16話 死亡遊戯
ルーク・エンフィールド視点
僕は天才だ。
それは自他共に認める厳然たる事実であり、誇りでもある。
僕の地位と誇りを脅かす人間はいてはいけないし、これから出てくることも許さない。
もし、出てきたのならあらゆる手段を用いてひねり潰してやるのみだ。
僕が学院生活を送る中現れたあの女はまさにそれだった。
天才である僕を差し置いて首席におさまろうとするなど、僕に対する冒涜もいいところだ。
だから唯一の取り柄であった魔眼と魔術の探究に必要な視覚情報を僕が奪ってやった。
これであの女はまともな学生生活を送れまい。
実家で役立たずの烙印を押されながら、隠遁するだけの寂しい余生を味あわせる。
それを想像しただけで愉快でしょうがなかった。
皆の前で散々コケにしてくれた礼だ。
僕の心ばかりの気持ち、受けとってくれているかな?
こうして胸のすくような仕返しを実行したのにもタイミングを計ったよ。
何しろいくらあのクソ女でも国内有数の名家の出身であり、学生同士の私闘がご法度の学院だ。
今頃僕は指名手配されているだろうし、こうしてギルドや騎士団の追手が来ることは分かっていた。
だから接近戦を不得手とする魔術師の僕でも戦士を返り討ちにできるよう対策を練っていたのさ。
対策のひとつはあの女の魔眼を手に入れること。
発動速度が極めて早く、効果の強力な『支配の魔眼』は戦士殺しに丁度いい。
さらに僕の死霊術は魔眼と非常に相性がよかった。
魔眼は相手を支配し続けるのに大量の魔力を消費する。
だから戦士が剣を抜く前に魔眼で拘束し、すぐさま自害させるのだ。
自害させた戦士をそのままアンデッドに変え、自前の魔力で活動させてやれば、魔眼を使わずとも支配が及ぶようになり、僕の魔力消費は最小限になる。
さらにアンデッドから僕に魔力を供給するパスを作製し、生者を手当たり次第に襲うプログラムをインプットした。
そうすれば放っておくだけでどんどん魔力が献上されてくるのだ。
森の魔物にもこのプロセスを施してあるので、今の僕は魔力の上限知らずというわけさ。
僕個人の力も、戦力もうなぎ上りに上昇しつつある。
今のところ学院も貴族もギルドも限られた予算が原因で戦力を小出しにせざるを得ない。
僕を侮り、手をこまねいている間に手遅れになりつつあるとも知らずに。
彼らにとっての悪夢はそれだけじゃない。
我が家には人から不死の王、リッチーロードに至る秘術がある。
リッチーロードと化し、死者の軍団を築きあげればギルガルド王国全てが僕に跪ずくしかなくなるだろう。
僕が人外の力を得、魔術師としての位階を上げるためには膨大な魔力と供物を別世界の神、テスカトリポカに捧げて、交信しなければならない。
その準備もいよいよ大詰めだ。
魔力は十分、供物は支配下においたアンデッドと生者が必要量用意できている。
最後に必要なのは穢れを知らない乙女の破瓜の血だ。
捕えた6人の女が処女かどうかは経験のない僕には分からなかった。
行為に及ぶ初めての相手はどうせなら極上の少女が良い。
6人の内誰にするか品定めしているところで、僕の眼鏡に適う美少女が現れたのだ。
とうとう運命まで僕の味方をし始めたと思ったよ。
光沢のあるサラサラとしたプラチナブロンドの髪がまず目をひいた。
琥珀を思わせる強い意思のこもった金色の瞳に見られると体が官能に震えた。
くすみのない新雪のような柔らかそうな肌と発展途上の未成熟な肢体に股間が熱くたぎった。
これからこの少女を自由にできるのだと想像しただけで絶頂しそうだ。
どう料理してあげようか少女を観察する。
格好だけは街娘のものだが、ビリビリと肌を刺すような殺気は本物の冒険者のものだ。
だが、戦闘の手段が武器である以上、魔眼の方が早い。
会話をカムフラージュに僕の思惑を察知されないよう魔眼に魔力を通していく。
僕を殺そうとする時により深い絶望を味あわせてあげられるようできるだけ長く、挑発的に言葉を紡いでいくのだ。
魔眼の拘束が一瞬で完了するのは何十人もの命で実験してきた。
残念ながら眼の本来の持ち主ではないので実際に効いているかは『実感できない』のだが、魔力を切らさずに命令の一つでも出してやればそれで事足りる。
「―――宣言しよう。剣が届く前に君は陥落すると。
と言っても既に魔眼は君に発動させてあるんだけどね」
「何!?体が動か……」
「いいねえその動揺した顔、すごくそそるよ」
「この下種野郎が!!」
「汚い言葉遣いだね。まずはそこから教育していこうか。
まずは僕のことを『マスター』と呼んでごらん」
強制力を強めるため、より多くの魔力を籠める。
すると彼女から表情が失われていく。
効力が強まってきたようだ。
「はい、マスター。何なりとご命令下さい」
ああ!いいねいいね!ゾクゾクする!
意に沿わぬ者を力づくで支配する感覚。
たまらない!
「いい子だ。じゃあその危ない武器を捨てようか」
「御意に」
二本の剣が重量感のある音を立ててタイルの上を転がる。
上出来だ。
「マスター、次は何をすればよろしいですか?」
「服を脱いで裸になるんだ」
「御意」
僕が命令した通り、迷いなく彼女は服に手をかけた。
エプロンドレスのブラウスとスカートをその場に脱ぎ捨て、隠されていた太ももとほっそりとしたお腹が現れる。
未成熟でありながら扇情的な美しさに思わず唾を飲み込んだ。
彼女は僕に命令されるがまま靴と下着を脱ぎ捨て一糸纏わぬ体となった。
暗い部屋で肌の全てが露わになるとより白さが強調され部屋が明るくなった気がする。
膨らみかけの胸と清楚な無毛の秘部が惜しみなく披露され、股間にどんどん血液が集まってくる。
もはや儀式のことなど忘れて獣欲の赴くまま彼女の肢体を味わいたかった。
「さあ、こっちまでおいで、僕とひとつになろう」
「はい、マスター」
彼女は表情に何の色も浮かべることなく、裸足でタイルをペタペタと踏みながら僕に近づいてくる。
ついさっきまでの勝気な瞳が今や屈服して僕の意のまま。
口元がにやけるのを抑えられない。
あの女のこれまでの無礼もこれで帳消しにしてやろうとさえ思えてきた。
彼女の頬に手を伸ばし、まずは銀髪の手触りを堪能する。
絹糸のような柔らかくしっとりした感触が指先に伝わり、興奮が高まっていく。
僕の指使いを彼女は無表情のまま受け入れるだけだ。
更なる快楽を求めて僕は彼女の胸に手を伸ばす。
生まれて初めて見る母親以外の乳房に息が荒くなった。
小ぶりだがその弾力は素晴らしいものに違いない。
いい!いいっ!イイッ!僕の人生で最高潮の瞬間だ!
少女の柔肌がどんなものか僕に教えておくれ!
僕の手のひらに吸い込まれるまであと数センチ。
恍惚感をもたらす脳内麻薬が分泌されているのが分かる!
ああっ!
ザンッ!!
指先が桜色の突起に触れる前に銀の糸のようなものが閃いた。
「え?」
神経が彼女の質感を伝えてこない。
その直後に肉が硬いものに叩きつけられるような音が耳朶を打った。
足元を見やるとそこにあるのは誰かの手首。
いや、見覚えるのある手首だ。
僕がいつも指にはめている魔術の触媒となる指輪がついているから。
どうしてそれが床に転がっているんだろう?
疑問に感じるのと同時に、首元にまた銀の糸のようなものが走るのが目に映った。
その後視界が飛び上がり、宙をぐるぐると旋回する。
あの女の目玉を移植してからたまに乱視が起きることがあるが、それかな?
施術は完璧だったと自負しているが、所詮は他人の眼球だ。
適合するまでまだ時間がかかるか。
こんな時まで邪魔をするとはつくづく忌々しい女だ。
生かしておくことなどせずしっかり息の根を止めてやればよかった。
儀式が終わったら改めて僕に逆らったことの愚かしさを教育してやろう。
回る視界の中でこれからの計画を考える。
空の旅を続けた視界はやがて床のタイルに徐々に接近していく。
おかしいな僕の背中が見えるぞ。
俯瞰視ができるほどの力はこの眼には宿っていないはずなんだけ……
「ガッ!……」
僕の鼻がタイルに強かに打ちつけられた。
唇が不衛生な床を舐める。
歯が根元から何本か折れて、舌を突き刺した。
血の味が口腔内に広がっていく。
最後に目に映ったのは頭を失い首の断面から噴水のように血しぶきを上げる僕の体。
それを霞んでいく目で呆然と眺めてようやく理解した。
なんだそうだったのか。
僕は死んだんだな。
疑問解決。
じゃあどうやって対策しようか?
対策?
リッチーロードに至れていない僕に対策なんてあったっけ?
思考を続けたところで分厚いが鋭いスコップの先端のような冷たい鋼の塊が側頭部に突き刺さり、昆虫標本に使う虫ピンのように僕の頭を縫い止めた。
それ以上何も考えることもできず、僕の意識はそのまま永遠に遮断した。
「来世じゃ女に優しくしろよな。ロリコン童貞短小マザコンゲス野郎」
彼女が何かを罵ったような気がするが、既に死した僕の耳には何も届かなかった。
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<アスカ>
性別 女
クラス 月光姫
VIT Er
STR Er
INT Er
AGI Er
DEX Er
スキル
月魔法
・女神の猟犬――小規模の崩壊現象を引き起こす光球を頭上に5つ召喚する。
ターゲットを設定することで射程圏内に入った時自動的に発射される。
任意に発射することも可能。
・彗星の尾――中規模の崩壊の光を収束し、奔流として放つ。
通称ごん太レーザー。威力は高いが、倒した魔物の素材もろとも消し飛ばしてしまうため、稼ぎには不向き。
アイテムボックス――謎空間にアイテムを収納し、生ものであれば賞味期限が切れず痛まない一家に一台は欲しい便利スキル。
無属性魔法
・魔力の足場――文字通り魔力で足場を生成し、踏み台にすることができる。
消費魔力が少なく、使い手の発想次第で化ける魔法。
パッシブスキル
言語理解――この世界の『人』の言語であれば全て読み書き、話すことができる。
月の女神の加護
・美の女神としての側面ももつ月の女神アルティミシアの恩寵。
紫外線など、美容を損ねる脅威から髪や肌を常に守護する。
魔人族の女王候補にしか与えられない加護である。
E ボルドウィンのクレイモア
E なし
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E なし
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E なし




