防御特化と光と炎。
「さてと、皆まだやられてないみたいだし……上手くやってるのかな。なんかメイプルはずっとマップに映ってるけど……」
残り時間も少なくなってきた中で、サリーはグッと伸びをする。プレイヤーもかなりの数が死に、遭遇することも少なくなった。となれば、モンスターも狩りやすくなる。
「それなりに狩ってれば大丈夫そうかな……いい機会だったけど強そうなテイムモンスター持ってる人が戦ってるところは見れなかったなあ」
【集う聖剣】や【炎帝ノ国】以外にも警戒するべきプレイヤーがいるかどうかなど、多くのプレイヤーが本気で生き残ろうとするイベントでは得られるものも変わってくるのだ。
「お、ミィがマップに映ってる!残り時間も少ないし……モンスター倒しつつ行ってみようかな」
サリーはミィのいる方に向かって駆け出し、道中のモンスターは片手間に斬り捨てていく。
「朧【拘束結界】!【クインタプルスラッシュ】!」
動きを止めてしまえば、攻撃もされない。それならスキルでの強力な攻撃を繰り出せる。超高難度でもなければ、攻撃も単純でHPもそこまで高くなく、サリーの敵ではない。
「よっ、と。あそこかな……うわ……やっぱりミィも中々滅茶苦茶してるなあ」
そこにはモンスターやプレイヤーを焼き尽くすミィの姿があった。ミィのいる荒地はあちこちに炎が立っており、激しい戦闘があったことを思わせる。
「あれがメイプルが言ってたイグニスかあ。ちょっと観察しようかな」
サリーはプレイヤーに不意に襲われないように糸を繋いで高い木に登る。ここなら、近づいてくる過程で気づくことができるだろう。
「さてと、モンスターかプレイヤーは来ないかなあ……ん?」
サリーが目を凝らした先には、見覚えのある白い鎧と剣を持った男、ペインがいた。
「マップに映っていたのは知っていたが、まさかお前がくるとはな」
ミィはMPポーションを飲みいつでも戦闘に入れる体勢を整える。
「ああ、もう十分な量のモンスターも狩った。だからライバルの強さを確かめに来た。レイ、【覚醒】」
ペインがそう言うと指輪からは銀の鱗を持った子供の竜が現れる。それは大型の鳥程度の大きさで、翼をたたんで肩にとまる。
「奇遇だな。私ももう十分モンスターは倒したところだったんだ」
ミィがそう言ってイグニスを呼び出し【炎帝】を発動すると、ペインも剣を抜き放つ。
それが合図となった。
「【豪炎】!」
「【光輝ノ聖剣】!」
ミィの側からは業火が、ペインからは光の本流が放たれ、荒野を吹き荒れる。
「イグニス【連なる炎】!」
「レイ、【聖竜の加護】だ」
それぞれがバフを受けて、一気に前進する。ミィも距離を取る気はさらさらないようで、【フレアアクセル】を使って接近する。
「【蒼炎】!【爆炎】!」
「【退魔ノ聖剣】!【聖なる光】!」
一度接触する度に、激しいエフェクトが散り、スキルとスキルが相殺される。そのどれもが一撃で大勢を決するような超高威力のものばかりである。
ペインが剣を振るうのを、ミィはきっちりと躱して魔法を返す。しかし、ペインもそれをまともに受けることはなく、きっちりと捌いて再び攻撃に転じる。
「レイ、【巨大化】【聖竜の息吹】」
「イグニス!【巨大化】【消えぬ猛火】!」
レイの吐いたブレスと、イグニスが放った炎は二人の間で弾け、地形を抉るが、互角といった様子だった。
「なるほど、いいモンスターだ」
「お前の竜もな。ただ……力を隠しているというのなら、このまま焼き尽くしてやる」
ミィは出し惜しみはしないというような様子で、MPを回復すると、イグニスに命じる。
「イグニス【不死鳥の炎】【我が身を火に】」
最初のスキルでミィにバフをかけると、イグニスはそのまま体を炎の塊へと変えていく。それはそのままミィを包み込み、地面を伝い荒地に広がり始める。
「なるほど、ただでは済まなそうだ。レイ、【聖なる守護】」
「いくぞ!【インフェルノ】!」
ミィが叫ぶと同時に、灼熱の炎が放出され、ミィを中心として空間全てを焼き払っていく。眩しいくらいのその光は、しかしペインの方から発生した負けないほどの光とぶつかり合い、爆発する。それは周りの森や平地を滅茶苦茶に破壊して、砂埃を巻き上げた。
砂埃が収まったところには、変わらず無傷のままのミィと少しHPが減り、鎧を焦がしたペインが立っていた。
「ちっ、レイに大技を使わせるかと思ったが……ダメージ軽減と聖剣の威力で受けきるか……食えない奴だ」
「はは、そこまで情報を渡す訳にはいかない」
「最初から私を倒す気はなかったか……だが、無事で返すと思うなよ?」
「ああ、いいとも。やるというなら」
ペインは受けて立つとばかりに聖剣を構える。
第二ラウンドといったところで、バキバキと木々をへし折る音が響いてくる。
二人は、何かが迫ってくることを察して、一時休戦といった風にそちらを見る。すると、森からは何条ものレーザーが滅茶苦茶に飛んできた。
「何……!?レイ!」
「ちっ、一旦避難するか!イグニス!」
ペインとミィはそれぞれテイムモンスターに乗って地上から離れる。
少しして、木を倒しながら現れたのは十メートルはあろうかという巨大なワニだった。一つおかしな点があるとすれば口からレーザーを吐いていることである。
「……興が冷めた。ペイン!再戦は、またの機会としよう」
「ああ、俺は構わない。【インフェルノ】を見ることができたからね」
こうして乱入者によって、勝敗つかずで二人の勝負は終わりを迎えた。
そして、その光景は当然サリーも見ているわけで。
「あ。あれ、メイプルじゃん……」
急速に移動してきていたマップ上のメイプルのアイコン。よくよく見るとワニはレーザーを吐いているのではなく、レーザー砲が生えた羊毛が口に挟まっているのだった。
「もっともっと最後に駆け回るぞー!」
聞き覚えのある声がかすかに聞こえて、そして離れていくのをサリーはジト目で見送るのだった。




