閑話 体育館の話1
5/30 1話の改稿に合わせて一部を削除しました。
俺の名前は、館山和という。
勉強はそこそこ、スポーツには絶対の自信がある。そんな俺は、終業式の今日も部活の朝練だ。
いつも通り、ホームルームが始まる一時間前に校門をくぐる。
俺の所属するサッカー部は、夏の大会が終わって先輩が引退し、今は俺たち2年がチームを引っ張っている。
今年の夏の、3年生にとっては最後の大会が終わったあと、俺は前キャプテンから部長に指名された。
そして、もうすぐ秋の大会も始まる。ということで、今はすごく大事な時期だ。
少し、早めに朝練を終わり、俺はホームルーム教室に向かう。
(そういえば、今日は清の日直の日か。どうせ、日直日誌取るの忘れるだろうから、取っといてやるか)
清、つまり神崎 清は俺の親友だ。中学の時から同じクラスで、とても長い付き合いだ。
清を始めて見る人は、スポーツも帰宅部のくせに、運動部より得意だったりするし、勉強もクラスでいつも上位に食い込んでいるので、完璧に見えてしまうのだが、本当は面倒くさがりやで、抜けているところがあるのを俺は知っている。だからこうして、フォローするのだ。
その日の日直は、職員室にある日直日誌を取って、放課後に書いて戻しておかなければならない。忘れるとやり直しさせられる。
清は、高1の頃に3日ぐらい連続でやり直しさせられたことがある。それからは、俺が日直日誌を取りに行ってやってるのだ。
清が来るのは、ホームルーム五分前だ。
「よっ!おはよー、清」
「あぁ、おはよう」
そして、日直日誌を渡す。
「ほい、日直日誌。どうせお前のことだから取ってくるの忘れてただろ」
「ありがとな。そういえば今日は日直だったか」
やっぱり、忘れてたようだ。
卒業までには、その性格を直してやろうと考えているが、なかなか治らない。俺が放っておくと、一週間でも一ヶ月でも忘れ続けるであろうことは、高1の時にわかった。
「おはよう、清。終業式の日は、日直の仕事少ないから、ラッキーだったね」
こいつは、楽泉幹也。高校生になってから、同じクラスだ。どうやら清と気があうらしく、俺も喋っているうちに、よくこの三人でいることが多くなった。
「じゃあ、ホームルームを始めるぞー!」
いつ間にか、担任が入ってきたようだな。
終業式、つまり学期の節目ということで、連休中の過ごし方などの話が始まる。
「今日は、終業式だからこのあとは、体育館に集合してくれ。何か質問はあるか? ……………よし、じゃあ終わるぞ」
俺たちの担任、八岩 良は体育の教師らしく、裏表のない性格で人気も高い。話が長いところは、玉に瑕だが…
ホームルームが終わり、案の定体育館に向かおうとする清を呼び止める。
「おーい、清。お前、日直なら鍵閉めないと」
「おぉ、忘れるところだった。ありがとな、和」
どうやら、この性格を卒業までに治すのは、難しいかもしれない。
「清、俺たちは先行っとくぞ」
「わかった、」
幹也とともに体育館に向かう。
階段を降りて、渡り廊下から一旦外に出る。
その時、なんとなく生徒たちが騒がしい気がした俺は、正門の方に目をやる。
(なんだあれ?)
形は人だ。だが、肌は緑色をした生き物が生徒たちを追いかけ回している。
どういう状況だ?
先生達は体育館に避難を促している。それに従い、幹也と俺は体育館に走っていく。
なんとかあの生き物には、目をつけられず体育館に入ることができた。
だが、まだ外にいる生徒がいるためドアは閉められない。
あ!そういえば、清がまだだ。マイペースだから、まだ戸締りをしているに違いない。
「そうだ、清が!清が危ない!」
俺は、体育館を飛び出し教室に戻ろうとする。
「ダメだ、危険すぎるよ!」
だが、入り口にいた先生に通せんぼされ、幹也に羽交締めされた。確かに危険だが、このままでは清を外に取り残すことになる。
「そんなこと言ったって、清がまだ来てないんだよ!」
なんとかして、幹也の羽交締めから抜け出そうとするが、意外に力が強いのか抜け出せない。そんなことをやっている内に、外に残っているのは数人になった。
その時だ、女子生徒が転んだ。
転んだ生徒に狙いを変えた緑色の生物は、転んだ隙にその生徒に飛びつき、肩にかぶりつく。
「……ぁぅ……あぅぁぁ……」
女子生徒は、声にならない悲鳴をあげながら抵抗するも、痛みでうまく力が入らないようだ。
その時、女子生徒の白い肌が少しずつ緑色に変色し始めた。自らの変化とあまりの痛みに気絶寸前だ。
「もうあの子は無理だ……」
そう言った先生は、体育館の入り口を閉めて鍵をかける。
おそらく、あの女子生徒の友達であっただろう生徒たちが、飛び出していこうとしていたのか、先生に止められている。
それよりも清が心配だ。教室の鍵は持ってるから、教室に立て篭もるとしても食料の問題がある。
かといって助けに行けるかと言うと、危険を伴うし、少しの間でもドアを開けることは、俺だけでなくみんなを危険に晒すことになる。
あいつを信じるしかないか。なんとかして、体育館に来た時はどれだけ反対されても、ドアを開けてやろう。




