三条先輩とお買い物
「何度も言いますが、この事は他言無用で頼みますよ!? 本当にお願いしますからね!?」
「分かってるわよ、大丈夫よ。貴方に未来の記憶があるだなんて、仮にそんな事を他の人に話したところで逆に『頭大丈夫?』って心配されてしまうような話だから。安心しなさい」
二人して駅前のお店に向かいがてら、何度も釘を刺しておいた。ちなみに俺の例の冤罪をかけると脅されて素性は全て話した。
しかし意外だったのは、三条先輩は誰がどう聞いてもホラ話にしかならない俺の言葉を、まるっと信じてくれた事だ。
俺が言うのもなんだけども、俺の方も頭が大丈夫かと心配したくなるレベルだ。当の本人でさえ怪しんでいるのに。
「でもこれで謎が解けたわ。いえ、深まった謎もあるけどね」
「自分でも正直良く分からない状態ですからね……」
十六歳の高校生が十四年の調理キャリアを持っている訳だもんな。この状態でもう一度料理の道に入れば、鬼才、天才ともてはやされるかもしれないが、伝統を重んじる道だからな。腕がいかに立とうとも、諸先輩の手前もあるので一から下積みは必須である。
なによりこの人生は文系に生きると決めたんだ。料理は趣味程度に留めておこうと思う。
「でもこれからが楽しみだわ。貴方が作ったお料理、まだ一品しか食べてないけども、今まで食べたどんなお料理よりも美味しいと思ったのよ?」
「そう言ってもらえると光栄ですが、正直、俺より腕が立つ料理人なんてごまんといますよ?」
正直やっとこさ一人前になったレベルであり、師匠であった料理長の足元程度にしか及ばない。
同年代やアマチュアなら無双モードに入れるかも知れないが、プロの世界では通用しない。とまでは言わないが、上には上が居るってやつだ。そんなに甘い世界では無いのは身に染みて分かっている。
「そこは私も不思議に思っているのだけど、作り手の年齢のせいかしらね? ほら、女子高生が作るお弁当と、母親が作るお弁当とではやっぱり美味しさの感じ方が違うのと同じじゃないかしら?」
「確かに一理あるかも知れませんね。ただ残念な事に女子高生が作ってくれたお弁当というものは、食べた事が無いので分かりかねますが」
今、俺の心をえぐったのに気付きました? 現役JKの作るお弁当を食べれる確率なんて、一般男子高校生にとってはスクラッチくじの一等当てるより難しいですよ?
「女子高生が作ってくれたお弁当、食べた事ないんだ……じゃ、じゃあさ、そのお弁当、わ、私が作ってあげても……そ、その、構わないわよ……?」
「あ、大丈夫です。自分で弁当ぐらいなら作りますから。それに三条先輩が作るお弁当って、真っ黒に焦げた炭を敷き詰められた弁当が安易に想像出来ますので。ぜひ心の底から辞退させて下さい。お願いいたします」
深々と頭を下げ、辞退させていただいた。
全てのJKが料理上手ではないし、どちらかというと料理をしたことが無い子も多いだろう。
料理下手であることを知らず、お弁当を貰うのは一種の交通事故として涙を飲むが、事前知識として料理下手、ましてや末期状態と知っていて受け取る程、俺はお馬鹿さんではない。
ここであやふやな返事をしてしまうと、この前のあれの類似品を食う事になる。そんなの交通事故じゃなくてただの投身自殺だ。
「……ねえ貴方、彼女いなかったでしょ?」
「ぐっ!? な、なぜそれを!? し、仕方ないでしょ? 仕事が忙しかったんですから……」
「なんでもかんでも仕事のせいにしない! はぁ……貴方って女心が分からない系なのね……」
なにやら肩を落としてジト目で見られてるが……その目、妹の雪もよくしますよ?
そんな少々機嫌の悪くなった三条先輩をあしらいながらも、懐かしの駅前のスーパーにやってきた。看板やのぼりが新品なのに、ノスタルジックさを感じるのは俺だけだろう。
さて、早速買い物と行きたいところなのだけども、流石に高校生の財力で食材をバカスカとカゴに放り込むのは金銭的に難しい。
元大人の俺としては、今現在の財布に入っている金額を見て不安で仕方がない。俺は現金派だったので少なくとも数万は常に入れていたからなぁ……。
今の俺の財布に夏目漱石の千円が二枚。地味に懐かしい……。
とはいえ、俺が食材購入する訳でもない。きっと部費から出るのだろう。三条先輩からは『必要な物を必要なだけ買えばいいわ』との返答も頂いている。
そして記念べき、お料理サークル、略して【料サー】入部一発目に俺が作る料理のリクエストも既に頂いている。
「今日は肉じゃがね。うふ! 楽しみだわ♪」
はい。肉じゃがを所望されました。てか部長はもはや作る気はないらしい。完全に食べ専に徹するようだ。
サークルとして破綻している気がする。そんな仕組みなら恭介も入れてやればいいと思うんだが。まあ、高校生の部費なんてタカが知れてるだろうから、週に一回も活動できればいい方だろう。残りの平日四日間は帰宅部業に精を出させてもらうとしよう。
「はい、ささっと材料買って戻りますよ。時間がもったいないですからね」
必要な材料をかごに入れ、店内を練り歩いた。もちろん、出来る限りの目利きはしてある。しかし芋を見ると、若かりし頃に毎日地獄の皮むきをしていたのがつい先日のように蘇るなぁ……。
「ちょっと貴方? 先輩のお姉さんに向かって少々いけずじゃないかしら? 中身がおじ様ならもっと紳士的に接してくれてもいいんじゃない?」
「お姉さんって……俺からすれば三条先輩は子供なんですが?」
「屁理屈ばっかり言わないの! これだからおじさんは……それに今は貴方の方が子供でしょ!? 高校一年生なんだから!」
端から聞けばロジックの破綻した支離滅裂な会話が繰り広げられているが、これが案外楽しかったりするのは内緒の話だ。少々ディスられている気はするけど……。
でもいいんだ。高校生活は女っ気が一切なかったからそれでも嬉しいのさ……。今この瞬間がすっげえ新鮮に感じるもん。なにより美少女のJKと会話出来る時点でプライスレスだ。
それに何気に先輩と後輩といった絶妙なポジが一層、貴重感を高めてくれてるのもポイントだ。
三条先輩はキャラ枠で言うと間違いなく、スーパーウルトラレジェンドレアだからな。尚、俺はレアカードの台紙にされてしまうようなコモンだが。




