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46話 今後の方針

46話が最終投稿日として反映されていなかったようです。

大変申し訳ございませんでした。

応急処置として番外編を1章目の扱いとして移動させました。

 学院から歩くことおよそ20分。

 霞澄の屋敷に到着した。


「ここがスミカの住処(すみか)か」


「お兄ちゃん……お父さんみたいなこと言わないでよ」


 この場合の『お父さん』とは俺達共通の父を指すのだろう。

 しょうもないオヤジギャグでお茶の間を凍りつかせていたからな。


「つい最近まで世間一般的なオヤジだったんだけどなあ俺」


「――え?ああ!ああ、そういえば男だったねお兄ちゃん。最初から女の子だったような気がして忘れてた」



「……」


 お兄ちゃんと人のことを呼んでおきながら何で男だったって認識が抜けてんの?

 霞澄よ、兄という言葉を辞書で引いてきて欲しい。

 あとお前、男の俺の方が好きなんじゃなかったっけ?

 まあいいや。むさい男の俺よりは可愛いは正義に決まってるよな。

 しかし、そんなに俺は女が板についてきているのだろうか?

 今となっては嬉しいような。でも少し寂しいような。



「つい最近までお前より背が高かったんだぞ俺は。180センチは越えてた」


 モテなかったけどなと心の中で付け加える。

 俺が生まれるよりずっと前、バブル期で女が男に求める理想、三高の内ひとつに代表されるように背の高さは時代を問わずモテ要素だというのに俺は絶望的にモテなかった。

 実力も金もないルーキーのうちはそもそも相手にされず、Bランクに昇格してからは俺の金だけが目当ての美人局同然の女しかやってこなかった。

 人生とは思い通りにいかないことばかりである。

 だが、うまくいかなかったからこそ本当に好きな人と付き合えているわけだから結果オーライといえよう。


「背の高いお兄ちゃんはかっこよかっただろうね」


 そう言ってくれるのはお前だけだよ。


「今はこれぐらいが丁度いいけど」


 ぽんぽんと頭を撫でて言った。


「じゃ、中に入ろうか」




 ――――


 屋敷の内装は別荘だけあってなかなか贅をこらしたものだった。

 しかし成金趣味に金ピカかといえば落ち着きのある色合いにまとめられており、デルフィニウムのお義父さん、もしくはその祖先の人達の趣味の良さがうかがえた。


 早速霞澄の部屋まで案内される。

 部屋の中は清潔感のあるベッドが置かれている以外は魔法の教本が納められた本棚や刀剣類が壁に整然と並べられており、まるで武器庫の様相を呈していた。

 散らかっているわけでは決してないが想像していたより武骨な部屋である。

 部屋というのは住んでいる主の個性を表すというが、趣味の要素が徹底的に排されていて、霞澄の部屋だとは結びつかない。

 昔の霞澄の部屋はクマのぬいぐるみとか水色のカーテンとか女の子らしい定番のアイテムで彩られていたというのに。


「なかなかいかつい部屋だけどさ、廊下もお前の部屋もどこも散らかってないじゃん」


「清掃業者に頑張ってもらったからね、あははは……」


 露骨に怪しい。

 一体何を隠してるんだろうな?


「とりあえずお茶でも淹れてくるからここで待ってて」


「おう」


 霞澄が部屋から出ていった。

 すなわち今の俺はフリーダムである。

 もちろん霞澄が戻ってくるまで行儀よくただぼけっと待つなんて勿体のないことはしない。

 やるべきことは決まっている。

 ザ・彼氏のお部屋探索!


 ただ、霞澄が茶を運んでくるまでの短い時間しかない。

 その間に満足できそうなものといえば?


「ベッドに決まってるだろ」


 一応確認する!ベッドの下にいかがわしい書物は……!?


「ないに決まってるか。それはそれで重畳」


 それならお次はベッドの本格的な楽しみ方を披露しよう。


「へへ、堪能させてもらおっかな♪」


 マットレスにダイブしてごろごろする。

 シーツに顔を埋め、


「ふぁぁ、アイツの匂いがする。コレ好きかも……はぁぁん」



 今の気持ちを説明すると、矛盾しているが落ち着くのと同時にドキドキする。

 いつまでもこうしていたいような、心地のよい酩酊状態に陥る。

 こんな体験ができるのは彼女である俺だけだ。

 そう思っているとすぐ傍で声がした。


「マジ?うちの弟そんなにいい匂いするの?」


「マジだよ。おへその下の辺りがきゅんきゅんする」


「そりゃアイツ歩くフレグランスだわー、成分を分析して香水にして商品化したら売れないかしら?匂いだけでも貴方をイケメンに。モテる香水って売り文句で」


「いいアイデアだけどダメ。俺の彼氏の匂いなんだもん。他の男から同じ匂いがしてたらやだ」


「うっそアナタ、スミカの彼女なの!?アイツ女の子に興味ないっていうからホモだと思ってたわ」


「色々とあるんだよ。ところでアンタ誰?」


 あまりに自然だったので普通に会話に応じてしまった。

 ベッドに横になったまま相手の顔を観察すると、一言で言ってしまえば美女がそこにいた。

 スミカ(・・・)を女よりの容姿に加工して髪を伸ばしてみたと表現するのが最も適切だろう。

 身長は高いがスレンダーな体型で、白いシャツに紫色のカーディガン、黒いロングスカートが美脚に絶妙にマッチしている。

 男女の違いはあるが、体型のスマートさもスミカと共通である。

 つまりこの人は、


「やっほー、初めまして、スミカの姉のキリエよ。よろしくね、スミカの彼女さん♪」


 彼氏の姉というやつなのであった。


 …………

 ……

 …


 黙って見つめ合う俺達。

 ベッドで寝転ぶ俺をしゃがんだキリエが紅い瞳を楽し気に揺らめかせて観察している。


「や、アナタみたいな可愛い子に見つめられると照れるんだけど。似てる姉弟だからさ、あたしにも惚れちゃった?」


「全然……」


「そっかー、残念。かわいこちゃんとこのままベッドインしようと思ってたけどダメか~」


 彼氏の部屋で彼氏以外の人と同衾するのは遠慮させていただきたい。

 それよりもこの状態では失礼ではなかろうか。

 ベッドの匂いを嗅いではしゃぐとても恥ずかしい初対面をやらかして俺の体面も何もあったものではないが、とりあえずベッドの上から降りて居住まいを正す。


「ども、お邪魔してます。俺の名前はアスカ。知っての通りスミカと付き合ってます」


「うんうんアスカちゃんね、名前も可愛い!スミカが10万Gもお小遣いくれて、今日一日屋敷から出て行け、むしろ永遠に出て行けっていうから何かあるなって思ったら彼女連れ込みたかったからかー」


 どうやらキリエは霞澄と同居していたようだ。

 何で黙っていたんだか。

 追い出したいくらい嫌いなのか?

 しかし、俺は姉弟の仲を取り持ってやろうと考えていたのだ。

 まずは俺がお義姉さんと打ち解ける努力をしよう。


「ところでお姉さんは何をしてるんすか?てっきりランドーロスの屋敷で跡継ぎとして活躍しているとばかり」


 お姉さんの存在は今日知ったばかりで憶測にすぎないのだが。


「他人行儀な呼び方は嫌よ。お姉ちゃんって呼んで。できるだけ舌ったらずな感じで」


 この人の性格がだんだん掴めてきた気がする。


「お、おねえちゃん……?」


 熱烈に抱き着かれた。

 ぎゅっと押しつけるように頬ずりをしてくる。


「たまんない!なんなのこの子!?スミカもお目が高いわね!今日は泊っていきなさいよ!夜はお姉ちゃんと同じベッドで語らいましょ!

 お互いに全裸で、裸の付き合いよ」


 この人見た目はクールな美女なのに、かなり、アレだ。

 控えめに言って変態だ。



「お待たせ、おにい……、ちょっと!?何で姉さんがいるのさ!というか働きもしないでフラフラしてる穀潰しの分際でボクの大切な宝物に汚い手で触らないで!」


 霞澄が戻ってきた。

 実の姉にひどい言いようだ。

 てかお姉さんニートなの?


「こんな面白いゲストがいるならお小遣いなんていらないわ。返すわね。で、スミカはこの子抱いたの?」


 俺への頬ずりをやめないで言う。

 霞澄のこめかみが怒りにヒクヒクと動いた。

 お、この特徴はやっぱり霞澄だなあ。

 男になっても見せる表情や小さなクセはやはり妹のものだ。


「それはまだだけどチャンスは逃さないよ……って何を言わせるの!?」


「ということは処女!?処女よこの子!お仲間だわ!」


「お見合い100連敗で彼氏いない歴160年の姉さんと一緒にしないで!」


「フッ、スミカの指摘には間違いがあるわよ」


「どこがさ?」


「正確には126連敗よ。デルフィニウム家は男女に関係なく長子が家督を継ぐのが伝統だけど、パパ、あたしの婿とりを諦めてスミカを跡継ぎに検討してるかも」


「なお悪いじゃないか!父さんの苦労が偲ばれるよ!ボクはアスカちゃんをお嫁さんにして好きなように暮らすんだからいい加減に結婚してよね!

 姉さんは黙ってれば美人なんだから、お見合いで口をきかなければ済むじゃないか!」


「無茶言うわねスミカ……」


 霞澄が誰かの弟をしている姿って新鮮だな。

 お見合いで何をやらかしたのかは知らないが自由奔放で160年も働かない筋金入りのニートの姉を持って大変そうだ。

 なるほどこの人がデルフィニウム家の恥部か。

 俺とお姉さんを会わせたくなくて屋敷に招くのを渋っていたんだな。

 霞澄の根回しが裏目に出てこの有様というわけだ。

 でも仲が悪いという俺の想像はまったくの杞憂で安心した。



「ともかく姉さんは実家に帰ってお見合いに励んでよ。養ってるボクの身にもなってよね」


「えー、せっかく可愛い義妹ができたのに帰るなんて嫌よ。後100年、いえ200年はダラダラしたいわ」



「……」


 霞澄が笑顔でわなわなと震えている。

 本格的にぷっつんしてしまう前に間に入るとしよう。


「まあまあ、落ち着けよスミカ。俺達が早いところ結婚してこの屋敷を出れば、お姉さんも婚活するか働かざるを得なくなるだろ」


「それもそうだね。アスカちゃんを連れてランドーロスの屋敷に行かないと。姉さん、残り少ないモラトリアムを楽しむといいよ」


 俺の助力を得て霞澄は幾分か冷静になれたようだ。


「嘘よね……?」


「姉さんスペックだけは無駄に高いんだから冒険者でもやれば生きていけるでしょ?

 冒険者はいいよ。職歴と学歴が問われないから」


「それとこれとは違うわよ!あたしのような社会不適合者が外で働けるわけないじゃない!戦うどころか魚をさばいたことすらないのよ!

 冒険者ギルドなんて入ったらか弱い美少女のあたしは真っ先に狙われるわ!

 きっとおっかない顔の男達に絡まれて下卑た声で『ゲヘヘ、いい体してるなねえちゃん。うってつけの儲かる仕事があるんだがやらねえか?なあに未経験でもできる簡単な仕事よ。俺の槍を磨け』

 なんて言われて性欲処理人形として生きることになるのよ!

 最初はお金のために仕方なくだったけど、だんだん心も体も受け入れていって男なしじゃ生きられなくなるんだわ!」


「はぁ……」


 霞澄が嘆息して目頭を押さえた。

 絶え間なく襲ってくる頭痛を堪えているようだ。

 妹がここまで追い詰められるのを俺はかつて見たことがない。

 ならば今度はキリエの方が折れるようにフォローしてみようか。


「あのさ、お姉さん」


「嫌!お姉ちゃんって呼んで!」


 ……めんどくせぇなこの人。


「おねえちゃん……」


「なにかしら♪」


「俺も協力するからさ、お見合いでも、冒険者でもな。だから働かないでダラダラするのはやめにしないか?」


「それだけは可愛い妹の頼みでもできないわ!スミカがここから出ていくなら別荘にあるものを売ってでもこの生活を続けるわ!」


「もう姉さんは手遅れだよ。この際逃げ場を無くしちゃった方が良さそうだね。

 別荘を中身も丸ごと売却する方向で父さんに打診してみるよ」


 霞澄の言にキリエの顔が青ざめた。



「え?またまたぁ、冗談よね?由緒正しいデルフィニウム家の別荘を売ってしまうなんてご先祖様に申し訳が立たないわよ?」


「そのご先祖様は今頃草葉の陰で泣いていると思うよ。姉さんが更生するきっかけになるならむしろ喜ぶんじゃないかな?」


「そんなぁ……」


 キリエはがっくりと床に手をついてうな垂れた。

 ご愁傷様である。

 本気で悲しんでいる様子に少しだけ同情した。


「年貢の納め時だよ。父さんは間違いなくオーケーするだろうから、姉さんも腹をくくっておいてね。それじゃアスカちゃん、ランドーロスにはいつ頃行こうか?」


 今度はこちらに話題を振ってきた。

 その事については答えを用意してある。


「ああ、ランドーロスには必ず行くけどラメイソンでいくつか果たさなきゃならない用事があるんだ。それが終わってからでもいいか?

 長くはかからないから」


「うん、分かったよ。用事が終わり次第ってことで」


 ……なんか、霞澄の家に遊びに来たつもりが、今後の方針を決める会議に発展してしまったな。

 別にいいんだけどさ。


 結局話し合いの内容を細部まで詰めるために泊っていくことになった。





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