5話 空間支配
目を覚ますと、そこは天国だった。なんてことはなく、自分の教室だった。
あれ?俺は、生きているのか?
てか、体が痛くない。
まさか、レベルアップで自然治癒力まで上がっているのか!?
もしかしたら、死ぬかもしれんと思っていたが…
それにしても腹が減ったな。
昨日の朝から、今まで約1日なにも食べていなかったからな。
とにかく、食べ終わったら空間把握から進化した空間支配の実験でもやるか。
食べ終わったので実験を始める。
今までと同じように、周りの状況を知りたいと念じる。
どうやら、空間把握の能力はそのまま使えるようだ。
範囲もかなり広くなっていて、周囲1kmぐらいの状況は分かる。
見たところ、強いゾンビはもういないようだ。
いつどこからやってくるかは分からんから、油断はできないが…
試して見たいこともあるので、外に出てゾンビに試そう。
ということで、校門の外に出た。
空間把握で、この周辺に強いゾンビはいないことが分かっているので、実験にはうってつけだ。
適当なゾンビを空間把握で探す。
そういえば、俺ら以外に生存者はいないのか?
探して見ると、ところどころだが家の中に引きこもっている人を見かける。
もっといたんだろうが、斧ゾンビに襲われてしまったのだろう。
何にせよ、こうして歩き回っている奴はそうそういないようだ。
そんなことを考えながらも、俺は空間把握で反応のあった方に向かって歩いて行く。
いた。
実験には、ちょうど良さそうなゾンビだ。
落ちていた石を軽く投げつけて、こちらに気づかせる。
こちらに気づいたゾンビは、例の如く突進してくる。
しかし、あと1mというところで見えない壁にぶつかったように進めなくなった。
どうやら成功したようだな。
何をしたかというと、1m先を境に空間が繋がっていないというイメージをしただけだ。
空間支配っていうぐらいだから、できるんじゃないかと思ったが、問題なくできるようだ。
その瞬間、ゾンビは断末魔を上げる暇もなく、頭から真っ二つに切れた。
ゾンビのところで、空間がズレるイメージをしたが、これも上手くいったようだ。
「空間隔絶」と「絶対切断」とでも名付けよう。
これで、大幅な戦力アップになったな。
空間支配には、本当に感謝だ。
これからどうしようかな?
今の俺は、ゾンビに遭遇しても余裕で倒せるので、スーパーやコンビニなどに行けば、食料など幾らでも手に入るだろう。
となると、今やることは情報収集かな。
どっかに立て篭っている奴に、情報収集はできないからなぁ。
まぁ、移動しながら考えるか。
もしかしたら、俺みたいに外に出てレベルを上げている奴がいるかもしれん。
あ、そういえば!
すっかり忘れていた。
空間系の能力の鉄板。
そう「転移」だ。
結論から言うとできた。
ただ、空間把握の範囲内か、目に見えるところまでだ。
それと転移というよりも、行き先へ繋がる穴を作ってそこを通る感じだ。
所謂、どこで○ドアだな。
というわけで俺は、空間把握の範囲内ギリギリまで転移し、そこで空間把握を使って人を探すということを繰り返していた。
ときどき、コンビニ寄って食べたり、地図を確認したりした。
地図を確認したのは、都会に向かうためだ。
俺の住んでいる場所は、田舎とはまでは言えないが、たいして発展しているわけでもない。
だから、とりあえずは人が多い場所に向かうことにしたのだ。
最初のうちは、空間把握で1km周辺を見るのに時間がかかっていたが途中で、
『習熟度が一定に達したので、スキルが覚醒しました。』
というアナウンスが聞こえたので、ステータスを見ると、
神崎 清 16歳
レベル 5
体力 140
力 18
耐久23
速さ 22
精神力 25
スキル
空間支配 思考加速
スキルに「思考加速」が増えていた。
これを覚えてから、空間把握で1km周辺を見る早さが格段に上がった。
レベルアップ以外でも、スキルに応じた経験をすることで、スキルを覚えられるようだ。
午前中のほとんどを移動に費やしたおかげで、だいぶ都会に近づき、ビルなども増えてきた。
ビルに避難している人達が、「空間把握」によく引っかかるが無視だ。
俺の高校の体育館の、備蓄食料は全校生徒一週間分だったはずだ。
ということで体育館の奴らがちゃんと食料を分け合えば、一週間は生き延びれるはずだ。
でもおそらく、残りの食料がわずかになってくると、食料を独り占めしようとする奴が出てくるかもしれない。
少なくとも、俺はそう踏んでいる。
初日に、腕を食われてゾンビになった女子生徒の悲鳴は、体育館にいた人達全員が聞いていただろう。
だから、体育館を出るという選択肢はとらない。
体育館という、閉鎖的空間で何日も過ごすことで相当ストレスが溜まるはずだ。
そんな中で、食料があとわずかとなった時に、誰かを切り捨てて自分が生き残ろう、と考えても仕方がないと思う。
そういうわけで、ゾンビが現れ始めてから4日目、つまり明日、一度体育館の中の様子を見ようと思う。
夕方まで、人探しをして見つからなかったら帰るつもりだ。大体、あと四時間ぐらいか。
帰りは、転移だけを繰り返すので行きよりは早く帰れるだろう。
そんなことを考えながらも、転移と捜索を繰り返す。
やはり、都会に近づくに連れて、ゾンビの数も増えてきたようだ。
おそらく人口が多いので、それだけ食われてゾンビになった数も多くなっているのだろう。
ゾンビの数が多いことに加えて、3日目ということもあり、外にいる人間が少ない。
よって、共食いでレベルアップしたゾンビもよく見かける。
斧ゾンビと同じぐらい強さのゾンビも何度か見かけたが、遠くからの「絶対切断」で一撃だった。つくづくチートだわ、この能力。
とりあえず、レベルの低いゾンビを倒しても、あまりレベルが上がらないだろうということで、レベルアップしたゾンビだけを狙って倒していった結果、ステータスはこうなった。
神崎 清 16歳
レベル 8
体力 180
力 26
耐久31
速さ 33
精神力 31
スキル
空間支配 思考加速
何度目かの転移で出たところでは、ビルがいたるところで、破壊されて倒れていた。
空間把握で周辺を調べてみるも、それらしいゾンビの反応はない。
とりあえず、俺は倒れたビルを辿って転移していくことにした。




