25話 予定を消化していきます
そして私はサリ裏に侵入していきます。
ラメイソン魔法学院女子学生寮にて
入学手続きを終えて指定された寮の部屋に向かうと顔見知りの女子生徒を発見した。
「なんだ、俺の同室ってソフィーだったのか」
「あれ?アスカさんなぜここに?」
行きずりで出会った冒険者が学生寮の自室に現れたのだ。
ソフィーが驚くのも無理はない。
「ここで人捜しの用事があったんだが、事務所の連中に外部の人間には教えねーって言われてな。
仕方なく試験を受けて入学した」
「人捜しって冒険者ギルドのクエストか何かでですか?」
「んにゃ、俺の単なるお節介」
「報酬がないのに受けたんですか?わたしを助けてくれた時と同じように。
高いお金を払ってまで入学して?」
そこなんだよなぁ
最近ずいぶん情に流されやすくなったわ。
おかげで金がない。
おっさんだった時より金がない。
魔人化して散財したくなるデメリットスキルでもついたか?
人のせいにすることではありませんね。完全に俺の過失です。
「まあな。道楽者のやることだ。気にしないでくれ。それよりソフィー、同級生で同じ部屋で生活するんだからくだけた口調で話さないか?俺のことは呼び捨てでいいからさ」
「でも命の恩人ですし……」
「いいからいいから。年下の女の子に丁寧語を使われたら俺が落ち着かんよ」
「えーと、うん、分かったアスカちゃん。講義が始まるのは明日からだけど今日はどうするの?」
「情報収集だな。急ぎじゃないから適当なところで切り上げて錬金術師ギルドと冒険者ギルドに行くつもりだ。
ソフィーは?」
「えっとヒューイくんと街を散策しに行く約束してる」
おお!?これはラブ臭がするぞ。
「なんだ、デートか?」
にやにやしながら問いかけてみる。
ソフィーは想定通りに顔を赤くして答えた。
「わたしはそのつもりなんだけど……
ヒューイくんは地元にはない本屋さんに夢中みたい」
かぁー!あまずっぺぇなぁおい!
「あの、アスカちゃん」
「なんだよ?」
「ヒューイくんをとらないでね。
寝顔かわいいから膝枕してあげたくなるのも分かるけど」
はあ?誰が誰をとるって?
俺が?あの坊主を?
「バ、バカ!俺はオークも一人でしばけないような軟弱野郎には興味ねえよ!
ソフィーをかばった男気は認めてやらんこともないがな!」
言ってしまってから気づいた。なぜ俺はツンデレみたいなセリフを吐いているのかと。
妹の影響だな。
勘違いするなよな!あいつの面倒臭い話し方がうつっただけなんだからな!?
って言い訳する方が意識してるみたいじゃないか、俺のバカ!
「じゃあ、わたしのこと応援してくれる?」
「もちろんだとも!応援しちゃう。
そりゃもうソフィー達が毎晩外泊して帰ってくるぐらいになるまで」
「やだもう//アスカちゃん。
そういうのはたまにでいいよう……」
いいんかい!?
顔をゆでダコみたいに火照らせて体をくねらせながら言う。
実家を離れて彼女は相当解放感に浸っているようだ。
優雅なお貴族様も色々と苦労があるのだろう、同室のよしみとして生温かく見守ってやるとも。
だが、ヒューイ、お前は木端微塵に爆発しろ。
あの地球人のようにね。
「そういや姉がいるって言ってたっけ?
実家はお姉さんが継ぐのか?」
「うん、お姉ちゃんはわたしと違って優秀だから。
わたしはヒューイくんのお家にお嫁さんにいければなって。
きゃ//」
またもソフィーは頬をおさえて身じろぎし始めた。
若いっていいねぇ
日本にいた頃、馬鹿ばかりやってまともな恋愛のひとつもしてこなかっただけに眩しく映る。
少女よ青春を謳歌せよ。
ただし、教会で性病と避妊の祝福魔法を受けてからお付き合いするように!
そんなわけでソフィーはデートのために気合を入れて部屋から出て入った。
俺はというと荷物は全てアイテムボックスにあるので荷ほどきする必要がない。
自分に用意されているスペースだけ殺風景である。
クローゼットを開けると学院の制服が入っていた。
白い簡素なブラウスに真っ赤なチェックのスカート、同色のジャケット。
日本のアイドルユニットが着ていたものを地味というか、大人しめにしたデザインだ。
赤という目立って当たり前の原色を採用していながら、奥ゆかしさが感じられる。
可愛い制服だと思う。
旅のために見た目に関して妥協した服を着ているので、可愛い服を着ることには飢えていた。
早速服を脱ぎ捨てて、制服に袖を通した。
制服には複数のエンチャントが施されていて、サイズを着用者に合わせて補正する効果、魔法を扱うためだろう属性と毒への耐性が付与されている。
申し訳程度のものだが。
種類は分からないが、魔物の体毛と魔力伝達に優れた植物の繊維からなる複合素材でできており、戦闘にも耐えうる一品だと分かった。
今さらの説明となるが、ラメイソンの魔法学院では講義への出席は自由だ。
定期試験も受けなくてよい。
代わりにそれを選択した学生は何らかの成果を学院に報告する必要がある。
俺のように冒険者として実績をあげるもよし、研究に没頭して新開発した魔法や新たな理論を発表するもよしだ。
別に進級するつもりはないが、講義にほとんど出席しない理由として冒険者であることをアピールしておくことにする。
ちょっと脱線したな。
つまりこの制服は立派に戦闘服なのである。
冒険者をする学生のための。
まあ、今は機能性よりもデザインだ。
姿見の前に立ってみるとそれはもう現実離れしたキュートな少女が映っている。
制服のサイズ補正効果のおかげで、ピッタリと合っていて制服に着られている感もない。
最初から俺のためにあつらえてあったとしか言いようのない出来だ。
しかし膝丈のスカートじゃ剣は振るえないよなー
なんかないかなー
クローゼットからタンスの中を漁ってみると黒いスパッツが出てきた。
やるじゃん魔法学院。
女子生徒でも冒険者稼業ができるようにサポートが行き届いている。
実に素晴らしい。
ぶっちゃけ制服が入手できるだけでも入学した価値があったんじゃないかと思える。
もしかすると中古で購入もできたのかもしれないが。
この世界にもあるのだろうか?ブルセ……
いや、なんでもない。
それ美少女が口にしてはいかんセリフだったわ。
さ、身だしなみも済んだことだし人捜しを始めるか。
―――
ジュノンなる女性の所在はちょっと聞き込みをするだけですぐに知ることができた。
まず、あの死霊術師が言っていた『同級性』という言葉からして、召喚魔法科の学生ではないかという推測をした。
死霊術は召喚魔法のカテゴリーに分類されているからである。
そしてジュノンという『盲目』になった『主席』がいないか召喚魔法科の学生に聞き込みをしたところ、今は教員となっていることが判明した。
手掛かりが十二分に揃っていたために特定は非常に簡単だった。
それは良かったのだが、
「プロフェッサージュノンなら外国の学院に出張に行ってるわよ。
それよりアナタカワイイわねお菓子あげるからお姉さんの部屋に来ない?」
聞き込みに応じてくれた召喚魔法科の学生はそう言った。
長期の出張ではないとのことで何カ月も待つようなことにはならないそうだ。
目が見えないってのにアグレッシブな先生である。
それなら気長に待たせてもらおうと思い、捜索を一時保留とし、錬金術師ギルドに向かうことした。
―――
錬金術師ギルドでの目的はオーガ素材の売却である。
オーガの睾丸、金玉の売却である。
んもぅ!美少女に睾丸とか金玉とか言わせないでよね!
恥ずかしいんだからね!
…………
「保存状態に問題ありませんし、良質な素材です。相場より少し高めに1個110万Gで買い取致しましょう」
220万Gゲット。
その金で武器屋に赴き、討伐で使ってみたかった武器を買い込んだ。
総額100万G、金が湯水のように飛んでいく。
今の俺にとっては割とロマン寄りな武器に。
だが、人生を豊かに生きるコツというのは生産性のない行動にあると思う。
狩り場の条件に合えば披露するのでぜひ期待していただきたい。
飽きたらハードオフするか、面倒だからアイテムボックスの肥やしにしておくか。
いい加減なものである。
こういうずぼらな女こそが20台前半の若さにも関わらずテレビで紹介されるゴミ屋敷の主人になるものなのですよ。
――どうでもいいことだったな。
時間は有限、失った金を取り返すためにも今度は冒険者ギルドに行って仕事を受注せんと。
チート能力を手にしても以前と変わらず俺は多忙のようである。
―――
「つーわけで、姉ちゃん。
大量発生している魔物の討伐依頼とか出てない?
できるだけ1体あたりの単価の高いやつでヨロシク」
巨乳の受付嬢の豊かな谷間をガン見しながら注文する。
「まず、東の草原地帯に集落を作っているコボルトおよそ30体を掃討して欲しいというのがありますね。
近隣の村の家畜や野菜が被害に遭って困っているそうです。
一体あたり、1500Gとなります。
コボルトリーダー種が数匹確認されています。こちらは3000Gです。
全滅が確認されましたら追加報酬として5000Gが支払われます」
受付嬢が俺の期待に応えてメロンのようなおっぱいを揺らしながら案内してくれた。
眼福眼福。
こういう受付嬢がいれば仕事にもモチベーションが保てるってもんだ。
しかし最下級を全部狩ってもだいたい45000Gか。
以前の俺でもそれは受注せんわ。
E~Dランクパーティがこなす依頼だしな。
「他には?」
「これより高額のものは午前中の内に全てのパーティが受注されていますね。
ギルドから常時出ているのは都市周辺に出没するゴブリンやハウンドウルフの間引き程度でしょうか」
道理でギルド内の冒険者の数が少ない訳か。
皆既に出発しているのだ。
他の用事に時間を割きすぎて完全に出遅れた。
うーん、ゴブリンやハウンドウルフの間引きだと駆け出しの仕事だしな。
新人の仕事を奪うわけにもいかん。
妥協してコボルト討伐やるか。
いや、それとも遠乗りして森林地帯にでも入るか。
「姉ちゃん都市から離れた場所でいい。
Bランク以上のモンスターが出没する地域を教えてく……」
「アリだーーーーーーー!!!!!!!!!!」
突如閑散としたギルド内に満身創痍の冒険者の大声が響いた。
どうやら次の俺の獲物が決定したようだった。




