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遅れた救世主【聖女版】  作者: ヘロー天気
おわりの章

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八十三話:秘策と思惑と



 ルーシェント国の解放に進軍を続ける聖女部隊は、ルナタスの街を前に魔族軍の増援と遭遇。魔族国ヒルキエラから前線に復帰してきた第三師団は、特殊な魔獣部隊を引き連れていた。

 それは、呼葉が五十年後の世界で戦っていた、強化された魔獣達だった。


 聖女部隊の兵士隊と傭兵部隊は、そんな強化型魔獣を相手に危なげない立ち回りを見せており、呼葉の助言に従ってむしろ圧倒していた。


 脚を潰して機動力を奪い、首を刎ねても油断せず確実に仕留める。


「まあ、順当よね」


 緒戦で圧縮火炎弾による薙ぎ払いを放ち、強化魔獣部隊の突撃の勢いを削いだ呼葉は、その後の味方の奮闘ぶりに少し肩の力を抜いて呟く。


 あの人類が敗北した別の未来の世界では、レジスタンス活動をしている者達もいたようだが、まず武器や防具が満足に揃わない上に、戦闘訓練さえもままならない環境だったと聞いた。


 ただの棒切れで武装して粗末なボロ布を纏う、まさしく烏合の衆。呼葉の祝福は、そんな無力な人々を精強な戦士並みに強化して、戦う為の力を与える能力なのだ。


 聖女部隊の傭兵部隊や兵士隊は、日頃からしっかり鍛え上げられた精鋭達で、武具も質の良い物を装備している。

 そこに装備品ごと身体能力を数倍にまで引き上げる祝福が乗るのだから、よぼよぼの爺さんになった六神官達でさえ退けられた強化魔獣を相手に、そうそう後れをとる事はない。


 気持ちに余裕が戻った呼葉は、修業時代の頃のような殺伐とした雰囲気を鎮めると、宝珠の魔弓を取り出して構えた。

 味方も祝福で強化された全員一騎当千状態とはいえ、この開けた地形で数の暴力に付き合い続ける理由もない。


「射貫け!」


 味方の援護に魔法の矢を放つ。現在、円陣で護りを固めている聖女部隊の周りを強化魔獣部隊が囲んでいる状態なので、包囲の外側をうろつく魔獣を狙う。

 魔弓から放たれる魔法の矢は、追尾機能付きの必中攻撃。それが一度に五十本ほど緑色の光の軌跡を引きながら飛んでいき、順番待ちの魔獣達を次々に撃ち抜いていく。


 ある程度包囲の外周を削った呼葉は、そろそろ動き出そうとしている後方の魔族軍部隊に狙いを定めた。




 ルナタスの街を背に陣を敷く魔族軍第三師団の迎撃担当部隊は、聖女部隊に嗾けた強化魔獣部隊の様子を観察していた。

 本国ヒルキエラで補充要員と共に与えられた不気味な魔獣部隊。魔王ヴァイルガリンが独自に編み出したという特殊な儀式で、個体を進化させたものだと説明を受けたが――


(元よりかなり狂暴化してるし、一応命令は聞くが意思の疎通も出来ない)


 小鬼型の魔物など、元は見た目こそ醜悪だがどこか愛嬌もあり、彼等同士のやり取りを見ていると和める事すらあったのだが、進化したとされる今の姿はただただ不気味で邪悪な怪物のようだ。


 そんな、味方からも不評な強化魔獣部隊約800匹は、円陣を敷く聖女部隊に群がるように取り囲んで果敢に攻めてはいるものの、効果はあまり芳しくない。


 聖女部隊の反撃がかなり強力で、特に炎の刃を放つ大剣使いが厄介だった。

 その大剣が振るわれる度に迸る炎の刃は、強化魔獣部隊の包囲の外側まで穿ち、数十匹単位で屠られてしまう。


 更には五十発近い魔法の矢が絶え間なく降り注ぎ、包囲の外周をうろつくあぶれた魔獣を貫いていくのだ。


「聖女をどこまで消耗させられたか怪しいが、そろそろ我々も出るぞ」

「ハッ、全軍! 突撃準備!」


 強化魔獣部隊が半分ほど削られたところで、迎撃担当部隊も攻撃に加わろうと動き出す。

 狙う場所は、炎の刃が飛んで来ない方向。


 円陣を組んでいる聖女部隊の左前方が最も危険なエリアと見做して、右側から後方へ回り込む方針で部隊に通達を出そうとした時、聖女部隊の中心から魔力の塊が空に昇った。


「っ……あれは――いかんっ! 散開! 全軍散開しろ!」


 聖女が放つ魔法の矢の範囲攻撃。オーヴィスの辺境の街カルモアで先遣隊が大損害を被った、一撃で数千発もの魔法の矢をばら撒く規格外の攻撃だ。

 あの時の二の舞は避けねばと、迎撃担当部隊の指揮官は大きく広がりながらの突撃を指示した。


 騎兵部隊の機動力にモノを言わせて、魔法の矢雨の範囲を潜り抜けると、強化魔獣部隊の包囲の外から氷槍などの攻撃魔法を撃ち込んでいく。

 氷の槍は聖女部隊が防壁代わりにしている馬車に何度も命中するが、悉く弾き返されていた。


(なんだ、あの馬車は! なぜ攻撃魔法が通じない――いや、あれも聖女の力か)


 駆け抜けながら攻撃魔法を放ち、聖女部隊の後方に回り込みつつある迎撃担当部隊の指揮官は、街の方をちらりと見やる。


 ルナタスの街に入った第三師団本隊は、第一師団から派遣されている精鋭部隊の協力を得て、強力かつ特殊な範囲殲滅魔法――『過縮(かしゅく)爆裂魔弾(ばくれつまだん)』を連続使用する準備を進めている。


 迎撃担当部隊の役割は、強化魔獣部隊の運用試験と、本命の攻撃を成功させる為の囮兼時間稼ぎだ。

 強化魔獣部隊は三分の一を切った。通常の魔獣と違い、強化魔獣は命令しない限り逃げ出す事も無いので、彼等は全滅するまで聖女部隊を攻撃し続けるだろう。


 迎撃担当部隊も追尾する魔法の矢で一割ほど削られたが、部隊の士気は高く維持している。


(しかし、このままでは我々も長くは持たん……まだか?)


 追尾して来る魔法の矢を魔法障壁で逸らしながら、迎撃担当部隊の指揮官は街に動きが無いか注視する。

 その時、街の防壁上に『攻撃準備完了』の合図が示された。


「来たかっ! 全軍、散開して全力で離脱せよ!」


 聖女部隊の最後の足止めを強化魔獣部隊の生き残りに任せて、迎撃担当部隊の騎兵は直ちに範囲殲滅魔法(過縮爆裂魔弾)の効果範囲から一斉に離脱を図った。




 周囲に群がる強化魔獣の集団を、順調に捌いている聖女部隊。

 包囲の外から魔法攻撃を仕掛けて来た魔族軍部隊には呼葉が宝珠の魔弓で対処していたが、その魔族軍の騎兵部隊が急速に離れて行った。


「警告! ルナタスの街より攻撃魔法と思しき物体接近!」

「なるほど?」


 見張り役から上がった警告で、魔族軍部隊の動きに納得する呼葉。ルナタスの街の防壁上から、禍々しい複数の髑髏が絡み合ったかのような見た目の、蠢く魔力の塊が飛んで来る。

 以前、遠征訓練で第三師団の先遣隊と戦った時にも見た覚えがある。多重爆発系の特殊攻撃魔法だ。


 前回は魔法の矢で迎撃したが、その際に起きた爆発はかなりのものだった。

 蠢く魔力の塊一つ一つに凄まじい威力が秘められており、それらが連鎖して爆発するので、近くで炸裂すると大きな被害を被る危険性がある。


 そんな厄介な攻撃魔法が、複数連なって飛んで来るのが確認出来た。


「……て、これは魔弓じゃ間に合わないかな?」


 遠征訓練で初めて相対した時は、結構な量の魔法の矢を撃ち込んで塊の一つを貫き、誘爆させて撃ち落とす事が出来た。が、今飛んで来ている過縮爆裂魔弾は八発以上。


 最初は連なって飛び出した無数の過縮爆裂魔弾が、広がりながら迫り来る。これでは一つ撃ち落としている間に、他の魔弾を危険域まで接近させてしまう。

 それぞれが間隔を広く取っているので、誘爆の連鎖を狙うのも難しい。


 ふと見やれば、随分と距離を取った位置に陣取る魔族軍の騎兵部隊。彼等を一瞥した呼葉は、宝珠の魔弓を仕舞って宝杖フェルティリティを掲げる。

 発現させるのは特大火炎弾。


「集束せよ、集束せよ、集束せよ」


 特大火炎弾に圧縮を掛けて圧縮火炎弾を作り出す。宝杖の先端に握りこぶし大まで圧縮を掛けた、光輝く火炎球を浮かべた呼葉は、迫りくる過縮爆裂魔弾の群れにそれを向ける。


「薙ぎ払えー」


 ヴィンッという振動音のような響きを発して、レーザービームの如く圧縮火炎光線が射出された。




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