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30話 狩り(デート)のお誘い?

PCが逝きました。

スマホ操作が苦手なため短めです。

夏のボーナスが溶ける……

 

『至高のアーティファクトの擬似神経のためにブラッディロアの糸が必要です。

 アスカさん、お手数をおかけしてしまうことになるのですが採集をしてもらえないでしょうか?

 市場に出回っているものは数が少なく、質も納得のいくものじゃないんです』


『分かった。魔物そのものに遭遇できるかは運次第だが、集めに行ってこよう』


 ヒューイにサイクロンマンティスとクロスアントリオンの素材を用いたアーティファクトの製造を依頼して1週間後、物資の不足を訴えてきた。

 設計が完了した後は街の鍛冶工房で素材を加工して組み上げるだけなのだが、物が足りなくては作業は停滞してしまう。

 ヒューイの注文を快諾した俺はブラッディロアが生息するラメイソン東部のトールス樹海に向かうことにした。


 ブラッディロアとはBランクの蜘蛛型の魔物で、パーティー前提だが俺も若い頃に討伐したことがある。

 戦い方は心得ているので今ならソロでも問題はないだろう。

 樹海は障害物が多いためコマちゃんを連れて行けず移動に少々不便だが、至高のアーティファクトのためなら面倒なお使いだろうと張り合いが出るというものだ。


「おっと、先にギルドに行っておかないとな」


 討伐報酬の出る魔物だということを思い出し討伐数カウントアーティファクトを借りるためギルドへ寄っていく。

 午前中の最も混雑する時間なのだが、巨乳受付嬢のカウンターが男性冒険者の行列を作っていることを除けばがら空きだ。

 学術都市とも言われるラメイソンに住んでいても男の冒険者というのはどこも変わらない。

 劣情の塊なのである。


 室内の様子を確認した俺は迷いなく男性冒険者達の行列の最後尾に並んだ。

 手続きの僅かな時間の間に楽しむことのできる一服の清涼剤を求めて。


 もちろん行列の存在を快く思わない者もいる。

 忙しさがピークに達した受付嬢は言わずもがなだが、仲間の手続きを待っている女性冒険者達の苛立ちがマックスだ。

 彼女達のトゲトゲしい軽蔑の視線が並んでいる男性冒険者に突き刺さり、彼らは居心地が悪そうにみじろぎした。

 だが針のむしろに置かれてなお、列を抜ける者は一人もいない。

 皆崇高な使命のために我が身を省みない殉教者のようであった。

 巨乳を間近で拝むチャンスのためならば後の折檻など蚊に刺されたほどにも感じないのだろう。

 クエストに行く前に精神のスリップダメージを敢えて受けに行く男気、俺は嫌いじゃないぜ。

 なにしろ俺も同じ穴のムジナだからな。

 明らかに男達の列に場違いな少女の俺にはイバラのような視線は向けられていないのでダメージは無いんだが。

 というより他のカウンターが空いているのにわざわざ列に並んでいるということはこの女の子はルーキーなのかな?

 そう判断されてしまっているようだ。

 仲間を待つ女性冒険者達の内の一人が親切心を発揮して席から立とうとするのが視界の端に映る。

 どう言い訳したものかと悩んでいると唐突に背後から声をかけられた。


「アスカちゃん?」


 声の主はフロックコートの銀髪美少年、スミカだ。


「しゅ、しゅみか!?」


 俺のちょっと苦手なタイプの少年に名前を呼ばれて思わず声が上ずる。

 彼の顔を見上げた途端、焼き鳥屋で唇や頬を触られたり、色々とからかわれた記憶、追撃に初対面でお姫様抱っこされたトラウマが雪崩のように怒濤の勢いでフラッシュバックして――処理不能の莫大な情報量に俺のデータセンターはパンク。

 心象風景のお客様相談室の電話が鳴りやまない。

 マニュアル一辺倒の相談窓口の彼らが解決策を用意しているはずもなく、目の前にいるわけでない相手にペコペコと頭を下げながら謝罪の言葉を口にするのみ。


 すぐに言葉が見つからない俺は人見知りの幼稚園児のように肩を縮こまらせて、床の染みを見つめて棒立ちになるしかないのである。


「おはよう。アスカちゃんは今日は仕事かな?」


 スミカは俺より30センチは高い背を丸めて顔を覗きこんできた。

 相手の目線に合わせる、子供の警戒心を解くときの模範的な対応だ。

 しかし年齢が自分の3分の1ぐらいの少年に大人の接し方をされては沽券に関わる。

 目を閉じて呼吸を落ち着けろ。

 すーはー、すーはー

 よし!

 次は


『よう、スミカこそどうしてギルドに?』


 と適切に返してやるのだ。

 まずは相手に目を合わせるのがコミュニケーションの基本。

 閉じていた目を開く。


「……!?」


 顔近っ!

 というか距離が近づいてきてるんですけど!


 ぴたっ


 ひんやりとした手のひらの感触が俺の額に当たる。


 ひゃあああ!?


「熱はないみたいだね。もし体調が悪いならお休みした方が……

 アスカちゃん?」


「……へ、へいきっ!

 それよりスミカは学校はいいのか!」


 また顔を触られた!

 ちょっと気持ちいいかもって思った!

 もうお嫁行けない!

 お嫁ってなにっ!?

 うわあああん!

 スミカのバカヤロウ!


「ごめん、言ってなかったね。

 ボクもアスカちゃんと同じで冒険者組なんだ。

 討伐に行かない日は講義にも出席しているけどね」



「へ、へぇー、そうだったのか。

 ヴァンパイアなら納得だわ。ウンウン」


 ヴァンパイアは魔力、身体能力どちらにも優れた種族だ。

 冒険者でも十分に通用する。

 日照時にステータスが弱体化するデメリットがあるが、スミカの場合はデイウォーカーのスキルで帳消しになっている。

 時間を選ばず戦えるならどのパーティーからも引っ張りだこだろう。


「研究者志望の学生が多いラメイソンじゃ冒険者は不人気だけど、ボクは魔物と戦っている方が性に合っているかな。

 学院の成績評価とギルドの報酬がもらえて一石二鳥だからね。

 そうだ、アスカちゃんは今日どこに討伐に行くんだい?」


「トールス樹海にブラッディロアを狩りに行くところ。

 ヒューイに素材集めを頼まれてな」


 落ち着けー、ステイ、オレステイ。

 いつも通り冷静にかつ端的に会話するんだ。

 こいつに笑いの種を提供してはならない。


「それ、ボクもついて行っていいかな?

 トールス樹海ならボクも行く予定だったし、一応Aランクの冒険者だから足手まといにはならないと思うよ。

 今までソロでやっていてね。パーティーを組む相手が欲しかったんだ」


 ついてくるの!?


 先日の生物災害で俺はかつての悲願だったAランクに上がっている。

 パーティーメンバーとして釣り合いはとれているのだが、スミカといると必要以上に緊張しそうだ。


「今回修行のためにハンディキャップの魔法で能力を制限して戦うつもりなんだがいいか?

 具体的に言うとBランクの冒険者ぐらいのステータスにしようと

 思ってる。

 だからかえって俺がスミカの足を引っ張ることになるかもしれないぞ?」


 最初から役に立たないと宣言する者をパーティーに入れようとする冒険者は普通いない。

 遠回しに断られそうな発言をしてみる。


「付き合うよ。後輩のサポートも先輩の務めだしね。

 それにいついかなる場合でも女の子に優しくしてあげてというのが兄さんの教えだから。

 いざとなればボクがアスカちゃんの盾になるよ。

 何があっても君を守りきってみせる」


 端整な顔を凛々しく引き締めてスミカは己の信条を語る。


 ああ、もう!

 そんなくだらないモットーを弟に教え込んだ兄の顔が見てみたいわ!!

 俺がヘマして怪我しても知らないからな!



 ――

 そんなわけで結局スミカに折れてしまった俺はトールス樹海に二人で向かった。



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