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第9章 幼なじみの正体

 第9章

 

「最初からルートンを利用しようと狙っていたのか?」

 

「違います。ガルバン卿があのパーティーに参加するなんて私に分かりようがないじゃないですか! 婚約破棄を宣言されることも!

 ルートン様が参加しているわ。ラッキーだわって、参加者が盛り上がっていたので、いらしたのはわかっていましたが。

 

 誰かに証人になってもらいたいと考えた時、私は気付いたのです。

 この伯爵家はオルドス子爵の親類で、招待客も縁者が多い。

 お願いする人を間違えたら、子爵家に都合がいいような証言をされてしまうのではないかと。

 その時、ガルバン卿がすぐ側にいることに気が付いたんです。

 

 お忙しいガルバン卿に証人台に立ってもらおうなんて、そんなおこがましいことは考えていませんでした。

 ただ証言するよ、とあの場で一言おっしゃって頂ければ、それだけで牽制になると考えたのです。

 だって、こちらの証人はルートン=ガルバン様(・・・・・・・・・・)なのですよ。まさか、偽の証人を立てて争うとするなんて普通思いませんよね?

 オルドス子爵夫妻はオルターよりはマシかと思っていましたが、似たり寄ったりだったようです。

 

 オルターは思っていたよりはるかにクズでした。婚約解消後ずっと復縁を迫ってストーカー行為をしようとしただけでなく、私の浮気を疑って、養護施設でルートン様に襲いかかるなんて。絶対に許せません。

 私の認識が甘かったのです。本当に申し訳ありませんでした。

 施設の皆さんや子供達、そしてチャリティーにいらしていた方々にも多大な迷惑をかけてしまいました」

 

 涙を浮かべながら何度目かわからない謝罪の言葉を述べるアイラに、ルートンは驚いていた。

 かなり頭のいい子だとは思っていたが、あんな不測な事態に陥っていたにも関わらず、そこまで深く考え、判断し、行動していたなんて凄いと。

 あの膝カックンも凄かったし。

 

 それと同時に、以前からはっきり物を言う子だとは思っていたが、ここまで辛辣な発言をするとは意外だとルートンは思った。おそらく幼なじみも驚いているだろうと。

 まあ彼女はこれまで元婚約者達に散々利用され虐げられてきたのだから、当然だとも思ったが。

 ただし、自分がいかにも力のある人間であるかのような言い方をされて、ルートンは少々困惑した。

 

 しかし、幼なじみは彼女の言葉に何故か納得したようだった。

 

「君の言い分は分かった。泣くな。嘘は付いていないと信じるから。

 確かにまともな貴族ならルートン=ガルバン(・・・・・・・・・)に敵対しようなんて思わないよな。

 だってさ、彼を敵にするということは、騎士団やこの僕をも敵に回すということだからな。

 いや、それだけじゃないな。城勤めの官吏、医療機関、商会、農林業関係者、そして何よりも本好き連中をも敵にするということだからな。

 世間知らずもいいところだ。

 いや、本をまともに読んだことのない無教養な馬鹿なのだろう」

 

(う〜ん。前から感じていたが、常日頃、僕の幼なじみはアイラ嬢に対してつれない態度を取ることが多かった。

 しかし、それって感覚というか、感性が似ているせいかもしれないな。

 いわゆる同族嫌悪?)

 

 アイラと幼なじみはルートンを取り合ってこれまでツンツンし合っていたのだ。しかし、それに全く気付いていなかったルートンが、そんなことを考えていると、アイラが恐る恐るという感じでこう訊ねた。

 

「今さらですが、ランス様はどちらの家のご令息なのでしょうか」


 と。


「あれ? 言っていなかったかな。

 僕がここに勤務するようになる前までは、高貴な方(・・・・)から図書館にはない書物を求められると、その度に職員が一丸となって国中の書店や図書館を必死に探し回っていたことを覚えていないかな。毎回そりゃあもう大騒ぎだったのだが。

 稀に見る天才だけれど、自由気ままで傍迷惑な第二王子と言われていた方が、今君の目の前に座っているアルストランス殿下だよ」


「えっ!」


「なんだ、その説明は! 天才だけどわがまま自由な迷惑男って、君にも当てはまるだろう」


「どこがですか。こっちは貴方の尻拭いばかりさせられているのに。

 それにわがままだとは一言も言ってはいませんよ。内心ご自分でもそう思っているからそんな言葉が出たのではないですか」


「まあ、色々と君には感謝しているが、そのお返しに私も君を守っているだろう?」


「守るってなんですか!」


「あわわ……何でもない」


 ルートンとアルストランス第二王子の丁々発止なやり取りは、アイラにとってはいつもの見慣れた光景だった。

 今まではそこに自分も平気で加わっていたのかと思うと、めまいがした。


 よく考えれば、たとえ目の前の人物が王子でなかったとしても、出逢った最初の時から、二人が高位貴族のご令息だということは一目瞭然だったのだ。

 十歳といえばまだ子供だが、すでに幼いとは言えない年齢になっていたのだから。

 それなのに彼らとは少しだけ年上の、友人であるかのように気安く語り合ってきたのだ。

 そして今日まで本好き仲間として接してきてしまった。

 しかも……恐れ多くも我が国の第二王子殿下と、この国の至宝と呼ばれている図書館司書様を取り合っていたのだ。

 アイラは震えながらも、自分自身を殴ってやりたい衝動に駆られたのだった。


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