防御特化と塔三階3。
メイプル達は溶岩溢れる広場を引き返して、そのまま別の道へと向かった。
広場を飛び回るモンスターは通路にはやってこないようで、一安心である。
「とりあえず別の道に来てみたけど……他にもあったよね?」
「一つずつ見ていくしかないよ。地面には気をつけてね、メイプル。」
「うん、大丈夫!んー、ちょっと下り坂だね」
メイプルに言われてサリーも地面を確認すると、確かに少し下っていた。
先程とは違った場所に行けそうな予感に、二人は警戒しつつもワクワクするように進んでいく。
そうして通路を抜けた先に広がっていたのは、黒く固まった溶岩でできた壁と地面が中心となる空間だった。
広さは変わらないものの、炎は時折地面から小さく吹き上がる程度である。
「この辺りは固まってるみたい?これなら歩きやすいし、モンスターがいるかもよく分かるね」
「今のところは何もいなそうだけど……こういう時は!」
メイプルは分かってきたと言わんばかりにサリーの方を見る。
「うん、隠れてると考えるべき。っと、言ってたら来たよ!」
ボコボコと地面が盛り上がり三メートル程の岩の巨人が立ち上がる。
二人の体より大きな黒い拳と足、響く足音。
途中見てきたモンスターと比べると見るからに強力そうである。
「【全武装展開】【攻撃開始】!」
メイプルが銃撃を開始する。それは動きの遅い巨人に全弾命中するものの、そのまま一つ残らず弾かれていく。
「うっ……やっぱりゴーレム?嫌いっ!」
メイプルが目を細めて、むっとした様子で武装をしまい銃撃を中止する。それと同時に巨人はその大きな拳を地面に叩きつけた。
岩と岩がぶつかる鈍い音が響き渡り、砕けた地面から溶岩が突然波のようにどばっと溢れ二人を飲み込もうと向かってくる。
「うえっ!?ち、ちょっと!」
「メイプル避けるよ!ここなら……」
サリーは念のためにとバックステップをしながら【氷柱】を作り出す。
【氷柱】はサリーの予想通り、溶岩溢れるエリアとは違い溶けないままだった。
「ごめんね、いくよ!」
サリーはメイプルに糸を伸ばすと、もう片方の手から伸ばした糸でぐんっと氷柱を上る。
「飛ぶよメイプル【跳躍】!」
「えっ?ど、どういう……うわっ!?」
溶岩を受けて【氷柱】が壊れる直前に、メイプルを糸で繋いだまま、溶岩の波を飛び越えてサリーは巨人に向かって飛びかかる。
「ここ、でっ!【ディフェンスブレイク】」
サリーはそのまま空中でメイプルに伸ばした糸を外し、回転しつつ巨人の腕を斬りつけて背後に抜けていく。
そうして空中に残されたメイプルは、そのまま落下していけば巨人の頭辺りにぶつかることを理解した。
協力しての攻撃にこんなものもあると挙げた中に、これもあったと思い出しながらメイプルはニヤっと笑う。
「さっすがサリー!じゃあ、これでどーだっ!」
メイプルは両手で大盾を持つと、そのまま体当たりの要領で巨人の顔を【悪食】で飲み込むと、地面に落ちて転がっていく。
「ととっ……もう一回攻撃されないうちに離れないと」
メイプルは地面から顔を上げると、巨人の方を振り返りつつ距離を取る。
その間巨人の足を切り刻んでいたサリーもメイプルの元へと戻ってくる。
「あいつ遅いし、駆け抜けられそうだけど?」
巨人を飛び越えたことで、先に進むための通路は二人のすぐ近くに見えている。
「倒していく!」
【悪食】も一回使ったからと、メイプルは巨人の次の動きを警戒する。
それを見てサリーも【氷柱】を作るタイミングを計る。
巨人は先程と同じように拳で地面を叩いたものの、溶岩の波は襲ってこない。
「メイプル、足元!」
「え?わっ!?」
サリーが糸を伸ばしてメイプルを助けるより先に、二人の足元から岩の柱があっという間に伸び、避けられなかったメイプルを空中に突き上げる。
「もー、地面から攻撃するのやめてって!んー!【毒竜】!」
ぐるぐる回転しながら跳ね上がるメイプルは、仕返しと言わんばかりに、巨人の方を向いた瞬間毒竜を放ったのである。
巨人は毒の塊を突き破って、そのまま拳をメイプルに叩きつけてくるものの見事に【悪食】のカウンターを受けることとなった。
メイプルはそのまま弾き飛ばされて地面を転がっていったもののダメージはない。
「貫通攻撃じゃないなら大丈夫だしっ!【滲み出る混沌】!」
鎧から飛び出した化物の口が、動きの鈍い巨人を捉えてさらにダメージを与えていく。
「毒の海の方が危ないんだけど……よっ、とっ!」
メイプルが大技を叩き込んでいるうちに、サリーは糸と【氷柱】で巨人の体を駆け回り斬りつける。【剣ノ舞】もあってサリーの攻撃はかなりの威力だった。
「これで、終わり!」
サリーが首筋をダガーで引き裂いたところで巨人は光となって爆散した。
サリーはメイプルの出した毒に気をつけながら、メイプルのところまで戻ってくる。
「大変だったねサリー」
「んー、そうだね。ただ……動きは鈍かったし避けていくのが正解なんじゃないかな。ボスでもないし」
「そうかも、銃も効かないし」
「あれは一定距離の攻撃を弾くとかかもね。もっと威力高い毒竜もあんまり効いてなかったから」
「なるほどーそういうのもあるんだね」
メイプルは強いモンスターも色々いるものだと、一人うんうんと頷く。
「じゃあ、進もうかメイプル。またあいつが出てきても嫌だし」
「賛成賛成!あ、でもちょっと待ってね……」
メイプルはインベントリを手早く操作すると、装備を変更して【救いの手】を身につける。
そうして現れた白い手に盾を持たせると、それを操作して二枚の盾の間に挟まり空中に浮き上がった。
「ずーっと地面から攻撃されてるからもうこれでいく」
「……おっけー。ちょっと慣れてきたかな」
サリーは少し目を細めてチラッと二つの白い手を確認する。
「使う?元々サリーのために色々探してた時のだから、いいよ?」
「一回ダメだと思うと、ね」
そんなことを話しながら、サリーは次の道へと歩いていく。メイプルはその隣を盾に挟まれながらすうっと滑るように移動する。
そうして少しずつ下っていく中で、二人はすぐに変化に気づいた。
「サリーサリー!」
メイプルが目を丸くしてサリーの方を見る。
サリーも驚いたようにメイプルの方を見て、そして目の前の景色を改めて確かめた。
「うん、そうだね……変な感じだけど」
しばらく進んだ二人の目の前に広がったのは、雪に覆われ真っ白な床に、大きな氷でできた壁。
凍てつくような白の世界だったのである。




