14話 フェリアスとの決着。 狼さん、責任を取って結婚する。
神速の踏み込みから放たれる、氷の塊による大破壊。
木々をなぎ倒し、踏み込んだ力により大地がめくれ上がる。
まさにめちゃくちゃな一撃。
だが、言ってしまえばそれは氷の塊で殴りかかってくる。
それ以上のことは起こらかった。
だから。
「なんだ……だったら切れるじゃん」
俺は銅の剣を抜いて、真正面からその巨大な刃を真正面から受け止める。
もっと、刃を屈折させたり、あの巨大な斬撃が複数に拡散されるとかいう技であれば防ぎようもなかったが。
それがただの氷の塊ならば切るのはたやすい。
【断空‼︎】
逆袈裟に放つ一閃……拡散はさせず、鋭さを高めた刃により、氷の塊を両断。
作業に近い行動であったが、両断された氷は左右に分かれ、俺とセッカをすり抜けるように木々をなぎ倒しながら森を転がっていく。
「セッカ……無事か?」
「し、死ぬかと思ったのじゃ」
すっかり腰を抜かしてしまっているのか、セッカは地面に尻餅をついているが別段怪我はなさそうで、俺は安堵してフェリアスへと向き直る。
フェリアスは驚愕をしたようにぽかんと口を開けてこちらを見ていた。
「……バカな、あんた一体何をしたの‼︎?」
「何って、ただ氷の塊を切っただけだぞ?」
「切ったって……あんなでかい氷の塊、そんな錆びた剣でどうやって?」
「どうやってって……鋭さ釣り上げて、長さが足りない分は斬撃を飛ばしただけだ」
「鋭さを釣り上げる? なによそれ」
「なにも難しいことじゃない。 剣っていうのは振り方や切り方で切れ味が変わるし、ものにだって切れやすい場所がある。 それさえ見極めることができれば、この世界に切れないものなんて存在しなくなる。錆びた銅の剣でも空間ぐらいは切れる」
「……え、なに言ってるのこいつ」
「要は、あんたの剣は剣術も魔法も両方中途半端ってことだ」
「なっ‼︎? なんですって‼︎? なめんじゃないわよ‼︎」
怒りをあらわにするようにフェリアスは一度俺から距離を取り、再度狐の尾を使って氷の刃を作ろうとするが。
「何度やっても同じだ」
俺はその氷を、斬撃を飛ばして削ぎ落とす。
「うそ‼︎? これだけ離れた距離で、どうやって」
「そもそも、あれだけ巨大な剣なんて作る意味がない。 斬撃なんて、見える範囲ならどこにだって飛ばせるもんだ。 使えないみたいだから見せてやるよ、縮地のお礼だ」
そう言って、俺は剣を構え、顔と腕だけを人狼変化する。
羊の毛を刈った時と同じ拡散する斬撃……それを今度は視界に映る範囲全てに放つ。
出来るだけ遠く、視界は広く。
爪や牙はないが、変化した腕は常人よりも早く剣を振るうことが可能で。
研ぎ澄まされた嗅覚は視界よりも広く世界を捉える。
【我流・大演爪‼︎】
匂いを嗅ぎとれる範囲全てに斬撃を飛ばす。
拡散する斬撃は、その空間全てを覆い尽くすように無数に弾け。
「なっ‼︎ きゃっ、きゃあああああぁ‼︎?」
フェリアスの服と剣だけを狙って切り刻む。
逃げ場はなく、防ぎようもない例えるならば斬撃の雨。
世界を飲み込む狐の尾。
その保有者である彼女なら、何か返し技の一つや二つを披露してくれるかもと期待はしたが。
結局そんな淡い期待も水泡に帰すように、あっけなくフェリアスの剣は折れ、おまけで来ていた鎧と服はちり紙のように切り刻まれ、その白い肌を森に晒す。
「なっ、なっ、なっ‼︎?」
「勝負あり、だな。流石に体の中に武器は仕込んでないだろうし、これで……」
「責任とれええぇ‼︎? この変態いいイィ‼︎」
縮地による接近から放たれる張り手。
悲鳴に近い声と同時に放たれたその一撃は回避することが出来ず、俺は頬に赤い紅葉を咲かす。
「え‼︎? なっ、武器もないのにまだやる気かよあんた。 てか変態って……」
「うっ……くっ……戦いで斬られるならまだしも、まさか、まさかこんな場所で服を切り刻まれて辱めをうけるなんて、う、ひっく、ぐすっ……あん、あんまりよ……こんな
こんな形で殿方に裸をさらすことになるなんて……ひぐっ」
「え、あ、え? なんで、なんで泣いてんのあいつ?」
その場に座り込みながら子供のように大号泣を始めるフェリアス。
俺はその理由がわからずにセッカに助けを求めるが。
「いや、たしかに傷つけるなって言ったけど……こんな野外で服をひん剥くなんて、鬼畜じゃのぉー……ちょっと引いたわ。 流石の我もこれは擁護できないわ」
「ええええぇ‼︎? なに、俺が悪いの? え、どうすればいいセッカ? 謝る? 謝ればいい?」
「謝って済む問題じゃないわよ‼︎ どうするのよ、もう最低よ‼︎ 責任とりなさいよバカ‼︎」
オロオロして助けを求める俺であったが、それを糾弾するようにフェリアスの怒声が響く。
「せ、責任って……具体的にはどうすれば?」
「あんたまさか知らないでひん剥いてくれたわけ‼︎? リドガドヘルム家ではね、男に裸を見られたら、その人の伴侶になるのが決まりなのよ‼︎」
「ええええぇ‼︎? は、伴侶ってけ、結婚‼︎」
「そうよ‼︎ 責任とって結婚しなさい‼︎」
「いやいやいやいや……結婚って言ったって、俺ついこの前まで奴隷だった人間だし、そもそもあんたのことよく知らないし」
「よく知らない女の服脱がすんじゃないわよバカ‼︎」
まったくもってごもっともであり、ひとかけらも反論ができないため、俺はセッカに助けを求める。
「ど、どどどど、どうしようセッカ‼︎?」
「うん? まぁいいんじゃないの? あっちがそのつもりなら結婚してやればよかろう」
しかしセッカは悠長にそう語る。
「ええええええぇ‼︎? いやいや、だって、結婚ってセッカ……」
「だが良いのかフェリアス? こやつの伴侶となるということは、うちのギルドにはいるってことになるが」
「うぐぐ、仕方ないわよ。どっちにしたってあんた、私を奴隷かメイド扱いして自分のギルドに呼び込むつもりだったんでしょ?」
「おや、バレていたのか」
フェリアスの言葉にセッカはバレたか、なんてペロリと舌を出す。
「食えないやつ。 獅子身中の虫を自分から取り込もうだなんて」
「カカカッ、獅子身中の虫だろうがなんだろうが、利用できるものは全て使う。それが我のやり方よ……では明日からよろしく頼むぞ。 あぁちなみに結婚と約束は別の話だから、お前ギルドではメイド服着用じゃからな」
「んなっ‼︎? え、本当にそれやるの‼︎?」
「奴隷よりはマシじゃろうて……それじゃあのー、お嫁さん。 くふーふふふ‼︎」
高笑いをしながら上機嫌で帰路につくセッカに、俺は呆けたままついていく。
背後を振り返ると、お付きの護衛に介抱をされながらも悔しげに地団駄を踏むフェリアスの姿。
はじめ、俺はこれはほんの冗談なのだろう……なんて気持ちも半分あり。
「……まさか、だよな」
そう自分に言い聞かせて、ギルドへと戻るのであった。
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