7話 俺×竜
ワイバーンの攻略方法を閃いた俺は皆に協力を求める。
「グレン、武人のあんたにとっては屈辱かもしれないが、その槍俺に貸してくれないか?」
「どうぞ、お使いくだされ。アスカ殿の剣技、拙者の心を打ち申した。
拙者の魂と命、預けさせていただくでござる」
「そう言ってくれると助かる。
キッド、できるだけワイバーンに矢を射かけてくれないか?」
「効き目は期待できないけど、それでもいいニャ?」
「ヤツが嫌がらせぐらいに感じてくれればそれで十分。
ローガン、閃光魔法か、霧を発生させる魔法は使えるか?」
「ヤツの目を奪えればいいのじゃな?火魔法の応用で黒煙を上げることなら可能じゃ」
「察しがいいな。さすが歴戦の魔術師だ。俺が合図をしたら頼めるか?」
「承知した。ワシは小手先の魔法の精度ならAランクの若造にも引けをとらん」
「セレナ、俺に支援魔法をかけ続けてもらえるか?」
「もちろんですわ。アイリス様も最大の御加護を約束して下さることでしょう」
「バーク、俺がヤツを牽制している間、荷車からロープの束を持ってきてくれないか?
荷物をまとめるのに使うやつでいい」
「合点だ!頼んだぜ嬢ちゃん、いや、ドラゴンスレイヤー」
皆が各々の仕事を開始する。
ワイバーンは俺の思惑など露ほども知らず、単調な射撃を繰り返している。
その行為が自分の命を縮める愚策だとも気づかずに。
「待たせた!これでいいかっ?」
時間稼ぎをしている間にバークが戻ってきた。
「上出来だバーク、槍の柄にロープを結んでくれ。
可能な限りキツめにな」
「おう!任せてくれ!」
そろそろだな……
俺はローガンに向けて合図の手を振る。
既に詠唱を待機していたローガンが即座に黒い煙を頭上に発生させた。
双方とも姿を確認できなくなるが、俺はワイバーンの体も火球も魔力探知で確認することができる。
一方でヤツはキッドの矢雨で集中を乱され、煙に視覚と嗅覚を封印されている。
こちらに有利な状況が作られつつあるにも関わらず、馬鹿の一つ覚えのように火を吐く間抜けな生態に呆れた。
元から強いというのも考えものだ。
戦いから考える力を奪う。
戦況を読む目を曇らせてしまう。
俺は弱かったからな。格上の敵を倒す手段は研究に研究を重ねたさ。
こうして強くなった今でも力押しの戦術に頼る気はない。
成長が無いからだ。
実際、ヤツの高度までジャンプして斬りつける手段を考えはした。
体のスペックに依存しきった戦術である。
空中では受け身をとりづらいし、軌道の変更もきかないデメリットがあるので断念したわけだが。
安直な手ばかりとっていると、いつか足をすくわれる。
こいつのようにな。
俺はバークから槍を受けとると、煙越しに投擲した。
「これは、人間甘く見た授業料だ!弱い敵がこの世で一番恐ろしい魔物だってことを教えてやる!せぇいっ!!」
込められた魔力が空気との摩擦を起こし、轟音を響かせながら胴体に突き刺さる。
「グルァアアアアアッッ!!!!!!!」
体内に侵入した異物の存在にワイバーンは初めて悲鳴を上げた。
身をよじり槍を抜こうとするが、グレンの槍は穂先に反しのついたウイングドスピアだ。
巨大な釣り針は肉にガッチリと食いこみ、容易には外れない。
想定外の致命傷を受けたことにワイバーンは高度を上げ、この場から逃れようとする。
判断が遅すぎだ。
槍投げに成功した時点で先はないというのに
ロープが引っ張られ、弦の長さが最大になったと同時に俺は跳躍した。
槍に結わえられたロープがジャンプの進行方向に合わせ振り子の軌跡を描く。
勢いのまま頂点に達し、甲殻に覆われた背に着地する。
計画通り。心の中でほくそ笑む。
俺の考えた作戦に名前をつけるなら、そうだな……厨ニ病っぽく『けん玉《チャイルドプレイ》』とでも呼ぼうか。
けん玉っておもちゃで遊んだことはあるよな?
糸に吊られた玉を剣の柄についている皿の上にのせたり、玉に開けられた穴を剣に挿入したり、そういう技術を競うおもちゃだ。
ヤツとの距離を詰める方法を考えた時、閃いた。
ふりけんの要領なら接近できると。
タイミングはシビアだったが、向上した敏捷性がそれを可能にした。
けん玉に例えた場合ヤツが剣で俺が玉にあたるのだが、これから剣でぶっ刺されるのはもちろんワイバーンの方だ。
俺が攻めでヤツが受け。
知り合いのプリーストのおっさんが聞いたら喜びそうな想像をしてしまい、慌てて記憶の中から排除する。
いかん、真剣勝負に雑念を入れてしまった。
俺もまだまだだ。
近づかれることを執拗に恐れていたワイバーンは俺を振り落とそうとバレルロールを繰り返す。
だが、既に槍の柄を握っているので落とされることはない。
「抵抗したつもりか?ファーストクラスの座席かと思ったぞ?
アテンションプリィィィーズ!!!!当機は只今より地面に胴体着陸いたします。
今しばらくの生をお楽しみください。ビーフオアフィィィィッシュ!!」
クレイモアが羽に邪魔されて振りにくいので、腰のレイピアに持ち替える。
ワイバーンの心臓の位置分かんねえな。
まあ、いっか手当たり次第に刺せばいつか死ぬだろ。
甲殻の隙間を縫うようにして鋭い切っ先による抜き差しを繰り返してやる。
刃が肉に飲みこまれた後、中でぐりぐりとかき回してやるとヤツが悲痛な悲鳴をあげた。
ここか?ここがいいんだな?
待ってろ。すぐにおじさんが天国に逝かせてやるからな。
美少女の柔肌に包まれたまま死ねるのだ。
幸せだろ?
あの世に行った時同胞に自慢してやれ。
ヤツが限界を迎える寸前までレイピアでのストロークを徐々に強めていく。
ドロリとしたぬめりのある血液が溢れ、激しい水音を立てた。
「ゴアアアアアッッーー!!……ァァァ……ァ……」
レイピアが酷使に耐えかね、根元からポッキリ折れたところで悲鳴から力が失われ、ワイバーンはとうとう羽ばたくのをやめた。
中折れとは情けない。少し前までの俺みたいじゃないか。
柄だけになった剣を投げ捨て、クレイモアを再び抜く。
生命力のほとんどを垂れ流してしまった竜体は重力に負け猛烈なスピードで落下していった。
飛行魔法の発動条件は羽ばたきにあったらしい。
大剣を振るのに邪魔な羽は動きを止めた。
止めを刺すチャンスを見逃すほど俺は甘くない。
槍から手を離し、乗っていた背から跳躍する。
大剣を上段に構え振り下ろした。
反撃する気力もなくなっているワイバーンの首はさながら断頭台にかけられた死刑囚そのものだ。
無慈悲なギロチンの刃と化した大剣が容赦なくヤツの命を断罪する。
ワイバーンの体はきりもみ状態になりながら一足先に地面に叩きつけられ、首の断面から血をドクドクと噴出した。
俺は役目を果たした大剣をアイテムボックスに収納し、体を捻って猫のように華麗に着地する。
「な?俺の言った通りだったろ?」
皆を安心させるため微笑みかけてやったが、
観戦していたバークは顎が外れんばかりの驚愕の表情でこちらを見ている。
「本当に……やっちまいやがった……あのバケモンを……武器だけで…」
「すごいニャアスカ!猫耳族だってあんなに素早く動けないニャ!」
「修行のやり直しでござるな。良いものを拝見させていただいた」
「とんでもない嬢ちゃんじゃな。翼もないのに竜と空中戦なぞ、正気じゃないわい」
「わたくしはアスカ様の勝利を信じておりましたわ。お疲れ様です」
コレだよコレ。
チート能力を手に入れたら、この称賛を浴びないと意味がないよな?
35年我慢したんだ。今回ぐらい自惚れるのを大目に見てくれや。
しかし、久しぶりに戦ったせいか腹減ったな。
「なあ、ここにワイバーンの肉があるんだけどさ。
焼いていかない?」
俺の活躍に驚愕していた一同はさらりと出てきた冗談にお互いの目を見合わせると盛大に吹き出した。
後半、美少女の騎○○表現がアウトでないことを祈ります。




