぐに見ました。
「理由は今はお伝えできません。ですが貴方を害しようとは思っておりません。私は魔術師ギルドの一員でアッシュ・クラウンと申します」
「アッシュさんですか?」
「あなたのおじい様とも昔会ったことがあります。私は王太子様の命によりこの地に派遣されました。あなたとお話するためにこのような手段を取った事は謝罪いたします」
ゆっくりと頭を下げるアッシュさん、そういえばおじい様から名前は聞いたことがあるような気がしますよ。
昔おじい様が血気盛んなころ一緒に冒険した魔法使いさんがそんな名前だったような?
おじい様よりお年は少し若く50代前半程に見えますが。
「王都に一緒に来て下さいませんか?」
「理由もわからず一緒になんていけませんです!」
困った顔のアッシュさん、だってそうですよ。いきなりお前を害しないから王都に一緒に来いってわけがわからないですよ。
しかも王太子殿の命令ってますますわかりません。
「闇が……」
「闇?」
「闇の狙いがあなたなのです。それ以上は言えません」
闇とかどういうことなのでしょう? 私が首をひねっていると、事情を説明してくださいとジュニアスさんがアッシュさんに問いかけました。何処か荘厳で静かなその言葉にアッシュさんが目を見開きます。
「ジュリアン……殿?」
「ジュリアンは私の父です」
「ああ、ではあなたが……」
アッシュさんが懐かしそうに目を細め、ジュリアンとその名前を言った途端、ユライさんがアリシアさんの手を離しました。
マリエルさんが驚いたように目を開いてユライさんを見ています。
「ユライ?」
「……アルジェリーク・アーカンジェルを……連れていく……あの方の」
全く感情がこもらない声で呟きユライさんはこちらを振り向きました。そこには表情がなく、しかも黒い目が赤く光っています。
魔獣? 魔獣の目はこんな怪しい光の赤だとお母様から聞いた事あるですが……。アリスさんが火を噴くわけにもいかず、ユライやめろと叫びます。
素早くユライさんは私の元へ走ってきます。ジュニアスさんが手を振ると風が舞いあがりますが、それをもろともせずです。
クリスが剣を抜き放ち、切りかかります。止めるだけのつもりのようですが……。
ジュニアスさんが何か歌の一節のようなものを歌った途端、銀の光がユライさんを包み、ばたっとユライさんは倒れました。クリスは驚いた表情で倒れたユライさんを見ていますが……。
あっという間すぎて何がなんだかわかりませんよ!
「どうもユライさんは操られていたようですね」
「え?」
「父の名前がどうも何かのきっかけになっていたようですが……」
マリエルさんが慌てて走り寄りユライさんの名前を呼びますが、どうも気絶しているだけのようです。それはよかったんですが……。アッシュさんはやはり闇がと小さく呟きました。
ジュニアスさんは何処かきつい表情で倒れたユライさんを見ています。
冷たい目というか……思いつめたような緑の目ですよ。
「闇が銀を求める時、世界は……」
「アッシュさん、もしかして父もこれに絡んでいるのですか?」
「ええ、そして貴方も無関係ではないのです。えっと」
「ジュニアスです」
「ジュニアス殿、私ができる範囲で事情をお話いたします」
ふうと小さくアッシュさんはため息をつきました。そして私も聞いたことがある物語をお話をはじめたのです。
それは竜とある魔法使いの少女の恋物語でした。




