22話 履歴書の最終学歴に書けますか?
「で、魔法学院に行く途中でオークの襲撃に遭ったと。
災難だったな。ああいうのは無駄に知恵が回るから始末が悪い。
力が強いだけの魔物よりよっぽど厄介だ」
固い黒パンを味の薄いスープに浸して食べながら言う。
2人とも食欲がないということで、昼飯を食べているのは俺とコマちゃんだけだ。
大人の仲間が3人全て殺され、少女、ソフィーの方に至ってはオークに凌辱されかけたのだ。
落ち込んでしまうのも無理はあるまい。
「これからどうするんだ?亡くなった騎士はソフィーの身内なんだろ?」
「彼らの家族への補償をするためにもそのままラメイソンに向かおうと思います。
地元から大分離れてしまったので帰るより進んだ方がマシですから。
学院にはお姉ちゃんがいるので頼れますし、
実家につなげられるだけの通信用アーティファクトも学院にありますから」
「そうか。
ところでものは相談なんだが、俺を護衛に雇う気はないか?
ちょうど俺もラメイソンに用事があってな。行き先は同じなんだ。
腕前は知って貰えたと思う。決して損はさせないぜ。
また、オークみたいなのが出た時ひよっこ魔術師じゃ対処できないだろ?」
「……」
「悔しいけど、彼女の言う通りだよ。
僕たちだけじゃ危険すぎる」
「……うん。
よろしくお願いします」
「オーケー
よろしくなヒューイ、ソフィー。」
複写したギルドカードを2人に渡す。
会社員でいう名刺みたいなもんだ。
ちなみにグリーンウッドのゴブリン討伐で俺のランクは駆け出しから一気にCランクに上がっている。
(死霊術師討伐は領主直接の依頼でギルドを介していないため評価対象外だ。)
「見ての通りCランク一人分。学生の財布にも優しいお手頃価格だ。
街までもう少しだし割引しておくよ」
そうして短い旅を続けて俺達は無事学院に到着した。
報酬を受け取り、別れの間際、
「アスカさんありがとうございました。
感謝してもしきれません。
ぜひ、今度お礼をさせてください。
ラビリンシアン家の一員として恥ずかしくない報酬を差し上げたいと思います」
「んー、しばらくこの街にいるからな。考えとくわ。
そうそう、依頼があれば冒険者ギルドにご指名で出してくれると嬉しいな。
学校の課題は手伝ってやれんが素材収集なら一家言ありだ。
金さえ積めば火竜の角だろうが、キマイラの尻尾だろうがもいできてやるよ」
「それなら僕は魔道具科なのでぜひ依頼させてください。
修行中の身ですがアーティファクトの作成技術は実家で叩きこまれています。
入用なものがありましたらソフィーを助けてくれたお礼に無料でお作りします」
「おう、そんときは頼むな。
じゃあ、学業に励みたまえよ少年」
「「ありがとうございました!」」
―――
2人と再び会う約束をしてから俺は学院の事務所に向かう。
ヒューイとソフィーはこれから入学手続きに入るらしい。
各々の学生寮の方に荷物を運びに行った。
で、受付で単刀直入にジュノンという女性に会わせてくれないかと頼んだわけだが、
「申し訳ございません。当学院に在籍する学生、教員の情報につきましては個人情報保護のため、外部の方には公開することができません」
ときたもんだ。
日本並に個人情報の保護徹底してんな。
厳重すぎ。
それだけ魔法の研究が富を生むことは分かるんだけどな。
「どうしてもか?」
「はい、一部例外がありまして、外部の方が教員と接見する場合に関しましては当学院の認めた紹介状をお持ちの身柄が判明している方にのみ限らせていただいております」
あの死霊術師は『同級生』とか『首席』とか言っていたよな。
つまり学生のはずだ。教員ではない。
マジか……
ふむ。
待てよ。
外部の人間が駄目なら、内部の人間ならいいのか?
「ちょっと待った。この学院の学生になれば教えてもらえるのか?」
「学生同士といえど個人情報は非公開ですが、ご自身で交流をもっていただく分には当学院は関与いたしません。
ただし、行きすぎた嫌がらせや私闘に及んだ場合は放校処分となりますのでご注意ください。
入学についての案内を受けますか?」
「頼む」
交流が自由なら首席の学生を特定するのは難しい話じゃない。
名前も判明してるしな。
「当学院は国内国外問わず全世界で通用する魔術師の育成のため、厳しい入学試験を課しております。
合格された場合は入学金、授業料、学生寮での生活費を含め、1年間で200万Gを頂いております」
げえ!?200万G!?
たけえなオイ!
エリート校だとそんなにすんのか。
んー、200万Gで目の持ち主に光を取り戻してやれる……か。
今まで金に汚いシビアな生き方で人を見捨てたことなんて数えきれないほどあった。
誰でもかんでも助けてやれるほど強くなかったからな。
だが、魔人少女は違う。目に映る人ぐらい驕りでもなんでもなく救える。
そんな俺が女一人助けられなくて、女性に優しくがモットーなんて口が裂けても言えねえ。
200万Gぐらいならすぐに稼げるだろう。
……しゃーねーな。1年分の宿として使ってやるか。
豪遊すんのは後の楽しみにするべ。
「分かった。受験の内容について聞かせてくれ」
「はい、現在1回生につきましては定員に達していないため、枠がございます。
従って受験は可能です。
ただし、年に一度の受験シーズンが過ぎているため、特別枠での受験となります。
通常の受験料は1万Gですが、特別枠のため、1回50万Gを頂きます。
合格でも不合格でも受験料はお返しすることはできませんのであらかじめご了承ください」
受験料までぼったくり価格だな。
まあ、教官を緊急で用意する手数料ってのがあるか。
高位の魔術師の人件費はべらぼうに高いからな。
受験料が安ければ学院の求める基準に満たない輩が殺到する。
金も稼げないような半端者に無駄な時間を割くわけにもいかないのだろう。
「現在、精霊科と召喚魔法科、奇跡科に空きがございます。
学科によって試験の内容が異なります。希望と適正に合わせた学科の受験を推奨いたします」
「なら精霊科で頼むわ」
「はい、精霊科ですね。――50万Gも確かに受領いたしました。こちらが領収書でございます。
明後日の午前9時より受験を始めます。原則として遅刻は認められませんので時間に余裕をもってお越しください」
そんなわけで俺の人生初の受験戦争?とやらが始まったのであった。




