友人談:あれで付き合って無いんだぜ?
「実は佐川さん、ここだけの話だけど、あの二人……あれで付き合ってないんだぜ?」
「え? わ、私てっきり……。あの仲だから二人はとっくに……」
なんか内緒話らしきものが漏れてきているのだが、それに伴って俺の背中では急激に体温を上昇させている子がいる。
「わ、私達って、つ、付き合っているって思われていたみたいね……」
「ええ、そのようですね」
俺の背中から声をかける三条先輩。
少々、いや、かなり人目に付いて恥かしいのだが、腰が抜けて歩けなくなったJKを放っておく訳にもいかず、絶賛おんぶ中である。
しかし高校生とはいえ、異性のおんぶは合法なのだろうか……。完全に浮いてるような気がするんですが。
尚、背中の伝わる感触はプライスレスとなっている。ぐにゅうっ~ってなってる。この感想に語彙力などいらない。凄い幸せ。
ちなみに流石にお姫様抱っこ案も浮上したのだが、非力な俺では長時間は腕が持たないと察し、おんぶ案を提供させてもらった。
そんなこんなで背中の幸せと引き換えに、体力を削りながらなんとか観覧車のエリアまでやって来た。
流石は遊園地の定番。先程のおどろおどろしい雰囲気のアトラクションと違い、非常に華やかで平和的である。やっぱ最初にこういったアトラクションを選ぶべきであったと思う。
しかし背中が幸せに満ち過ぎて、鼻の下が伸びそうになるのが問題だ。無心だ、無心になるんだ。思い出せ、辛く厳しかったあの料理長との修行の日々を。
……一気に寒気が。やめよう、無理に地獄を思い出すのは。
「申し訳ないわ、みっともない所見せてしまって……」
「いえいえ、これからはホラー系はやめましょうね、お互いの為に」
「……私は、ちょっといいかなって。こんなご褒美があるなら……ね?」
ご褒美って三条先輩に対して何かありましたっけ? 歩かずに済んでいることの事でしょうか?
確かにこの感触は俺にもご褒美ではありますが。ところで口には出さないですけども、結構重いんですよねぇ……。
おぶっているとはいえ、腕と腿に負荷がかかってパンパンに張ってきてますからね? もう十分に感触は堪能出来ましたのでそろそろ降りてもらえませんかね? 乳酸が溜まって筋肉が悲鳴を上げてますから。
「きょ、恭介君っ! ほ、ほら、観覧車だよ!?」
「お、おお! でっかいな! きっと絶景に違いねえな!」
ベタベタとくっついてる俺達を見ていた二人は、遂にいたたまれなくなって現実逃避しだしたようだ。
二人の仲を進展させるという点では大枠で外れていないかも知れないが、なんか思ってたのんと違う……。
「後輩君の背中……うふ♪」
「くっ佐川さん! あれは見ちゃダメだ! ほら早く観覧車乗ろ!?」
「う、うん! そうだね!」
なんか恭介達が照れて先に行ってしまったのだが……。三条先輩は一体俺の背中でどんな顔してるんだ?
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先行した恭介達を追いかけ、俺と三条先輩も一足遅れて観覧車に乗り込んだ。尚、乗車直前で俺の背中から降りた三条先輩は、軽快にゴンドラへと乗り込んで行った。
どうやら随分前から二足脚歩行が可能だったようである。それを目の当たりにした俺は……。
「歩けるんならもっと早く声かけて下さいよ!? 結構重かったんですから!!」
本音を解き放つ事にした。自力で歩けるなら歩けよ、JK……。
「お、女の子に向かって重いですってっ!? なんて暴言を吐くのよ!! それに貴方にもメリットがあったでしょ! 背中にむにぃっと当たってたでしょ!?」
しばらくの間、景色も見ずにただただゴンドラの中で揉めていた。この状況下ではもはや、逃亡不可の完全個室バトルフィールドでしかなった。
「だ、だいたい、お化け屋敷の件だって素直に怖いと言ってくれれば外で待ってたのに! 意地を張るからですよ!」
「あら!? 背中のむにぃは無視!? それに貴方だって怖がっていたじゃないの!? 意地を張ったのはお互い様よ!?」
「むにぃは……その、アリガトウゴザイマス」
「素直で宜しい」
大きな胸を持ち上げて腕を組み、してやった顔をする三条先輩に俺は素直に頭を下げた。
どうやら俺は、この勝負は負けたらしい。デケぇの話を持ち出されたら何も言えない。事実、むにぃがあった訳だし……。
最高の思い出をありがとうッ!
勝敗が決したところでやっとこさ景色に目をやると、少し先にいくゴンドラに居る恭介達に見られていた。
どうやらもうこっちももうすぐ頂上の折り返し地点らしい。観覧車の半分を無駄な口論に使ってしまったのか……。
「しかし、このWデート、上手く行ってるんですかね?」
「なんだかんだ言いながら二人で行動してるし、結構いい感じだと思うのだけど……あ、あれっ!! あれ見て!?」
頂上を過ぎたゴンドラはくだりに入ったのだが、ちょうど恭介達が乗るゴンドラの一部が見えるポジションになった。
三条先輩の指差す方に視線をやったのだが、先ほどまでは対面で座っていたのだが……隣同士に移動している……だと!?
「ちょ、ちょっと後輩君!? 恭介君、手が早くない!? あ、見て見て!? 手っ! 今度はほんとに手を握ったわよ!?」
やるな……。やはりハゲてないイケメンは違う。帰宅部ルートだと熱血青春ストーリーが無い分、甘酸っぱい恋愛ルートが開けるんだな。
あいつ、やれば出来る子だったんだな……。
「初々しくていい感じですね……くッ!」
「奥歯を噛みしめながら言うセリフじゃないわね。絶対にひがんでるでしょ?」
はい! その一言に尽きます。まあ、これで早くもミッションコンプリートだ。恭介にはでっかい貸しを作ってやったぜ。
「でも、そ、そんなに羨ましいならさ、わ、私と……あんな感じに手を繋いでみない……?」
三条先輩が頬を染めて俺の隣にやってきた。その瞳はうっすらと潤み、可愛らしい唇が艶っているのが見えた。
恥じらいを持った表情で静かに俺の横に座り無言になった。
どうした、三条先輩? どうしてこのタイミングでそんな乙女心を出してきたの?
「で、でも俺、さっきまで三条先輩をおんぶしてましたし、お化け屋敷ではこれでもかと言うぐらい密着してましたよ? 今更改めて手を繋ぐこともないような気が……」
「……」
事実を並べるとなんか不機嫌になった。そしていつもの端正な、いや、恐ろしさを感じる表情に変わった。
どうして?




