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32話 これは呪いか、あるいは祝福か

「疲れた……」


 樹海からラメイソンに帰還した俺はギルドでスミカと別れて夕暮れの商業区職人街を歩いている。

 たった1日の討伐だったというのに今にもベッドに倒れ込んで枕に顔を埋めたいぐらい疲労困憊だ。

 精神力の消耗で。


 討伐は順調だったよ?

 俺とスミカはうんm……じゃなくて!!

 パーティーメンバーとして相性が良かったからな!うん!

 俺の真の敵は仲間(スミカ)だったというだけ。

 あいつが変なこといったり頭を撫でたりしなければこんなことにはならなかったのだ。

 そのせいで帰るまで横顔をつい目で追ったり、細いけど男らしい指を見ていると意味もなく緊張するというか、

 なぜか自分でも訳の分からないことになってしまっているのだ。


 ナニカサレタヨウダ


 ……ともかくしばらくはあいつと距離を置こう!

 それがいい。


 さあ気を取り直してブラッディロアの糸をヒューイに届けないとな。

 新しいアーティファクト楽しみダナー

 ……。



 ----


「ありがとうございます。アスカさん。

 これで作業に取り掛かれます」


 ヒューイは目の下に明らかに睡眠不足と分かるクマを作って俺を迎えた。

 数日前から一睡もしていないのかフラフラだ。


「おいおい、ヒューイお前、いつから寝てないんだ?

 というか明らかに汗臭くなってるぞ!風呂にも入ってないんじゃないか!?」


「あっはっはっは、何をおっしゃってるんですかアスカさん。

 Aランクの魔物の素材が目の前にあるのに寝られるわけないじゃないですか」


 完全に徹夜を繰り返したテンションで目が逝っている。


「阿呆!それはお前だけだ!

 風呂嫌いのドワーフだってまだマシな臭いだぞ!

 ソフィーに嫌われてもいいのか!?」



 この工房の主のドワーフの職人には悪いこと言ったかなと思うが、事実なのでご容赦いただきたい。

 それとソフィーこんなになるまで何をやっていたんだ?


「そうだソフィーはどうしたんだ?」


「やだなあ、ソフィーにこの場所を教えたら僕を連れ戻しに来るじゃないですか。

 僕は完成まで絶対にここを動きませんよ!」


 ああもう!

 女心の分からないやつだな!

 ったく男ってのはこういう馬鹿ばっかりだ。

 自分の世界に夢中になると周りのことが見えちゃいない。

 でも何かに真剣に打ち込んでいる男の姿ってちょっといいかも……なんて。

 庇護欲?というかなんかそれっぽいものが……


「おう嬢ちゃんその坊主の知り合いなら連れて帰ってやってくれねぇかい?

 夜中にウチから不気味な笑い声が聞こえるって近所から苦情がきてやがんだよ」


「うひゃあ!」


 うおお、びっくりした!

 唐突な声に思考を中断されて、イタズラが親に見つかった悪童のように肩が震える。

 工房の主が作業の手を止めてこちらを覗いていた。


 さっきまで何か考えがおかしな方向で脱線してた気がするが今のでど忘れした。

 なんとなく余計なことだったという自信があるから思い出さなくてもいいや。

 それよりもだ。

 工房の親父だけでなくご近所さんにも迷惑をかけてしまっているようだ。

 そっちの方が解決すべき問題だろう。


「店の親父だってこう言ってる。

 別に俺はアーティファクトの完成なんて急がないんだからさっさと帰って休め」


「嫌です。ぼくのかんがえたさいきょうのあーてぃふぁくとが僕を呼んでるんです。

 行かないと……あはははは……」


 だめだこいつ早くなんとかしないと。


「ははは……はぅっ!」


 色々と手遅れ気味のヒューイに当身をくらわせる。

 徹夜で体力が底をついていただけにあっさり意識を手放した。

 ちょっと臭うが我慢しておぶってやることにする。


「邪魔したな親父」


「ああ、営業時間内ならいくらでも場所は貸してやるって坊主に言っといてくれや。

 最近の若造にしちゃ見込みがあるからよ」


 工房を出て、学院に戻る。


 さてまずは心配しているであろうソフィーに声をかけておくか。

 ヒューイを中庭のベンチに寝かせ、アイテムボックスから取り出した毛布をかぶせておいた。

 日が暮れて冷えてきているが旅用の毛布だ。風邪をひくことはあるまい。



 女子寮の部屋に戻るとソフィーは自習をしているようだったが、まったく手につかず気もそぞろな様子であった。


「あ、アスカちゃんおかえり」


「ただいま。ヒューイを回収してきたぞ。男子寮に入れないから中庭で寝かせておいた。

 顔を見に行ってやりな。俺が依頼をしてからずっと会ってないんだろ?」


「うん、ありがとう行ってくるね」


「そうそうあの馬鹿がソフィーに行先を言わなかったことは後でシメるとして、

 気になってたことなんだが、どうして俺にヒューイがどこに行ったのか聞かなかったんだ?

 会いたくてしょうがなかったんだろ?」


 それこそ勉強も手につかないぐらい。


「ヒューイくんがやりたいことをやってるなら邪魔したくないなって。

 好きなことに一生懸命なヒューイくんカッコイイんだもん」


 ソフィーは頬を朱に染めて理由を語った。

 おおう!おじさん口から砂糖吐きそう。

 女子的には男のそういうところポイント高いのね。


 ……はて?俺も似たようなことを考えたような気がするが……。

 まあいっか、気のせいだ気のせい。

 きっと集合的無意識だとか人というものは根底は同じであるとかそういうもんだろう。


 遠足当日の子供のようにうきうきした足どりで部屋を出ていく恋する乙女(ソフィー)の背中を見送って俺はそう思った。






ナニカサレタヨウダが分かってしまった人はソウルブラザーと言っても差し支えないかも?

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