消えた修……
「後輩君っ!! 後輩君は何処に行ったのっ!!」
その日の授業が全て終わり、放課後になって間もなくの出来事だった。自然に教室に入り込み、さも当然のごとく俺を拉致しにきた三条先輩が声高に叫んでいた。
どうやら俺を呼ぶ一人称は貴方か後輩君で落ち着いたらしい。修さんでもいいのに……。
他のクラスメイトは『また来たよ……』的な視線を投げかけている。そりゃそうだ、一年の教室に三年がズガズガと入り込んでくるだもんな。もちろん、俺もその一因だ。
「お、修はなんでも今日は用事はあるって先に帰りましたよ?」
俺に代わり、冷や汗を垂らしながら三条先輩の対応をする恭介。だが目線は完全に胸元のデケぇに行っているのが見てとれる。
どこまでもエロい奴だが趣味は合うのが俺達なのだ。恭介とはいい酒が飲めるんだよなぁ。高校生になってしまって酒を飲めないのが本当に悔やまれる。
「くっ……入部二日目にして無断欠席なんて! これはお灸をすえる必要があるわね! 特大のを!」
特大のお灸なんてものがあるのですか……? それ、拷問以外何者でもないですよ?
随分とご立腹な様子の三条先輩は、胸を下から抱えるように持ち上げて腕を組み、明後日の方向を眺めていた。
その姿に男どもが注目し、女子はそんな男どもを軽蔑の目で見ているのがこれまた見てとれる。男どもの評判がみるみる地に落ちていくのが分かる。
ちなみにその現場に居ない筈の俺が、先ほどから実況が出来ているのにはトリックがある。なぜなら俺は、最初から二人のやり取りだけでなく、クラス全体を見渡せる位置に居るからなのだ。
そう……掃除用具入れの中に入ってるからな!
ギリギリだった……チャイムが鳴ってすぐに掃除用具入れに入らなければ間に合わなかっただろう。
この授業終了から俺のクラスに現れるタイムラグの短さから、三条先輩、間違いなく三年の校舎から全力ダッシュしてきている。
どんだけ料理食いたいんですか……。
「ならまだ校庭に居るかも知れないわね!」
校庭が見渡せる窓に移動し、俺の姿を探している姿が映った。
ふふ、そんなところには俺はいませんぜ? さあ、諦めて……ん?
「そちらはどう? ええ、そう……分かったわ。引き続き警戒を怠らないで」
いきなりスマホを取り出すや友達? に電話をかけ出した。ていうか、学校にスマホを持ってきたらダメですよ? 下手したら没収されちゃいますよ?
「……恭介君? 後輩君はまだ校内に居る事が確認されたわ。ねえ、本当に居場所知らないの?」
な、何だと……? まさか校門に人員を配置させて俺の行動を把握しているとでもいうのか!? そういえば昨日も俺の家を知ってたし……。
おのれ、流石は金持ちの令嬢といったところか。取り巻きがいても不思議ではないもんな。
落ち着け……そう、俺がまだここに居る事がバレた訳ではない。恭介がシラを切り続けてくれれば何も問題は無いのだ……。
「隠すと為にならないわよ? もう一度聞くけど……後輩君がどこに行ったか……知らない・か・し・ら?」
恭介に近寄り、険しい顔を向ける三条先輩。だが俺と恭介の仲はそんな脅しに屈する程、やわな友情じゃ——
「さあーせんしたぁっ!! そこっす、そこに居るっす! くっそぉ……デケぇよぉぉ……」
早々にフラグ回収すんなやっ!!
美少女の圧力、というか胸の圧力に負けて幸せそうにしてんじゃねえよ! 男の友情は何処に行った!?
もはや想定内とも取れる恭介の裏切りにより、俺は白日の光を浴びる事になった。
「あらぁ~、そんなところで箒を抱えて何をしてるのかしらぁ……? 空でも飛びたいの? なら止めないわよ? そこの窓からぴょんと飛んでみる?」
いや、目よ。完全にサイコパスのものですよ? てかここ、三階だからワンチャン飛び降りたら死にます。
「さ、三条先輩、落ち着いて下さい……これには深い訳があってですね……」
「どんな深い訳があるのかな? 先輩から身を隠すが為に、掃除用具入れにまで入る深い訳。楽しみね……さあ、聞かせてよ、ねえ?」
とりあえずめっちゃ怒ってらっしゃいますよね? 確かに隠れてサボろうとしたの事実だけども、そんなに狂気に満ちた目をしなくても……。
「わ、分かりました! じゃ、じゃあこうしましょう! 隠れていたことは謝りますし、ちゃんと料サーの活動にも参加します! ですが今日は夜に用事があるので……俺の家で活動しましょう!」
「……あ、貴方のお、おうちでぇ!?」
なんだ? 先程まで殺意の眼差しを向けられていたのに、急に女の子らしい素振りを見せながら慌てだしたんだが?
「は、はい。今日は母さんも帰りが遅くなるって言ってましたし、妹も塾で遅くなります。それに父さんも長期出張中ですので。家には誰も居ませんからちょうど良いかと」
「そ、それって、異性が、ふ、二人っきりになるって事じゃないの!? わ、私達はまだ高校生なのよ!? あ、貴方は確かに大人かも知れないけど、こっちはまだ心の準備ってものが――」
「わぁわぁ!? 三条先輩は何を言ってるのかさっぱり分からないなぁ~!? さあ、時間がもったいないのでさっさと行きましょうか!」
今、俺の素性をサラっとぶっちゃけてましたよ!? 秘密にするって約束、一日で破ろうとしてるじゃないですか!
「修……お前……嘘、だろ……? お、大人って……そっち側の人間、だったのか……?」
この慌ただしい中、恭介が絶望に満ち溢れた顔を向け、怨念かのような声で問いかけてきた。
そっち側がどっち側かは分からないが、きっと求めている答えはこれだろう。
「安心しろ、恭介! そして聞いてくれ、みんな! 俺は彼女いない歴=年齢だ! そして俺の体は新品未使用、未開封品だ!」
その言葉を投げ捨てて教室を出た。信じてくれ、みんな!
なんと自身初のジャンル別ランキングトップ10入りしました!
これも皆様の応援のおかげです!
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