12:救援
「んぁ!? ……あれ、まだ深夜だ。お昼に爆睡しちゃったせいかな。」
自室で目を覚ますのは、この世界の主人公である塚本樹里の親友、『夏みかん』。
なにか悪い夢でも見ていたのかばっと布団から飛び起きる彼女だったが、時刻は2時過ぎ。まだ起きるのには大分早い時間だ。目覚めた衝撃で先ほどまで見ていた夢の内容を忘れてしまったのだろう、ほんの少しだけ時計を見つめながらぼーっとし、その考えを纏め始める。
(うへぇ、寝汗でべちょべちょだ。なんかヤバい人に鍛えられてるような夢見てた気がするんだけど……、何だったんだろ? というか“鍛えられてた”っていう事だけ覚えてる感じで、誰にだとか、何をだとか、そういうの全く思い出せない。)
よくある夢のようにフレーズや一場面だけ頭に残りそれ以外は全て忘却する様なものではなく、全て覚えているはずなのに全部靄が掛かっているかのような感覚。普段とは違うソレに違和感を覚えるみかんだったが、寝間着の着心地の悪さが勝ったのだろう。それまでの考えを一旦置いておき、着替えるために動き始める。
自身のタンスを漁り、パジャマの代わりになる様なものを探すみかん。ちょうど良さそうなTシャツを見つける彼女だったが ……。すぐにその手が止まる。
(あー、なんか考え事しちゃったせいで眼が覚めちゃったかも。ぐっすり快眠できた感覚だし……、もう朝まで起きちゃおうかな?)
若さゆえの見通しの甘さ、なのだろうか。
まるで何かに思考を遮られたかのように考えを変えた彼女は、すぐに他の服を探し始める。それも普段着ではなく、外出用のものを。選んだのは骨格を隠し、出来るだけ大人の男性に見える様な服装。そこから反射板を付けたキャップを被り、“いつものようにお気に入り”のグローブ。指だしの手袋を身に着ける。
少し鏡の前で自身の身体を確認した彼女は、両親にバレぬようゆっくりと行動を開始した。
(へへ~ん! せっかく朝まで起きるんだ! 最高の夜にするためにも、物資。もとい食料は大事だよねー! 冷蔵庫の中のモノ食べちゃったら親に起きてたのがバレちゃう、だったら買いに行くしかないでしょ! ちゃんとスマホも持ったし、男の人に見えるよう服装も変えてる! これで問題なし!)
そう考えながら靴を履き扉を開けて深夜の町に繰り出すみかん。
比較的家の近くにあるコンビニ、24時間開いている場所に向かって足を踏み出そうとする彼女だったが……。またも“考え直す”彼女。
(……せっかくだから、ちょっと遠い所のコンビニしよっかな!)
近所にあるコンビニは確かにものの数分で向かうことが出来るが、あまりみかんの好まない袋菓子が多く、そもそも住宅街に近いせいで店のスペースが生活必需品に取られてしまっているため品数が限られてしまっている。だがちょっと足を延ばせば、他社のコンビニ。彼女が好むスイーツ系に力を入れている会社の店があった。
無論近所のコンビニでもそれなりのものが揃うだろうが、折角の夜更かしなのだ。好物を揃え大いに楽しんだ方が良い。
一瞬だけ今日の夕方にパフェ、山本さくらと共に喫茶店で食べた記憶が過りカロリーの心配が沸き上がった彼女だったが、即座にそれを封印。目についたもの全てを買いつくしてやろうと思いながら、足を進めるみかん。
「何かいいのが残ってると……。」
普段出歩かない深夜の街並みや自身を待つスイーツたちに気分が高揚したのか、つい言葉を漏らしてしまう彼女だったが……。すぐにその口を閉じる。
感じたのは、“本来ありえない”視線。
今みかんがいる地表からではなく、近くにある家々の二階からでもない。もっと上空、まるで上から見下ろされているような、感覚。
一瞬何かの勘違いだと考え、すぐにその思考を取り除こうとする彼女だったが……。
視界に入り込む、“自身を覆い尽くす”影。
「まずッ!?」
“何故か”体が即座に反応し、その陰から逃れるように地面を転がる彼女。
運動部どころか真面な運動すらほとんどしないみかんからすればまさに奇跡のような動きではあったが……、何故か彼女の胸中に浮き上がる、『出来て当然』という言葉。
何故そんな思考に至るのか。自分でも理解できずに困惑するみかんだったが、再度視界が黒く染まることでその考えを放棄。“慣れ親しんだ”動きをなぞるように、転がりながら回避し敵の姿を確認する。
「あ、足ィ!? というかいっぱいいる!? 何あれ!?!?!?」
“何故か”視認できる、大量の怪異たち。
足首で切断され紫の血を絶え間なく流す巨大な一本の足と、その周囲を飛び回る小さな化け物たち。本来『往霊神社』のおひざ元であるここでは発生しないはずの怪異たちが、またも現れていた。そして彼らの視線の向く先は、自分たちを視認できる存在。
霊力を持ってしまった、みかん。
「エサササ、ミツツケ、タ」
「クワセロ、クワセロ」
「ミエテル、タマシイ、タベル、タベル」
「え、狙われて……。」
「「「クワセロ」」」
「ますよねぇ!!!」
即座に逃げ出すみかんと、追い始める怪異たち。
小型の怪異は空を飛びながら彼女を追いかけ、片足の怪異は地面を大きく跳ねながらエサを追い求める。少々コミカルな動きではあるが、その速度は自動車以上。常人であればすぐに追いつかれてしまうような速度なのだが……。徐々に、少しずつその距離が開いて行く。
(ぇ、なんで私。こんな足はやく……、ぁ。)
本来人間では出せない速度。
無意識のうちに霊力を使用しその身体能力を上げていたみかんだったが、疑問に思ってしまったことで一時効力が落ちてしまう。そんな急な変化に対応できなかったのだろう、足を捻ってしまいそのまま地面を転がっていってしまう。
そうなれば少しだけ開いたはずの距離も、意味が無くなってしまう。
彼女が痛む足を抑えながら何とか立ち上がったころには、既に怪異たちはすぐそこに。
何も考えず即座に逃走を選んでいればまだ助かる道はあったかもしれないが、彼女からすればそれまでの日常が崩れ去り急に始まった非日常。本能が生き残るためにも少しでも多くの情報を欲し、思わず自身を襲う怪異たちの姿を注視してしまうが……。
一斉に開かれる、彼らの口。
「ツブシテ、タマシイ、タベベベ」
巨大な足の怪異、その足裏のすべてに顔が浮き出し始める。これまで食い散らかした人々を模しているのだろう。一つ一つ違うそのすべてが、押し潰し食らいつくための歯を輝かせている。
そして既に、彼女の身体を覆い尽くす影。
(ぁ、終わった。)
ゆっくりとみかんの視界が鈍化していき、脳裏に流れ始める走馬灯。
彼女からすれば、もう手段はない。先程は火事場の馬鹿力か何かで速く走ることが出来たが、もう一度出来るとは思えない。回避しようにも足をやられており、同時に姿勢も崩れてしまっている。
ただ死を待つことしか出来ず、遅くなった世界で自身に迫りくる大量の口を前に身を竦ませる彼女。走馬灯の内容も終盤に差し掛かり、何故かさくらと“交わしたことのない”会話が脳裏に過り疑問が生じた瞬間。
敵の攻撃が、止まる。
「大丈夫ですか!?」
主人公の、登場だ。
(……うわバチバチに決めたなぁ主人公。『隠蔽』使って真横で見てたけど、ちゃんと守ってくれてよかったよかった。)
いくら生き返らせる術を持っているとはいえ、そのまま見殺しにするほど私は堕ちてないからね。というかそんなことしたら婆ちゃんに殺されるもん。マジで危なそうになったら介入するつもりだったけど、そうならなくてほんと良かった。
ある程度こっちで誘導してたし、主人公の動向もずっと監視してたから間違いは起きないと思ってたけど……。なんにでも“もしも”ってのはあるからねぇ。
(にしても、この怪異マジでどっから出て来たんだろ?)
最初は私の式神をいい感じに使う予定だったのに、マジモンの怪異出てきちゃったんだよなぁ。
……さくしゃぁ?




