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20話 vs豚野郎

エログロ注意です。

投稿時大量のミスがありました。

大変申し訳ございませんでした。

 

 新しく旅の仲間となった騎乗用モンスター、コマちゃんを伴い、魔法都市ラメイソンに向かう俺。

 特に何の障害もなく、街道沿いに進み、いくつかの宿場町を経由して道程の8割程までやってきた。

 グリーンウッドを出発してから2週間の間でコマちゃんはすっかり従順なペットと化している。

 道中遭遇した雑魚共を魔法と大剣片手に軽々となぎ払い、時には守ってやったので畏敬の念のようなものが芽生えたのだ。

 なので普段の恭しさときたら、人間だったら『肩でも揉みましょうか?ご主人様』と言わんばかりの服従具合なのである。

 即堕ち2コマもいいところだ。

 だが、それも俺が強くて可愛すぎるのがいけないのだ。(自画自賛)

 うむ、苦しゅうない。よきにはからえ。

 彼の忠誠に頭の鱗を撫でてやることで応えることにする。

 魔人族最後の女王?として初めてできた家臣なのだ。

 忠義を示されたのなら全力で寵愛を注いでやることもまた、女王の勤め。

 与えられた魔人族の知識、お姫様指南書(幼児編)から得た道徳教育の教えに倣い、まめにスキンシップを図っている。

 つるつると堅い鱗の質感はなかなかに気持ちいいもんだ。

 だけど、お前はまだまだだからな。

 ご褒美にちゅーしてやれるぐらい立派な男になれよ。

 と鞍に跨がりながら首を叩いてやる。

「クエッ!」

 俺の期待を受けてコマちゃんは威勢よく鳴いた。



 朝から見渡す限りの草原となだらかな丘が続く街道を行くこと4時間。

 日が一日で最も高い位置に近づきつつある。


「腹減ってきたし昼飯にするかコマちゃん」

「キェ」


 鞍から降り、アイテムボックスを発動しようとしたところで、35年間何度となく嗅ぎなれていながら非日常と断言できるツンとした悪臭が鼻腔を刺激した。

 心と体の中にある戦士としてのギアが即座に戦闘モードに切り替わる。

 優れた嗅覚が臭いの正体を分析し結果を報告する。

 それが今流れたばかりのヒトの血臭であると。

 ヒトのもの以外に感じる体臭が6つ。

 浮浪者のような酸味の極致というべきすえた体臭。

 それらが過剰に発する興奮の混じった汗の匂い物質。

 発生源は街道の前方3km程先だ。

 何らかの魔物に人が襲われていると判断した。

 野盗ならどうでもいいが、一般人だと後で死体に遭遇した時夢見が悪いな。


「コマちゃん俺は先に行く。後からついてこい」


 鞍から飛び降りると魔力の足場を連続で生成し、狼藉が行われている現場へ直行した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「危ない!ソフィー!」

「きゃっ!?」

 幼馴染の少年、ヒューイくんに突きとばされ、詠唱中だったファイアーボールの魔法が霧散する。

 わたしのいた場所に木で出来た棍棒が唸りをあげて通過し、ヒューイくんの首筋を強かに打った。

「カハッ!?」

 肺の空気を残さず絞り出したような悲鳴を上げて彼はそのまま昏倒し、動かなくなる。

「ヒューイくん!」

 倒れたヒューイくんを抱き起そうとするが、尻もちをついてしまっていたためすぐには立ち上がれない。

 もたついている間に汚物を思わせる生臭い息が頭の上から吐きかけられた。

 ヒューイくんを棍棒で殴った犯人のものである。

 おぞましい気配と触れられてもいないのに感じる体温の発散に全身の産毛が粟立った。

 その犯人は成人男性の胴体程もある腕を背後から肩のあたりに伸ばしていき、分厚いグローブのような手でわたしの手首を握って持ち上げる。

「ひっ!?痛っ!いやっ!はなして!」

 逃れようと肩に力を込めるが、15歳の力仕事とは無縁な少女の細腕では抵抗が敵わない。

 足は既に宙にぶら下がっており、両耳を掴まれ捌かれる直前の家畜の兎とよく似た状況となってしまっている。

 無駄と知りつつ足の裏で背後の巨体を蹴りつけるも、硬い天然ゴムのような手ごたえが返ってくるだけで、効果を発揮しているようには思えなかった。


「グヒヒィ!」


 背後の巨体が獲物となっているわたしの活きの良さを歓迎して嗤う。

 そこへ正面からわたしを捕まえた犯人とほとんど同じ容姿の、豚の頭がのった醜悪な外見の人型の魔物、『オーク』がもう一体現れた。


「グヒィ!ブル、グヒヒヒィ!グヒイ!グヒヒヒィ!」

 家畜の豚と同じ鳴き声だが、家畜にはない悪意が籠っているのが、言葉を介さずとも理解でき、ひたすらに気味が悪かった。

 正面のオークがわたしの顔に豚面を近づけ、鼻を激しく蠕動させ、生温かい息を吐いた。

 拘束されているため手のひらで顔を覆うこともできず、咳き込むことしかできない。

 胃液が逆流し、えづきそうになる。

 わたしの反応に気をよくしたオークは口を三日月形に歪ませ、にんまりと、やはり家畜の豚では不可能な生理的嫌悪感をもよおす笑みの形相を作り、満足げに笑った。



 ―――わたしはどこで間違えてしまったのだろう?

 絶対絶命のピンチの状況に走馬灯と呼ばれるものなのか過去の記憶が唐突に甦る。



 わたし、ソフィー・ラビリンシアンは代々続く貴族であり、魔術師の家系でもあるラビリンシアン家に次女として生を享けた。

 わたしにはとても優秀な姉がいて最近不幸な出来事があったものの、すぐに復帰し、異例の若さでラメイソンの魔法学院の教師として採用され教鞭を振るっている。

 幼い頃から両親の期待を一身に集め続けた天才の姉の存在は、魔術師として並の才能しか持たないわたしを劣等感の底無し沼に落とすことがあった。

 しかし、妹としてはこの上なく敬愛している肉親である。

 厳しい魔法の勉強やお稽古ごとの合間を縫ってはわたしに本を読み聴かせてくれたり、覚えたばかりの火炎魔法で花火を見せてくれたり、寝る前は同じベッドでお稽古の先生の悪口で盛り上がったりと両親以上に気遣って、面倒を見てくれた。

 一方的に募らせている汚い負の感情を差し引いても大好きな自慢の姉なのだ。

 わたしが12歳になり、地元の魔法学院に進学する頃には姉はギルガルド王国でも屈指のエリート魔術師の集まるラメイソンの学院から招待され、実家を離れた。

 姉が家からいなくなり寂しさを覚えたわたしは姉のいる学院に入学するため、一念発起し猛勉強を始めた。

 そして今年、地元で行われているラメイソン魔法学院の入学試験に合格し、旅立ちの日が来たというわけだ。

 今まで目立たなかったわたしがラメイソンに受かったと聞いた時の両親の驚愕とその後の手のひら返しは幼少から溜め込んでいた鬱屈としたものを吐き出すだけの爽快感があった。

 さらに良いことは続くもので、わたしが淡い恋心を抱く幼馴染で魔道雑貨店の一人息子であるヒューイくんも合格した。

 精霊科(エレメンタル)を専攻するわたしと違い、彼は魔道具科(アーティファクト)を専攻することになるが、同じ学舎で顔を合わせることはあるし、共通科目なら一緒に受講も可能だ。

 彼と送る学院生活に否応なく胸が膨らみ、寝不足の日が続いたとしても仕方のないことと言えよう。

 わたし自身姉に似て、整った顔立ちに色鮮やかな赤毛に恵まれ、将来美人になれる素質があるので、きちんとアピールしていけば恋心の成就もそう難しいことではないと思っている。


 だが、わたしの夢はほとんど目前のところで潰えることになる。

 実家を出てから今日まで順調に旅は続いていた。

 ゴブリンやハウンドウルフは我が家に仕える騎士の3人が各々の剣や槍でもって追い払ってくれたし、キラーホーネットやヘルモスキートなどの空を飛ぶ魔物はわたしの属性魔法とヒューイくんの戦闘用アーティファクトがやっつけた。

 実戦であるにも関わらず、活躍したわたしを騎士たちはさすがお嬢様だと讃えてくれた。

 我々の武器では届かない場所にいる魔物を倒せる魔法はすばらしいと。

 そうして甘やかされたわたしは自分を優れた魔術師だと盲信し、冒険者になっても通用するぐらい強くなったつもりでいた。

 魔術師としての強さは守りを固める騎士があってのことだという当たり前のことも忘れて……



 始まりは街道に転がるまだ新しい人の死体だった。

 それが道のど真ん中に放置されていれば、気になって確かめに行くぐらいのことは良心のある人なら誰だってするだろう。

 護衛の騎士は3人連れだってそれが生きているか確認しようとする。

 しかしそれは罠だった。

 囮の死体に注意を逸らされた騎士たちは周囲の茂みから突然現れた6体のオークにそれぞれの得物で頭をかち割られ、胴を両断され、心臓を潰され、原型も残らぬほど暴虐の限りを尽くされて息絶えた。

 咄嗟に火炎魔法で応戦しようとするものの、巨体からは信じられないスピードで接近したオークに背後をとられ魔法の発動は失敗。

 現在に至るわけだ。


「や、やめて、やだ……」

「ブルルル、グヒ、グヒ、」


 眼前にまで迫ったオークが醜悪な笑みを浮かべながら涎を垂らす。

 ローブの下に来ている地元の魔法学院の制服の上に不快な粘性のある染みをつくった。

 それだけでも恐ろしかったが、真の恐怖はこれからだ。

 オークに捕まった女性がどのような運命を辿るか?

 魔物の生態学を学院で学んだことがあるので知識はあった。

 実地での答え合わせのつもりか、背後と正面のオークが毛皮でできた腰巻を脱ぎ捨てる。

 毛皮で覆われていた部分から現れた脈打ち屹立するドス黒い肉の塊は外気にさらされるとビクビク震えた。子供の頃に見たヒューイくんのかわいいものとは比べ物にならない。

 それどころか実家の馬のものよりも一回り大きな男性の象徴。

 間もなく訪れるであろう苦痛を想像して、体が震え、歯の根があわずカチカチと音を立てる。

 わたしの恐怖に怯える視線を受けて我慢がならなくなったのだろう。

 正面のオークが制服の襟元に手をかけて、力任せに縦に引き裂いた。


 ビリィィィィーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!


 まるで紙を破るような気安さで思い出のつまった制服が裂ける。

 胸を保護する下着までもが引き裂かれ、成長期を迎えてから大きくなってきた胸まで露わになる。

 将来、ヒューイくんに見せてあげるつもりの成長途上の胸がオークの前に晒されている。

 恐怖だけでなく、悔しさで涙が流れた。

 悪夢はそれで終わりではない。

 垢がたまって黄色くなった爪が下腹部に近づいてく。

 残っていたパンツと肌の間に爪が侵入し、布のつなぎ目をいともたやすくちぎった。

 正面のオークは準備完了とばかりに宙に浮いていたわたしの両足を左右の手で抱え、開いた。

 絶望が心の中を満たす、


「ひぃっ!それはそれだけはやめて!そこはヒューイくんのだからっ!やだ!やだ!やだっ!誰かぁ!誰かぁ!!」


 だが、助けを求めるはずの人達は全て地に伏している。

 非力なわたしを嘲笑うように徐々にオークの腰が、足の間に割って入ってくる。

 股間の凶器がわたしを貫こうとさらに大きさを膨張させた。

 もはや、言葉にすらない叫び声をあげ続けることしかできない。

 オークが足を握る手に力を入れた。

 さあ止めだぞとばかりに腰を力強く付き出そうとした刹那



 銀色の風が視線をかすめた。


 わたしの手首と足を抱えていたオークの腕から急に力が抜け、だらりと垂れ下がる。

 地面に落下し尻もちをつく直前、少し背の低い銀の人影がわたしを素早く抱きかかえて跳んだ。

 風に靡いた長い銀髪が顔をくすぐって、月下に佇む花の甘く清涼な香りが鼻腔を満たす。

 オークの臭いで戻しそうなぐらいひどかった悪心がそれだけですっきりと治まった。

 横目に映る(かんばせ)は、王国美術館で展示されている絵で見た月の女神アルティミシア様を幼くした印象の絶世の美少女だ。

 わたしを抱きかかえているのに体重を感じさせない羽根のようなふわりとした着地を決めると、優しく地面に下ろした。


「間一髪か。アンタ怪我はないか?かなりヤバイところだったみたいだが」


「あ、あ、あ……」

 お礼を言わなければならないのに、呂律がまわらない。

 息を飲むような美しい少女の外見と人生で味わったことのない恐怖がないまぜにになって、言葉を紡ぐことができない。


「ちょっと他の連中を片付けてくるからそこでじっとしてろ。

 黒いロードバジリスクが来たら、俺の相棒だから安心してくれ」


 強い意志を秘めた金色の瞳がわたしを見据える。

 言葉は出せそうにもないが、首を縦に振って頷くことにした。


「すぐ戻る」


 短く言って月光煌めく銀髪の少女は宙空から二振りの剣を抜き、再び風のように駆けていった。

 残りの4体のオークに察知されることなく無造作に接近する。

 少女は切り取った騎士の腕をフライドチキン代わりにかぶりついている1体のオークの後頭部から右手の長い方の刃を侵入させた。

 口から飛び出した切っ先が足の付け根までするりと移動する。

 分厚い脂肪と筋肉に覆われているはずのオークの体がまるで柔らかいスポンジケーキでも切るように切断された。

 一瞬の出来事に死した自覚すらないままオークは死亡した。

 生存している二匹のオークが傍にいた仲間がいつのまにか口腔から真っ二つにされ、血を噴き出すのを認識して怪訝な表情を浮かべる。

 その思考に割いた時間は致命的な隙を生んでいるとも知らずに。

 地上から8m程跳躍していた少女が剣の柄を逆手に握り切っ先を真下に向けた状態で落下し、2匹の頭を串刺しにした。

 結局彼らは疑問の表情のまま何が起きたのか把握することもできないまま生を終えた。

 突き刺された勢いのまま2つの体がどうっと倒れる。

 離れた場所にいた最後の1体が地面に倒れた振動音と仲間の死骸を目にしたことで、ようやく事態を飲みこみ、耳をつんざく奇声をあげながら斧を振りかぶり仲間の仇に突進する。

 頑丈な石柱をも砕く巨体を生かした体当たりに加え、騎士の鎧ごと両断する武器の存在。

 どちらが当たっても少女をバラバラにするには十分すぎてお釣りが出るだろう。

 少女は両手の剣を空間にできた穴にしまい、代わりに自身の身長を遥かに超える長さの大剣を取り出した。

 大剣を静かに横に構え、オークの突進をじっと待つ。

 少女との間合いが狭まったオークが薪割りの姿勢をとった瞬間、

 小柄な体躯がわたしの目から完全に消えた。

 はっきりと確認できるのは斧の刃ごと胴体と腰が分断され、腸をだらんと溢して絶命するオークの姿のみ。


 ほんの十秒にも満たない時間で4体ものオークを殺害してのけた少女はいつの間にか呆けていたわたしに手を差し出していた。


「ほら、オークは全員始末したから大丈夫だぞ。

 立てるか?」


「は、はい、ありがとう……ございます」


 反射的にその手を握る。

 先程まで重たそうな大剣を握っていたとは思えないほど柔らかい手だ。

 安心感を覚える優しい手だと思った。

 ぷるぷると生まれたての子鹿のように震える膝を叱咤して立ち上がる。

 しかし、極限の恐怖から緊張の糸が切れてしまった人体の反応は速やかで、容赦がなかった。

 強ばっていた下腹部の筋肉が弛緩したことで、人として当然の生理現象が発生したのだ。


「あ……」


 股の間から膀胱で待機していた、大量の雫が勢いよく放出、太ももを伝って流れていき、地面を濡らした。

 丸裸なので水分が流れている発生源は目の前の少女に丸分かりだ。

 少女が頬を赤らめ気まずそうな表情をし、耳をふさいでわたしから顔を背ける。

 わたしもまたお礼を言わなければならない場面で幼子のような粗相をしてしまったことで、赤面し、俯かざるを得なかった。

 再び会話を交わせるまでどれだけの時間を要するのか?ヒューイくんは無事か?

 そう言った当たり前のことを考える余裕もなくわたしは抑えられない失禁をしたまま立ち尽くした。




 血臭立ちこめる無残な戦場に赤面した2人の少女の姿はとても歪な光景だった。





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