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13話 依頼

颯太prpr

「んで領主が何で俺に会いたいなんて言ってるわけ?」

 昨日浴場で遭遇したのだが、俺からは名乗っていない。こちらが向こうを一方的に見知っているだけだ。接点はそれぐらいなのだが。


「先日の貴君の戦いぶりを報告したところ、興味を持たれてな。依頼したいことがあるのだそうだ」

「領主直々にか?」

「そうだ。今朝はギルドに依頼を通す前に貴君がクエストに行ってしまったのでな。

 待たせてもらったというわけだ。依頼を受けるかどうかは貴君に判断を委ねるが、話だけでも聞いてもらえないだろうか?」

「バイトの時間まででいいなら構わんぞ。屋敷まで行くのか?」

「いや、現在は憲兵の詰め所に居られる。歩いてすぐの所だ。お恥ずかしながら罪を犯して逮捕され、勾留されてしまったのだ」

 その被害者の当人が容疑者からの依頼を受けに行くのか。複雑な気分だな。


 ジョエルの言った通りギルドから徒歩数分の立地に詰め所がある。

 大概の街でもその辺は共通で、揉め事を起こす冒険者(馬鹿共)を仲裁するために憲兵を配備しているのだそうな。

 ジョエルの後に続いて、日本の交番に似た建物の中に入っていく。

 フロアの奥の錠前の付いた扉が開けられ、中に入ると牢屋が整然と並んだフロアに出た。

 その内の一角に領主ことグリーンウッド卿が牢名主として君臨していた。

 どうやら昨晩逮捕されてから拘置所内でそのまま一泊したらしい。

 鉄格子に閉じこめられているものの特に不満げな様子もなく、書き物に集中している。

 例え犯罪者でも日常の業務からは解放されないのか。

 領主というのも面倒な商売のようだ。

 牢の前には燕尾服を着た老執事と若いメイドが立っており、底辺の部屋かはたまた貴人の座敷牢か、よくわからない雰囲気を醸し出している。


 俺達の足音に気づいたのか、領主はペンを走らせる手を止め、こちらを見た。


「やあ、ジョエル。例の冒険者を連れてきてくれたのかい?

 って昨日の少女じゃないか。あの時は本当に済まなかった。許してくれとは言わない。卑劣な行いをしたのは事実だから。賠償にも可能な限り応じよう。僕が昔読んだ本にもあったんだが、『汝悔い改めよ』という言葉があってね。その通りこうしてお縄について反省しているんだということは知っておいてもらえるとありがたかったり……」


「?グリーンウッド様、話が見えないのですが。

 ご希望の通りゴブリン退治の功労者をお連れした次第であります」


「すまない僕の目にはキミと女の子しか映っていないのだけど、もしかして迷彩魔法の達人かな?

 これは失礼した。ご存知だと思うけど、僕が領主のエドワード・グリーンウッドだ。

 気軽にエドと呼んでくれて構わない」


 どうやら痴漢の被害者が探している冒険者と同一人物であるとは夢にも思っていないらしい。

 魔法で透明人間になっている冒険者がいると斜め上の勘違いをしたようだ。


「あの、こちらの少女がお探しの冒険者なのですが……」


「なんだって?ジョエル。からかうのはよしたまえよ。

 エプロンドレスを着た女の子の冒険者なんてゲー……現実にいるわけないじゃないか」

「いいえ、間違いなく彼女がクレイモアの冒険者です。騎士の誇りに誓って嘘は申し上げておりません」


 今ゲームって言いかけたな。転生者だとますます確信した。

「竜の落とし子亭のバイト兼冒険者のアスカだ。よろしくな」


 領主、エドは口をあんぐり開けている。

 そりゃそうだろうな、寸鉄のひとつも帯びていないどころか大衆食堂で働いてそうな出で立ちの娘が冒険者だと言われて頷けるはずもない。

 俺もゲームかアニメでしか見たことねーわ。

 コスプレして冒険者稼業が務まるほどこの世界は甘くない。

 ただし、俺を除いてだが。


「自己紹介も済ませたところで、依頼について聞かせてくれないか?領主だって忙しい身だろう?」

「……ああ、そうだった。よくよく考えてみればジョエルが冗談を言うはずもないか。

 昨日のゴブリンの侵攻に絡む話なんだけど。

 今まで多くても10匹程度の群れでしか出没しなかったゴブリンが500匹近く出たのは明らかに異常だったからね。

 原因を調査すべく手の空いていたBランクのパーティに穀倉地帯付近の森の探索依頼を出したんだ。

 基本的に毎日日帰りで戻ってもらい経過を報告してもらう契約だったんだが、彼らは初日で帰ってこなかった。

 実績のある冒険者パーティだから依頼の前金だけかすめ取ったり、契約違反をしてまでクエストに励むとは考えられない。

 不審に感じてね、明朝に騎士の分隊を派遣することにしたんだ。

 今日の昼には戻るよう指示したんだが、いまだに帰還したとの報もない。

 忠義に篤い彼らまで命令違反を犯すとは思えない。つまり、」


「ミイラ取りがミイラになったってことか?」

「恐らくは」

「ゴブリンを住処から追い出す何者かが調査に来た連中を襲ったと考えている訳か」

「あくまで仮説の域を出ないけどね」


「詳しく話が聞きたいな。内密にしておきたいこともある。人払いを頼めるか?」

「分かったよ。ジョエル、アイリーン。すまないが席を外してもらえるかい?」

「ハッ失礼いたします」

「失礼いたします」

 それぞれ敬礼とお辞儀をして牢部屋から去っていく。


「セバスは僕が全てを話せる家臣だ。信用してくれていい。仮に何かあったとしても僕が命をかけて保証する」

 エドの言葉に倣い、セバスと呼ばれた老執事がキッチリと腰を曲げて会釈した。


 まあ、知られたところでホラ吹き扱いされるようなことだからいいか。

「いきなり話を変えるようでなんだが、アンタ、転生者か?」

「どういう意味だい?」

「前世は日本人だったかってことだよ。」

「……ということはキミも?」

「ああ、15の頃に死んでな。神様とかいうヤツに提案されてこの世界にやってきた」

「僕のケースと違うね。

 神様なんてのに会ったことはないよ。

 僕の前世の名前は江戸川悟(えどがわさとし)

 大学卒業したばかりのしがない独身サラリーマンだったんだ。

 残業続きの労働が祟ったのか会社のデスクで仮眠をとろうとしたらそのまま……ね

 気づいたらこの世界で赤ん坊として産声を上げていたよ」


 俺の考えた『ブラック企業に勤める俺が過労死したら領主の息子に転生してた件』のまんまじゃねーか!

 ちょっとは捻れよ!!


「後はそうだね、日本で生きた年齢と合わせるとちょうど50になるかな」

「俺と同い年かい!」

「キミはエルフに生まれたようだから35歳でも見た目14歳ぐらいか。羨ましいね。

 どうせ異世界に転生するなら僕も他の種族になりたかったよ。

 なのに何の変哲もない人間でね、前世と同じで剣も魔法もからっきしさ。

 これまでの人生で学んだ知識は役に立ったし、領主の地位が最初から約束されているのも恵まれていると言われればそうなんだけど。

 キミは神様に会ったんだろ?チートでも貰うことができたのかい?」


「いや、アイツはそこまで甘くなかった。言語理解と1週間分の食料しか入らないアイテムボックスのスキルだけだった。」


「すごいね。チート無しで冒険者をやるなんて正気の沙汰とは思えない」


「ロクな人生経験もないガキが他にできることといえばそれしかなかったからな。

 苦労はしたし、死ぬような目にも何度も遭った。

 後悔もしたが、冒険で成功したいっつー馬鹿な夢だけは諦めなかった。

 夢にしがみついていたらいつの間にかやめられなくなっていたよ。

 それにチートは与えられるもんじゃない。

 自分の足で探して、見つけ出すもんだ」

 ついでにチートの思わぬ副作用を受け入れる勇気もな。


「そっか、美味しい話なんてそうそうあるわけもないか…… 

 なかなか、漫画やアニメのようにはいかないね。現実は世知辛いことばかりだ。

 ところでキミの前世はなんていう名前だったんだい?

 僕も名のったんだし教えてほしいな」

「千鳥飛鳥だ」

「本名のままなんだね。女の子だから名前は『明日』に『香る』と書くのかな?」

「飛ぶに鳥でアスカだ」

「ああ、飛鳥文化アタックの飛鳥ね」

 その覚え方はやめい。


「お互いの身の上話はこの辺でいいか?転生者かどうかだけ知りたかっただけなんだ。

 また今度日本のことを聞かせてくれ」


「合法ロリと話ができるのならいくらでも時間を作るよ」


 合法って……そういやこいつロリコンなの忘れてたわ。

「まだ懲りていないのなら、妄言の度、指を1本ずつへし折らせてもらうぞ?

 さっさと依頼内容を説明してくれ」


 仕事の話に移った瞬間、エドが単なる変態紳士から領主の顔になった。

「穀倉地帯付近の森林で発生する神隠しの原因の調査と特定。可能であれば行方不明者の救助と原因の根絶も」

「報酬はいくら出せる?」

「僕の裁量で動かせるお金で200万G。報酬の余禄になるか分からないけどこれを受けとって欲しい―――セバス」


 エドの声に促され、老執事が足元にあった木箱から二振りの得物を取り出した。

 長年見かけることがなかったにも関わらず、一目でそれらが何なのか分かった。

 黒塗りの鞘に覆われた刃、銅色の楕円の鍔。鮫皮の巻かれた柄。

 日本じゃ若い女子のファンを急激に増やしていることでも有名な伝統的武器。


『刀』だ。

 それぞれに長さが異なり、太刀と脇差となっている。

 太刀は普通のロングソードと同程度の長さだが、クレイモアの半分ほどの重量がある。

 刀に触ったのは初めてだが、予想外の重さに少し驚いた。

「銘は?」

「ないよ。お好きなようにつけてくれ。厨二心も満たせるいい武器だよね刀」

 それについては同感。

 俺は今トランペットを眺める少年の顔そのものになっているに違いない。


「刃を検めさせてもらってもいいか?」

「構わないよ」


 鞘から抜くと光沢のない鈍く暗い刃文が広がっていた。

 日本の美術館に展示されている白銀の美しい刃などではない。

 竜の鱗など容易く抉るであろう鋭い切っ先。

 物打ちからはばきに至るまで繊細な部分など見当たらない頑強さ。

 切れ味を落とすことなど徹底的に拒絶する鎬。

 並の剣士では扱えない質量でもって肉を引き裂き、骨を砕くことだけに専心した作りだ。

 美術品の地位など最初から放棄して、ひたすらに血を啜ることだけを欲してやまない妖刀の趣があった。


「これだけの業物どこで手に入れた?」


「街で武器屋をしているドワーフの職人に作らせた。趣味でね。といってもそれは上っ面だけの偽物だよ。

 玉鋼の製造法なんてただの会社員だった僕が知るわけもないからね。たたら製鉄なんでアニメでちらっと見かけただけで細かいところは思い出すこともできなかった。それでもこだわりってやつがあってね、この世界で製造されている鋼じゃクオリティに納得いかなかったんで、代わりにアダマンタインを使わせてもらったよ。切れ味は保障するが、重すぎて使い物にならないぞと彼に笑われてしまったがね。

 結局床の間に飾るイミテーション(模造刀)にしてたんだけど、大剣を片手で振るえるほどの筋力をもつ戦士なら使いこなせるんじゃないかと思ったんだ」


 アダマンタイン……並はずれた重量の正体はそれか。

 同体積の鉄に対して3倍以上の比重はあるが、頑丈さでは追随を許さない金属。

 ウエイトを圧迫し、動きを鈍らせるため、武器の表面や、鎧の急所を保護する部分にしか使用されないが、この刀は刀身が芯までアダマンタインでできているんだろうな。

 以前の俺ならイミテーション(役立たず)として質にでも流したかもしれないが、羽根のように軽く感じるクレイモアのさらに半分の重さだ。全く気にならない。

 唯一のデメリットといえば魔力を全く通さない絶縁体であることぐらいか。

 刃に属性を付与する魔法が使用できないので、半実体の敵を不得手とする面がある。

 しかし、そうしたデメリットを差し引いても殺傷性の高さと無骨な拵えは戦士としての魂を揺さぶるものがあった。


「気に入った。依頼を受けよう」

「本当かい?ありがとう。危険なクエストにキミのような女の子を派遣するのは男として忸怩たる思いがあるのだけれど……」


 やれやれ、女の見た目をしていると侮られることは避けられないな。

「戦えるやつが戦いに行くだけのことだ。俺は他の生き方を知らん。依頼人は払ったG分の価値があったかどうかだけ心配してりゃいい」

 ベテラン冒険者とナイスミドルの風格でもって口の端を吊りあげてニヤリと笑ってみる。


「そうかい?不安だなぁ……でもこうしている間にも行方不明者が……」


 む、やはりこのなりだとどうにも説得力に欠けるようだ。

 しかたない、ここはとっておきの『殺し』文句を披露してやるか。

 美少女力解放第二弾。



「わたしね、お兄ちゃんが望むならどんな邪魔者も全部、全部やっつけてあげるよ♪

 お兄ちゃんが褒めてくれるなら何人でも何匹でもいくらだって殺してあげる。

 殺して殺して殺しただけ、お兄ちゃんが喜んでくれるんだよね?

 手が汚れるなんて気にしないよ♪大好きなお兄ちゃんが汚れないで済むならわたし嬉しい♪

 頭を撫でてよくやったねって言ってくれるまでわたし死なないよ。

 お兄ちゃんがくれた刀と一緒なんだもん。わたし一人じゃない、寂しくないよ。

 2人の愛の力ならいっぱい殺せるよ。

 だから安心して待っててね。お・に・い・ちゃん♪

        ヤクソクだよ?」



 ヤンデレ風味に味付けしてみました。いかがかな?


「……御武運を祈るよ」


 ネタは通じたようだが、わりと真剣(マジ)な俺のセリフにさしものロリコンも恐怖に顔をひきつらせていた。



<アスカ>

  性別 女

  クラス 月光姫

 

  VIT Er

  STR Er

  INT Er

  AGI Er

  DEX Er


 スキル

 月魔法

 ・女神の猟犬――小規模の崩壊現象を引き起こす光球を頭上に5つ召喚する。

 ターゲットを設定することで射程圏内に入った時自動的に発射される。

 任意に発射することも可能。


 アイテムボックス――謎空間にアイテムを収納し、生ものであれば賞味期限が切れず痛まない一家に一台は欲しい便利スキル。


 パッシブスキル

 言語理解――この世界の『人』の言語であれば全て読み書き、話すことができる。

 月の女神の加護

 ・美の女神としての側面ももつ月の女神アルティミシアの恩寵。

 紫外線など、美容を損ねる脅威から髪や肌を常に守護する。

 魔人族の女王候補にしか与えられない加護である。

 

 E ボルドウィンのクレイモア

 E 無銘の太刀

 E 無銘の脇差

 E 竜の落とし子ママ手縫いのエプロンドレス

 E 竜の落とし子ママ手縫いのロングスカート

 E 童貞を殺すパンツ

 E 人面水牛の皮靴


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