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「しかし妖精って捕まるものなんだな……」
「あくまで仮定ですクリス、さすがにそこまで間抜けじゃないと信じたいのですけどティンカさんって抜けているところあるんです」
クリスは悪意というものがないらしくジュニアスさんが一緒にいても平気のようです。
強い悪意を持たない人間ですからねえ。
でも町はそんなこともないのです。
夜は特に強い悪意が支配する場所もあります。
おじい様の統べる場所なので、それほどの悪意はないのですが……外から人が入り込んできているのでやはりあります。
馬を繋いで、徒歩で声のする方向を探りつつ向かいますが、夜なのに賑やかなのです。
助けてお願いという声だけが聞こえますが、気配を読みとれるのがジュニアスさんだけなのですよ。
でもどうして聞こえたり聞こえなかったりするのか? ジュニアスさんもおかしいといっています。
ジュニアスさんの方をちらちらと見るお嬢さん達も多いですよ。
「おいジュニアス、お前顔隠せ目立つ」
「はい」
ジュニアスさんはフードをかぶります。そうするとちらちら視線はなくなりましたが、ジュニアスさんは終始無言で辛そうでした。
クリスは具合でも悪いか? と声をかけていますが大丈夫ですと答えジュニアスさんは歩き続けます。 町に来るのは無謀でしたか? 悪い事をしました。
「声がするのは中央部か? しかしここって商会があるところに近いぜ。商人が妖精を……」
「でもどうしてティンカさんがこんなところまで来たのですかね?」
「……ここですね」
ティンカさんの声が少しずつ助けてというのだけは聞こえてましたが、私にはとんと場所がわかりませんでした。
宿屋の前で、ジュニアスさんはふうとため息をつきます。
「捕まっている可能性が大きいですが……」
「商人なら俺が話をつけて買い戻すなりなんなりするぜ」
「……行ってみましょう」
クリスとジュニスさんが宿屋に入ると、可愛らしいお嬢さんがお泊りですか? と聞いてこられました。
いえ知り合いがいましてと、フードをあげてにこっとジュニアスさんが笑うと顔が赤くなってますよお嬢さん。
「お知り合いの方ですか」
「ええここの2Fの右端ですね。はいってもよろしいですか?」
「ええお知り合いならどうぞ!」
綺麗な顔に弱いのはどこのお嬢さんでも一緒のようです。
すごく嬉しそうですよお嬢さん。村のお嬢さん達も弱かったのですよ。一応銀の竜ってわかってはいましたがきゃあきゃあ言ってました。
クリスを見てもふーんという感じでしたがねえ。
私たちが二階に上がろうとすると、すごい目でお嬢さんに睨まれました。
あう、睨まないでくださいよ。私とジュニアスさんはただの幼馴染ですよ。
「ここですね」
「商人かな?」
クリスは警戒するように慎重に扉をノックします。すると中から黒ローブを着た陰気な顔をした男性が出てきました。
年齢はうちのお父様くらいです。
30代半ば過ぎくらいでしょうか?
「誰だ?」
「俺は商人のクリスと言います。あのここにあんた妖精を……」
クリス、単刀直入すぎますという突っ込みを脳内で入れてみましたが、クリスはじっと男性の黒い瞳を見て目を離しません。
二人の視線がずっと合い続けます。ジュニアスさんは割と平気そうなので悪意はそれほど多い人ではなさそうです。
見かけで陰気とか思って悪かったですかね。
「間抜けな妖精は保護した。あまり騒ぐので鉄の箱に入れた。悪かったな、回復魔法をかけたらかなり暴れられてな……」
「でも鉄のは……」
「火傷は迷信だ。結界の役割をするだけで閉じ込めるだけだ。できるだけやりたくはなかったが羽を怪我して治りきってないのに逃げようとされてな。すまなかった」
どうも悪い人じゃなさそうですよ。ちらっと室内を見ると机の上に鉄の箱がのっています。
男性は室内に私たちを招き入れ、鉄の箱を持ち上げて開けました。
「あんた、あたしを!」
「ティンカさん!」
「ティンカ、無事だったのですね!」
私たちを見てうわーんと泣きながらティンカさんが飛んでこちらに来ようとします。
鉄の箱のふたが開いて中から出てきましたが、どうもとべないようでべたっと地面に落ちてしまいました。
「おいだからまだ飛ぶなと……」
「あんた、妖精さらいでしょ! あんたみたいな誘拐魔のいうことなんて私聞かないから!」
「いやティンカさん、この人貴方のこと保護してくれたらしいですよ? どこで怪我をしたのです?」
「あんたに愚痴りに行こうと思って向かってたら鷹に襲われたのよ。んで羽が傷ついて地面に落ちた所をこいつに攫われたの!」
「攫ってはいない、保護しただけだ。お前妖精の癖に馬鹿か?」
男性はぶすっとした表情で騒ぐティンカさんを睨みつけます。
うーんどうも誤解しているようですね。ティンカさんに妖精さらいじゃなくて怪我が治るまで保護してくれるつもりだったようですよと説明をしてみました。
確かに羽は傷ついていましたが丁寧に薬だって塗ってくれてます。
本当のことだと思います。
「俺は一応魔術師でユライという。こいつは本当によく暴れるやつだな」
「すみません。誤解したらそのままって言うか、思い込んだらって言うかそんな人なんですよ」
「すみません、私はティンカの幼馴染でジュニアス、こちらはアルジェさんとクリスです」
「悪かったな、どうも攫われたんじゃないかって話を聞いて……」
私たちが謝ると、気にしていないと手を振るユライさん、どうも竜使いの友人さんに会いにここにきたらしいですよ。
あーあ、でも助けてもらったのに暴れるからこんなことになるのですよ。
「こいつが暴れるから閉じ込めてはみたものの、やはり閉じ込めているのはばつが悪くてな。妖精の里に連絡を取らせろといったら抵抗されて……少しこいつの声を飛ばしてみたんだ。魔法で……」
「ああそれを私たちが受け取ったんですね」
「どうして私とジュニアスさんだけが?」
「声が弱すぎて、知り合いで魔力が強いあんた達しか届かなかったんだろ」
「成程です」
謎は解けました。しかしいまだに暴れるティンカさんを静かにさせるのに一苦労ですよ。
ユライさんはふうとため息をつきました。
「取りあえずこいつ連れて帰ってくれ、安静にしていれば後三日程で飛べるようになるだろう。薬も渡しておく」
「かさねがさねすみません……」
「いやまあ……竜使いの友人も妖精は友達だと言っていたしな。俺も……」
どうも優しい人みたいですよ。陰険魔法使いとかすごく暗い奴とか悪口をいうティンカさんを黙らせるのに一苦労しましたよ。
なんとか黙らせて、里に連れ帰ることにしました。
私とクリス、ジュニアスさんが恐縮していると、気にするなとまた手を振るユライさん。
黒髪を掻きあげ、なら村に案内してくれ友人がいるだろうからと言ってくれました。その竜使いの名前は私達もよく知る人で、案内しますよと私達が笑うとあんた村に来る人だったのところっとティンカさんが悪口を言うのをやめたのです。
あーあ、村の竜使いさんの知り合いだと最初からわかっていればさすがに誤解はしなかったのですが。
仕方ないですよね。
「マリエルは元気か?」
「はい、お友達の竜さんと一緒によくお仕事をしていますよ」
「俺とあいつは長年会ってなくてな、13年ぶりに会いに行くんだ」
「へえ」
私がユライさんと話しているとジュニアスさんとクリスが微妙な顔をしています。
お父様みたいな感じかなと思ったのですが……結構話しやすい人ですよ。
私達は村のマリエルさんの元へ向かうことになったのでした。
ティンカさんがぶつぶつと気配がと言っていました。
でも勘違いをよくする人ですからねぇ、私が気配って? と尋ねてみるとうーんわからないと言う答えが返ってきましたです。




