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24話 ガール(?)ミーツボーイ その2

「ここならもう男達も追ってこれないだろうね。

 気分が悪いとかない?」

 抱っこしたまま、耳に優しい王子様的テノールボイスで声をかけてくる。

 そもそも魔物との戦闘経験もロクになく、街中で弱者を食い物にするしか脳のない連中に建物を飛び越えるような魔力と身体能力はないのだが。


「お、おう。ありがとな。それより下ろしてくれないか?人に見られてる」

 助けてもらう必要は特になかったのだが、一応礼は言っておく。


「これは失敬。気が利かなくて。

 とりあえず人通りの多いところに来たけど大丈夫だったかな?

 勝手に貴女を攫ってしまったのだから、よければ目的地まで案内させていただくけど」


 見回すと宿の密集する区域から離れ、飲食店が建ち並ぶ区域に来てしまっている。


「問題ない。宿を探しに来たんだが、丁度いい、先に晩飯にしようと思ってたところなんだ」

 食事にしたいのは事実だったし、もう一度お姫様抱っこのツアーはご免こうむりたかった。


「旅人さんだったんだね。よかったらボクもご一緒してもいいかな?旅の話に興味があるんだ。

 ってなんだかナンパみたいだね。

 そういうつもりじゃないから安心して。ボクは女の子には恋愛感情はないから」


 こいつホモかよ!?ある意味安心したわ。

 なら断らなくてもよさそうだな。

「いいよ。一人飯よりは誰かと食った方がうまいに決まってる」



 そういうわけで適当な定食屋に入って注文した料理を待つ間差し向かいに座って少年と雑談する。

 ちなみに酒を注文したらウエイトレスの姉ちゃんに拒否された。

 ぐぬぬ!!

 代わりに出てきた柑橘を絞った甘いジュースで喉を潤した。

 そんな俺を頬杖をついて微笑ましく見守る少年。

 ぐぬぬぬぬ!!!!

 と、ともかく少年との会話に専念しよう!



 ーー

「へぇー魔法学院に入学したんだね。

 それじゃあボクの後輩だ。

 申し遅れたけど、ボクはスミカ・デルフィニウム。

 同じ精霊科の2回生だよ」


 学生だったのか。しかも同じ学科の。


「俺はアスカだ。姓は平民なんで無い。

 よろしくな」


「!?」


「本業は冒険者だから学院にはあまりいないと思う――どうした?血相変えて」


「いや何でもない。いい名前だね。ボクの生き別れの兄と同じ名前だったんで驚いただけだよ」


 珍しい偶然もあるもんだな。

 まあ、俺は自分と同名の人間に会ったことは何回かあるんだが、全員女性だった。男だとこの世界じゃ滅多にいない。


「生き別れね……貴族だと色々と面倒な話だろうから聞かんでおくわ」

「うん、内情は話せないんだけど。

 アスカちゃんは旅の途中で同じ名前の男性に会ったことはないかい?

 どうしても会いたくて休暇をとっては外国にも捜しに出ているんだけど。成果無しでね。

 どんな些細な情報でもいい。藁にもすがりたい気持ちなんだ。

 人一人捜すにはこの世界は広すぎる」

 こいつの兄ならさぞかしイケメンなんだろうな。

 イケメン蒸発しろ。

 ……してたか既に。


「生憎だがアンタのお兄さんらしき人に会ったことはない。俺の出会ったアスカという名前の持ち主は全員女だった。

 それとやんごとなき事情で行方不明になっているんなら名前を変えている可能性があるんじゃないか?」

「そうだね。ボクが一目でも見ることができれば兄だと分かるんだけど……

 他の人から見たら時間が経ちすぎていて見分けはまずつかないだろうね」

「その内見つかるといいな。まあ、冒険者稼業の傍らそれらしいのがいたら教えてやるよ」

「ありがとう。最愛の兄だからね必ず見つけ出してみせるよ。

 どこかで生きていることは確実なんだ……!」


 麗しい兄弟愛だな……

 しかし、こいつ女の子に恋愛感情はないって言ってなかったか?

 まさか近親相ホモ?

 おいおいよしてくれよ。

 世の中にホモがごろごろとありふれていてたまるものか。

 知り合いのプリーストのおっさん一人で十分だ。

 不安なので一応確認しておこう。

 こいつとの付き合い方を推し量る意味でも。


「スミカはお兄さんのことはどう思ってるんだ?」


 どうか俺の考えが間違いであってくれ。


「愛してる。狂おしいほどに」


 スミカは短く情熱的に言った。


「そ、そうか。それは恋愛対象として?」

「無論。他にどんな解釈の余地が?」


 あるよ!ありまくりだよ!!

 逃げて!お兄さん超逃げて!

 この(変態)、お兄さんの心とお尻を狙ってます!


 俺が学院で初めて得た先輩の知己は異色のブラコンヴァンパイアなのであった。



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