10話 vs集団
<アスカ>
性別 女
クラス 月光姫
VIT Er
STR Er
INT Er
AGI Er
DEX Er
E ボルドウィンのクレイモア
E 竜の落とし子ママ手縫いのエプロンドレス
E 竜の落とし子ママ手縫いのロングスカート
E はいてない
E 人面水牛の皮靴
受付嬢が絶句している。
色々な意味で。
オイオイオイオイオイオイオイオイオイ!!
この国の水晶玉装備が表示されんの!?
ノーパンなの受付嬢にバレちまったじゃねえか!
彼女は俺のスカートの腰部分に視線を彷徨わせたが触れるべき事柄ではないと判断したのかすぐに目を伏せた。
痴女か、それとも単なる貧乏少女と思ったのかどっちでもいいが口に出さないあたりは好感がもてる。
今はノーパンは些細な問題だ。
月光姫ってユニーククラスか?見たことはない。
生まれ持っての才能に恵まれた奴は最初からユニーククラスになっているっていう例も少なからず存在する。
そいつらは独自の武技や魔法を駆使して一般的な職業よりも高い戦果を上げているな。
魔人族にもそういった独自のスキルが盛り沢山なので使いこなせるように訓練していかなければなるまい。
昨夜皆が寝静まった頃に魔法の練習は行ったが実戦で役に立ちそうなのは2~3種類だった。
それでも飛躍的な進歩なのだが。
ステータスのErはErrorの略か。
大雑把とはいえSランク冒険者のステータスまで表記できるのだが、計測しきれなくなっているらしい。
スカウターぶっ壊れるやつだ。
「ええと、その……落ち込まないでくださいね。
登録時のステータスが全部Eというのはよくあることですから。
元がEでもAやSまで成長した人もいますから悲観しなくてもいいですよっ
でも、月光姫って何なんでしょうね。私初めて見ました」
どうやらrは無関係の文字だと思われたらしい。
ステータスがエラーなんて冒険者今まで出たこともなかっただろうし、そもそも彼女は新人なので違和感を感じなかったのだろう。
目の前の受付嬢より小さな俺が強そうに見えるはずもないしな。
まあステータスはあくまで本人が実力確認するためとパーティになる仲間の強さの把握に使うものなのでクエストの報酬や評価には影響しない。
Eのままにしてもらってもいいだろう。
「慰めてくれてありがとな。
登録完了なら早速討伐クエストを受けたいんだが、草原にいるやつでいいのないか?」
「えっ?最初は薬草採取とかでなくてもいいんですか?」
「悠長にやってはいられないんだ」
足元の風通しが良すぎる的な意味で。
「じゃあ、エリンギマンの討伐はいかがでしょう?討伐報酬は悪くないですし、独特の風味と歯ごたえが良くて街で人気の食材なんですよ。素材報酬の面でもおすすめですよ。
眠りの胞子には注意が必要ですが、解毒薬で防げますし、倒すと無毒化されますから。後はですね……」
受付嬢が説明を続けようとしたところでカウンターの奥の扉からギルドの事務員と思しき中肉中背の30代前半の男が勢いよく出てきた。
「アンナ!エリーゼ!ビアンカ!緊急のクエストだ!今受注しているクエストは全てキャンセルしてくれ!!」
男が声を張り上げると、ギルド内の冒険者が何事かと注目する。
「西の穀倉地帯にゴブリンの群れが出た!その数およそ500!現在この場にいる全ての冒険者には迎撃にあたってもらいたい!
参加者全員に領主から特別ボーナスが約束されている。速やかに受注し、現地に向かっていただきたい!現場は穀倉地帯のため、火炎魔法の使用は厳禁とする!」
「ゴブリンの討伐か。数は多いが領主は誠実な人柄だからな」
「ああ、覚えがめでたくなれば俺達の昇格が早まるかもしれん。雑魚の討伐でボーナスは旨みがでかい」
「となれば討伐数で他の連中に差をつけとく必要があるな」
「「「やるか」」」
それぞれの冒険者達の思惑はひとつに固まったらしい。
受付に我先にと殺到した。
ちょうど俺は受付嬢の前にいたのだが、彼女は苦笑いしている。
「えっと……500は多すぎですよね……後方支援に徹していただければ多分……大丈夫ですよ。
決して無理はなさらないでくださいね。ゴブリンに捕まった女性は悲惨な目に遭いますし……」
登録したばかりの新人の俺に無茶なクエストを斡旋することに負い目があるのだろう。
申し訳なさそうに言った。
「心配してくれてありがとな。周りのベテラン冒険者に頼るから安心してくれ」
金のためにガッツリ討伐するつもりだが、俺の身を案じる彼女のために優しい嘘で誤魔化しておいた。
――――
クエストを受注し、他の連中より先に穀倉地帯に到着すると、駐屯の領主の私兵とたまたま居合わせた冒険者が防衛中だった。
ゴブリンの武装は先を削って尖らせた木の棒か。
単純な武器だが急所にもらえば厄介なことには違いない。
防衛チームは物量の差に押され、隙を晒さないように戦うので精いっぱいのようだった。
彼らの集中を乱さないようにするため、俺は無言で戦闘に参加することにした。
アイテムボックスからクレイモアを抜き、両手で柄を握る。
得物は大剣だけではない。
今回俺はこの状況にうってつけの魔法を偶然にも習得している。
作物の被害を最小限に抑え、指定した対象のみを自動で攻撃する魔法を。
脳裏に焼き付けた魔法陣を起動させ、魔力を流し込んでいく。
すると青白く輝く光球が俺の頭上に5つ扇状に展開され、浮遊したまま待機する。
この光球は月の光による小規模な崩壊現象を発生させるもので魔力抵抗を貫通しやすく、小さな見た目とは裏腹に攻撃力が高い。
敵を射程に捉えた瞬間自動で発射され、魔力を流し続ける限り、次弾が俺の頭上に装填されていく。
魔人族のみが使用できる『月魔法』のひとつだ。
味方への誤射を防ぐため、人の射線上には発射されないよう魔法陣の式にはアレンジを施してある。
魔法がすんなりと発動したことに満足した俺は前線に加わるべく跳躍した。
空という死角から振り下ろされた大剣の刃に5匹ほどのゴブリンが脳天を叩き割られ、鉤鼻から脳の混じった血を逆流させながら絶命する。
同時に光弾が四方八方に襲いかかり、さらに5匹が命を落とした。すかさず魔法陣に魔力が充填され、次弾の生成が開始。背後にいたゴブリンの頭を、胴を撃ち抜いた。(5匹)
意気揚々と侵攻していたところに仲間の血しぶきを浴び、呆然とするゴブリン共。
同胞の死を悼む時間など与えてやるつもりもない。
俺は地面を発射台に見たて、弧を描きながら大剣を横一線に回転させた。
刃の届く範囲にいたゴブリンの首が規則正しい順番でボトボトと首を落とす。
一拍遅れて主人を失った胴体が断面から血液を間欠泉のように迸らせながら膝をついていく。(15匹)
俺の周囲半径2m程に生者のいない死の空間ができあがった。
仲間を殺されたことに怒りが爆発したのか、ギャアギャアと耳に障る金切り声で俺に木の槍を向けて牽制してきた。
応援を呼ぶための声だったのか、防衛チームに回っていた戦力も俺の方に駆けつけてきているようだ。
「威嚇している暇があったら攻撃しろよな!」
大剣を中段に構え、ゴブリンの集団に向かって神速のステップで肉薄する。
突如目の前に現れた俺の姿に先頭の連中が怯む。
その隙を逃さず、斬撃にてデンプシーロールをしながらなぎ払う。分断された彼らの矮躯が草地に沈んだ。(30匹)
後続が慌てて槍を向けようとした瞬間、横に振るった刃の向きを転換し、下段から打ち上げた。
股裂きにされ宙を舞ったゴブリンの死体は地面に落下すると内側から赤黒い臓物を溢し、あたりに血の海を広げていく。(5匹)
指揮を盛り上げていた先陣の部隊が惨殺されたことで恐慌状態に陥り、武器を捨てて逃げ出す者が現れた。
だが、無慈悲な光弾が臆病者を許すまいと次々に後頭部を粉砕。(5匹、10匹、15匹、20匹)
それを見て、逃げ場はないと観念した集団が一縷の望みをかけ、俺に対し無謀な突撃を敢行する。
しっちゃかめっちゃかに突きだされた槍は狙いなど考慮されておらず、仲間の首を、心臓を貫いてしまう。(10匹)
都合よく集まってくれた集団に感謝を込め、粗末な槍では届かない距離から圧倒的リーチを誇る大剣でお返しをする。槍でガードした者は得物もろとも背骨をへし折られ、喀血した後永遠に動かなくなった。
数が多ければ独楽が回転するように横薙ぎに、屍の山が積み上がり、後続との距離が開けば、猛禽を思わせる勢いで間合いを詰め、袈裟切りに斬り捨てた。(50匹)
戦力の30%超を瞬く間の内に削られた、ゴブリンの統率が大幅に乱れた。
戦況の変化を敏感に感じとった防衛チームに余裕が生まれ、一転して攻勢に移り始めた。
この場の指揮を任されているらしい領主部隊のリーダーがロングソードで邪魔者を斬り、タワーシールドで弾きながら俺に近づいてくる。
エプロンドレスの少女に大剣というちぐはぐな姿に一瞬驚愕したものの、強い自制心でそれを飲み込み、感謝を述べた。
「どこのどなたか知らぬが、助太刀感謝する!!私はグリーンウッド様の家臣の一人、ジョエルだ」
「冒険者のアスカだ。すぐにギルドの応援が来る。それまで耐えられそうか?」
「大丈夫だ!――と言っても貴君が全て平らげてしまいそうだがな!!」
「ああ、報酬がかかってるからな。一匹でも多く稼がせてもらう」
そうしてゴブリンを殺している内に応援が到着し、防衛戦だった戦いが、殲滅戦へと変化を遂げた。
バーク達も参加しているようだ。
バークの手斧が無駄のない動きでゴブリンの首を刎ね、グレンの槍が正確に急所に穴を開ける。
キッドが連射した矢はいずれも眼球を貫いて、その先の脳みそをシェイクさせた。
ローガンの氷の礫と風の刃は死角に回りこもうとするゴブリンを許さない。
そして、彼らの中でもセレナさんの活躍はパーティの中でも群を抜いていた。
フルスイングされたグレートメイスの一撃に吹き飛ばされたゴブリンはプロ野球選手が投げたのに匹敵する剛速の球と化し、
後続にいる烏合の衆をボウリングのピンのように薙ぎ倒した。
まるで、戦艦の主砲だ。
だが、彼女の役目は火力だけではない。
離れた場所にいる俺の姿を認めたセレナはメイスをぶん回しながら支援魔法をかけてきた。
駄目押しにウインクしてくる。
俺は片手を振って謝意を示し、ゴブリン狩りに没頭した。
――――
この手の戦いでは珍しいことにこちらの死者数はゼロ、敵の全滅をもって片がついた。
クレイモアをアイテムボックスにしまい、報酬を受け取るためギルドに帰還しようとした俺を領主の家臣ジョエルが呼び止めた。
「アスカ殿といったか。貴君がいち早く駆けつけてくれなければ、我々は全滅していたかもしれん。改めて感謝させていただきたい」
胸に手を当て、騎士の敬礼のポーズをとって言う。
そういうのむずがゆくてしょうがないんだが……
「金のためだからな。なんなら俺の報酬に色でもつけといてくれや」
礼はいいから早く帰らせてくれないかね。呉服屋が閉まってしまう。
今夜も美女たちのセクハラでスカートを汚すのはご免蒙りたい。
「そうか、貴君は見た目よりずっと冒険者らしいな。ところでその…………なんだ。
……近頃の娘というのは下着を穿かないことが流行っているのか……?私は穿いた方がいいと思うのだが……」
ロングスカートではあるが跳んだり跳ねたりをしていたので中身が見えてしまっていたらしい。
ジョエルにとっては心からの親切で指摘したつもりなのだろうが、人目のあるところでノーパンを暴露され恥ずかしくなった俺は横っ面をひっぱたいて迂闊な発言を後悔させてやることにした。
パァン!!と豪快な音が街にまで響き渡り、騎士は白目を剥いて失神した。




