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番外 たぶんif話

ノクターンの外伝に投稿したお話しです。

魔法で避妊ができる世界。

アスカが男の時に娼館で抱いてきた女がもし、アスカを愛してしまい、あえて避妊していなかったらどうなるか?というお話です。


このお話で名前の出てくるエミーリアはアスカが娼館で出会った女性の一人です。

アスカが16歳、エミーリアが18歳の頃に2人は出会いました。

彼女は紡績工場を経営する下級貴族の娘で、両親が重い病に伏せったのと同時に工場の経営が傾き始め、工場を閉鎖せざるを得なくなりました。両親の治療費、さらに弟の学費と多額のお金が必要な時期でもあったため、彼女は家族のためやむを得ず娼婦になりました。


お金のためと割り切っていたエミーリアですが、貴族の娘として厳しく教育された彼女に娼婦の仕事は荷が勝ち過ぎました。

そこへエミーリアにとって初めての客となるアスカが訪れました。彼女はその日のうちにアスカと打ち解けていきます。

逢瀬を重ねる内にエミーリアはアスカの優しさに惚れてしまい、いつしかアスカだけを……





 おっす俺は飛鳥。50歳の冒険者。

 紆余曲折あって銀髪美少女として生きることになったおっさんだ。


「久しぶりだなー。何年ぶりだ?アーランドは。霞澄、まさかお前を旦那にして新婚旅行で行くことになるなんてな」


「私もこうなるなんて思わなかったよ。アーランドはお兄ちゃんが初めて冒険者になった国なんだよね?見所があったら教えてね」


「もちろんだ」


 そして人妻でもある。


 船着き場を降りてすぐにある入国管理所で、ギルドカード一枚見せるだけという簡単な入国手続きを済ませれば後は自由に行動していい。アーランドは法が緩い部類の国で、おおらかな国民性が特徴である。


 今晩泊まる宿を予約しておき、市場を冷やかしに行く。

 慣れた道を夫と手を繋いで歩きながら案内した。


「ついたぞ。今日は服のバザーがやってるんだな。わ、可愛いのいっぱいある!霞澄!日が暮れるまでじっくり見て回るぞ!」


「はいはいお兄ちゃん。すっかり女の子なんだから。……この服のブランドの名前、『アスカ』?偶然かな?」



 どれもこれもセンスがよくて可愛い服を胸にあててみては興奮する俺。

 気に入った品々を抱えて子連れの店主に会計をお願いする。

 主人は30代前半かな?黒髪に紫紺の瞳をした美女だ。彼女の子供は12歳くらいの女の子で母親と同じ特徴だった。

 なんとも将来が楽しみな美少女である。


「会計お願いします」


 俺は抱えた服を簡易テーブルの上に並べる。

 しかし、母親は服の方に目もくれずじっと俺の顔を凝視している。

 そして、


「見つけたわ」


 と一言呟いた。


「言った通りでしょ。今日のこの時間、この場所でバザーを開けばおじいちゃん(・・・・・・)に会えるって。あたしが運命の神ネラ様から授かった天啓の加護は人との縁を結ぶ」


「ほめてお母さん」と娘が母親に胸を張る。

 それに母親が娘の頭を撫でながら、


「そうね。そして私がアイリス様から授かった加護の瞳は人と人との繋がりを見抜くわ」

 

 意味不明なことをのたまってきた。

 いきなり何を言っているんだこの親子。


「見つけたわよ。お父さん(・・・・)。それとも今はお母さんと呼んだ方がいいかしら?どうしてそんな姿をしているのかわからないけど、貴方は間違いなく私の実の父親よ。私は貴方の娘のアスナっていうの。会いたかったわ」


 不敵に笑う母親、アスナ。

 何を言われているのかわからず俺は頭の中が真っ白になる。


「初めましておじいちゃん!あなたの孫娘のエミリーです!よろしくね♪」


「あたしのおじいちゃんすっごく、すっごく!カワイイよう♪ね、お母さんお持ち帰りしていい?」と続けてしゃべり、にっこりと笑う女の子。


「は……?孫……?」


 え?……え?え……?


 俺と大して背丈の変わらないエミリーと目が合う。

 人体のパーツであることを疑いたくなるような宝石のごとき紫紺の瞳と。


 記憶を刺激されるものがあった。そもそもこの子はよく似た名前じゃないか。あの人と。

 だけど、


「あり得ない……」


 そんな、まさかそんなことって……。


 呆然とする俺を後目にアスナは独り言のように語り出す。


「お母さんはお父さんには絶対会いに行かないでと物心ついた頃からずっと私を説得し続けてきたわ。『これは私が勝手にしたこと。あなたに寂しい思いをさせているのは私の罪ですから。本当にごめんなさい』ってお母さんから涙ながらにお願いされた。でも私はもう我慢の限界だった。お父さんがどんな人なのか知りたかった」


 あり得ない。あり得ない。

 避妊の祝福は絶対確実なんだ。

 でなければ教会と娼館のビジネスは立ち行かなくなってしまう。


「お母さんは娼婦だった。お金のためにたくさんの男の人に抱かれたわ。でも一人だけ愛してしまった男性がいた。貴方よ。お母さんは貴方との子が欲しかった。だから、娼婦として最後の日。お母さんはあえて祝福を受けずに貴方に抱かれた」


 アスナは血の気の引いた顔で硬直する俺を「まだわからないの?」と嘲笑う。


「貴方は覚えているかしら?私の母の名は」


「……エミーリア」


「そうよ。お父さん」


 感情を圧し殺した無機質な声。その声が父親と再会できた喜びなのか、断罪なのか区別がつけられない。わからない。

 ああ、よく聞けば声だって彼女とそっくりだ。

 俺は一歩一歩後ずさる。

 彼女が、エミーリアが俺の子を身籠っていたなんて……。


「貴方に隠して身籠ったお母さんが悪いと思うわ。でも、貴方はどうして身重になったお母さんに会いに来てくれなかったの?どうして探してくれなかったの?」


 エミーリアを抱いた最後の日。俺はそれが最後だとは知らずまた来るよと約束して別れた。

 探しはしたさ。でも娼館は働いていた人のプライバシーを守る。

 王都に無数にある紡績工場を探すには俺は若すぎて金も時間もなかった。こんなこと唾棄すべきくだらない言い訳だけど。

 彼女にまた会いたいという気持ちを風化させてしまった俺にも当然罪はあるのだ。

 やはりアスナの言葉は断罪だった。


 アスナは、俺の娘は口ごもる俺に対し、


「ごめんなさい。訊いても無駄だったわね。貴方にも事情はあったんだろうし。貴方にとっては無数に抱いた売女の一人に過ぎなかったわよね」


 冷ややかにそう吐き捨てる。

 実の母親を売女呼ばわりに俺はカチンときた。


「そんなことないっ!ふざけるなよ!エミーリアとの思い出は俺の大切な宝物だ!間に金のやり取りがあってもだ!娘のあんたにだってそれは汚させない!」


 俺の怒りにアスナは安心したように笑顔を浮かべた。


「知ってるわ。でなければお母さんが貴方との子だけ欲しがるものですか。お母さんには娼婦という経歴がつきまとっても輝かしい将来を約束する縁談がたくさんきたわ。でもいまだに独身を貫き通している。穢れてなお、貴方に操を立てているのよ」


 さっきの発言は挑発だったらしい。

「謝るわ。お父さんがお母さんのことをどう思っていたのか知りたかったの」と素直に前言を撤回した。


「……エミーリアは元気か?」


「もちろんよ。会いに行ってあげて」


「ああ」


 俺は棒みたいになった脚に力を入れる。

 買い物をする気などとうに失せていた。

 どの面下げて会いに行けばいいかわからないが、早く彼女に……。

 寂しい思いをさせたエミーリア、アスナ、エミリーに償いをしなければ。


「でもね、ちょっと待っていて」


「え?」


「貴方のことをお父さんって呼びたい人が私たち以外にもいるのよ。もう出てきてもらっていいわよ」


「ええ……?」


 アスナの合図と共に周りに幽鬼のような人影がゆらり、ゆらりと立つ。そして一言ずつ俺に捧げてゆく。


「父さん」

「パパ」

「父上」

「お父様」

「親父」

「母さん」

「ママ」

「母ちゃん」

「お母様」

「母上」

「おじいちゃん」

「おばあちゃん」

「お爺様」

「お婆様」


 人影の一人一人をあばいてゆけば、大半は俺の知っている人の身体的特徴を持っていた。

 そうでない人は前の俺(・・・)によく似ていた。

 表情は仮面みたいで読めない。

 親愛の情を抱いているように見えるし、怨念に身をやつしているようにも見えた。


「あ……う……」


 脳の処理が追いつかなくなり膝から力が抜ける。

 そのまま地面に尻餅をついてしまう。


 そんな俺を優しく抱き起こしてくれる人がいた。

 俺の夫だ。どんなときでも無条件に妻の味方になってくれるヒト。

 しかし、夫の美貌は笑顔を浮かべているものの目だけは笑っていなかった。


「お兄ちゃん。今夜は宿でOHANASIがあるから外出はしないでね」




 その晩俺は霞澄とエミーリア。その他大勢の息子と娘と孫たちに囲まれ夜を徹してめちゃくちゃに可愛がられた。




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