7話 情報交換、そして……
美奈の話を要約するとこうだ。
一時間目の授業の途中で、廊下側の窓を叩く音がした。
異変に気付いた生徒が窓の鍵を閉めたが、窓にヒビが入ってきて割るのも時間の問題。
二階の教室だが、ちょうど下にトラックが止まっていたこともあって、窓から外に飛び降りることにした。
クラス全員が無事下に降りて、一斉に逃げた。
運良くゾンビに目をつけられず、正門を出て無我夢中で走っていると、このビルにたどり着いた。
食糧はこの廃ビルの二階にあったらしいが、元々二階より上はゾンビが徘徊していたので、二階のドアを閉めて閉じ込めておいたらしい。
1日目は何も食べずに過ごし、2日目の夜に隣のビルが倒壊したそうだ。
二階へ上がってみると、がれきに埋もれて瀕死状態のゾンビが四体いたらしく、大きめのコンクリートのかけらを振り下ろして、とどめを刺した。
するとステータス画面やらなんたらがあったらしいが、俺とほとんど同じだ。
身体能力が上がっていることに気づき、これなら外に食糧を取りに行けるのではないかと思い、一夜明けて外に出る。
近くのコンビニを見つけ中に入るが、運悪く槍ゾンビに接触。
レベルアップした身体能力で、なんとか逃げ回っていたところを俺が救出。
まぁ、そういうことだ。
なるほど、やはりゾンビを倒すことによって、レベルが上がったりするのは間違いないようである。
あとは、話を聞く限りスキルはまだ覚えていないようだ。
俺の場合は、レベル3の時点で「空間把握」を覚えたが、美奈はレベル3になってもスキルが覚醒していないのだ。
スキルを覚えるレベルには、個人差があるのか、別の条件があるのか。現時点では判断できないな。
とりあえず、向こうが話したのだから、俺の話もするべきだろう。
俺は、スキルについては伏せて、それ以外のことを話す。
「箒でゾンビを倒したんですか!?すごいですね!」
そんなところに驚くのか。仕方ないだろう。他に武器になりそうなものなかったんだもん。
「とにかく、情報を整理しよう。まず、第一にゾンビは元々人間だったものが、他のゾンビに噛まれたりして伝染したものだ。ゾンビに噛まれた人は、体が緑に変色して完全に体が緑に染まると、ゾンビとして行動を始める」
「あれが元々人間だったと考えると、倒しにくいですね」
「そこは、この状況下では割り切るしかないな。二つ目は、ゾンビを倒すことによって経験値が貰え、それによってレベルがあがると身体能力やもろもろの能力が上がる。そして、それはゾンビも同じだ」
「こうやって、話している今もどこかで、ゾンビはパワーアップしているのでしょうか?」
「おそらくそうだ。これから、もっと強力なゾンビが歩き回る可能性が高い。俺たちもレベルをどんどん上げていかないと、対処できなくなるかもな」
まぁこんなものか。
スキルについては伏せておく。この力は強力すぎるので、話すと彼女が怖がるかもしれない。
「すっかり、日も暮れたな。そろそろ俺は寝床を探しに行くよ」
さすがに年頃の男女が、近くで寝るのはまずいだろう。当然そう思い、出て行こうとするのだが袖を引っ張られる。
「何出て行こうとしてるんですか?せっかく、ソファが二つもあるですから、ここで寝ていってくださいよ」
「えっ…?いやそれは流石にまずいだろ……」
「何がまずいんですか?こんなに可愛い女の子を一人で寝かすほうが、よっぽどまずいと思いません?」
それも一理あるか…………
っていやいやそうじゃなくて!
流石にそれはダメだって。
鋼の意思で抵抗するも、うまく丸め込まれた俺は美奈と一夜を共にすることになった。
☆☆☆
今日もいろいろあったな。
なんだかんだで仲間に会えたのは嬉しい。
ここのところ、誰とも会えてなくて俺も寂しかったんだと気付いた。
とにかく、明日は学校に戻って様子をみようと思う。
そろそろ、ストレスが爆発してもおかしくない頃だ。
んっ?どうやら、美奈の毛布が落ちたようだ。
仕方ないかけ直してやるか。
俺はソファから立ち上がり、落ちた毛布をかけ直してやる。
不意に美奈の顔に目がいった。
相変わらず整った顔をしているが、問題はそこじゃない。
目から頬を伝って、一筋の涙がソファを濡らしていた。
「うっ……お父…さん……お…母さんっ……」
なるほど。
要するにこいつも寂しかったんだな。
それはそうか。まだ中学生なのに、こんな騒動に巻き込まれて、これまで常に命の危険を感じながらやってきたのだ。
そこでやっと出会った仲間を手放すわけがない。
だが、俺にはやらないといけないことがある。
学校に戻って二人の親友の救出という、絶対にやらなくちゃいけない使命がある。
俺は自分の毛布も美奈にかけて、しばらく側にいた。
俺が事務所の道具を使い、置き手紙を書いて廃ビルから去ったのは、夜中の三時頃だだったと思う。




