第2話 プロポーズは突然に!?
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先日、今最も力ある商会と有名な【ロガンド商会】の若き副会長が、我が家に「今度夜会に出る為の服を一式作って欲しい」と言う申し出があり、私と母が対応していた。
年齢は私より10歳年下で、数多くの商売をしているやり手の若会長だと言うのは、私の耳にも入っていた。
――婚約破棄の噂が広まり始めた、その矢先の来客だった。
(お若いのに凄く優秀な方なのね)
そう思いながら彼に似合う布地を選び、色合いもこの国では珍しい黒髪に黒い瞳の彼に似合うシックな色合いで纏め上げた。
こう言ってはなんだけれど、とてもガッシリした軍人体系で背が高く、目鼻立ちのハッキリした美丈夫。
これは女性にモテるだろうなと内心他人事のように思いながら採寸を終え、お買い上げされた品物を纏め上げていた。
けれど、その様子をジッと見つめる目があるとは知らず、いつも通り店員に指示を出しながら母の手伝いをしていたのだけれど――。
「実に気持ちのいい仕事ぶりですね」
「まぁ、娘ですか?」
「はい!」
「ですが、真面目過ぎてつまらないとも言われてしまう位で」
「いえ! それくらいの女性が俺には丁度いい!」
「と、いいますと?」
そんな話し声が聞こえ、私が腰を上げて立ち上がったその時、ロガンド様は椅子から立ち上がり私の前にやってきた。
「将来を見据えたお付き合いを、正式に申し込みたい」
「……え?」
「え!? ロガンド様、それは本気ですか!?」
母ですら声が裏返る程の驚きだったようで、私は口に手を添え驚きを隠せなかった。
初めて会った男性にここまで熱烈に……。
しかもこんな美丈夫の男性に告白されるとは思っていなかったわ。
「ロ、ロガンド様? あの、ですが私」
「君が少し前、婚約していた男性と婚約破棄した事は知っています」
「え!?」
「だが、運が良かったと思っている! そして、その運の良さを自分の本当の力にするべく、君と将来結婚を前提にお付き合いして頂きたい! この通りだ!」
そう言って頭を深々と下げたロガンド様に私と母は慌てたけれど、何度も「顔を上げてください」と頼んでも「いい返事を貰えるまでは出来ません!」と断られ、母は小さく息を吐き私の肩に手を当てた。
母は意を決した表情で言った。まさか、と思ったけれど――。
「ここまで傷物でも求めてくださる相手は早々いないわ。ロガンドさん、母親の私としては……娘をよろしくお願いしたいのですが」
「待ってお母さん! このドレス店はどうするの!?」
「それは貴方の弟が海外留学から帰ってから考えるから問題ないわ」
「それは良かった! では、ナディアさんはどうだろうか!」
「え!? あの……でも……私、つまらない女だと浮気されたばかりですし……」
「仕事熱心で何が悪い! 俺はそんな事は思わない!」
「ロガンド様……」
仕事熱心な事をそこまで褒めてくれる人は、今は亡き父以外では居なかった……。
思わず涙ぐみそうになった所で、母が更に言葉を続けた。
「ロガンド様。もしナディアと結婚を前提にと仰るなら、ひとつだけお願いが御座います。是非このままナディアを連れ帰ってください」
「お、お母さん!?」
「それだけの心づもりがあるのでしたら構いません。返品は不可です。……この家に、これ以上娘を置いておくつもりはありませんから」
「……お義母上の言葉を聞いて、確信しました。今は一刻も早く、君の居場所を変えるべきだと」
母は一瞬だけ私の背後――〝あの部屋の方角〟を見てから、きっぱりと言い切った。
母は一瞬だけ私を見て、ほんの僅かに口元を緩めた。
――あの時と同じ目だった。父を失った日の、あの目。
そこまで母が言い切ると、ロガンドさんは顔を上げて私と母を見つめて強く頷き、私の手を大きな手で包み込む。
彼は蕩けるような笑顔で「君を貰い受けたい」と言ってきた……。
「連れ帰ってしまって……良いだろうか」
「あの、でも着替えも何もなくて」
「後日で宜しければ記載されていた場所にナディアの服などお送りしますが?」
「そうですね、是非お願いします。ナディアさん、このまま君の当分の着替えや必要な物をこの店で購入して家に帰ろう」
「ええええ!? でも、あの、本当に、返品なんてされたら」
「俺は君を返品するつもりは一切ないから安心して欲しい! それでは後日改めて挨拶に伺いますので、その際は是非お義母様お一人でお願いします! 失礼します」
そう前置いてから、彼は私を抱き上げた。
私をお姫様抱っこして店から出て行ってしまい、母は一瞬驚いていたけれど……。
ロガンド様のお付きの人が私の着替えを諸々用意してくださったようで、次から次に別の馬車に詰め込まれていった。
私はと言うと、高そうな馬車に乗せられると、彼も乗り込み馬車は走り出した。
早すぎると頭では分かっていた。
それでも――あの家に戻らなくていいという事実に、心が先に頷いてしまった。
「ロガンド様!」
「俺の事はアルベルトと呼んでくれ。君は今日からまだ正式ではないが、俺の婚約者だ」
「そんな、私は貴方よりも10歳も年上ですよ!?」
「年上女房は金の靴を履いてでも探せというな!」
「ア……アルベルト様!」
「ははは! 色々まだ足りないものも多いだろうが、その時は使いを出そう。また買いにくればいい」
まるで昔から私を知っているのかと言わんばかりにフレンドリーな姿に毒気を抜かれた私は静かに座り、アルベルト様の住む屋敷に到着したのだけれど――。
「うそ……凄い……お屋敷……」
「ああ、俺の持ち家のひとつだな」
「うわぁ……」
「今日から君も住む。さぁ、荷物を持って一緒に帰ろう」
――こうして所謂貴族様御用達の屋敷に、私は住むことになるのだった……。




