18話 対談
18話 対談
「貴方達が新しい住人かしら?よく来たわね」
俺がドアを開けると、氷のイスに座った女が微笑んで待っていた。
俺とそう変わらない年に見えるが、マルクと同じく日本人離れした顔で、髪も青白く、なんとも言えない繊細さを感じる。
「いや、まだここに住むとは決まっていない。俺たちは情報交換をしに来ただけだ」
「そうなの?まぁ、とりあえずそこに座って」
女が指したところに、入った時にはなかったはずの立派なイスが二つあった。
もちろん氷で出来たものだ。
どうやら、この女が氷系のスキル持ちで間違い無いようだ。
青っぽい髪にぴったりのスキルだ。
あんまり関係ないかもしれないけど。
「私はアリシア、貴方達は?」
「俺は神崎 清だ」
「大牧 美奈です」
互いに自己紹介を終える。
アリシアは特に俺たちを警戒した風でもないようだ。
既に信用されているのか、それとも氷系のスキルが襲いかかられても対処出来るほど強力なものなのか。
そんなことを考えていると、アリシアの方が先に口を開いた。
「情報交換といったわね」
「ああ、ゾンビに対抗するために少しでも情報が欲しいんだ」
「この里には住みたくないの?食糧にも余裕があるし、貴方達二人が住むと言うのなら歓迎するけど」
「食糧に余裕があると言うのは?」
どこかに備蓄食糧が大量にあるのか。
それとも、それ関係のスキル持ちでもいるのか。
「ああ、そうね。じゃあ、それも含めて説明するわ」
そう言うと、アリシアは指をパチンと鳴らす。
すると、俺たちの目の前にバスケットボール大の氷の玉が現れた。
「私は氷支配というスキルを持っているわ。こんな感じで氷を作り出して好きな形にしたり、動かしたりできるの」
氷の玉が形を変えながら、部屋を飛び回る。
サイコロみたいになったり、星型になったり、変幻自在のようだ。
槍の形にして相手に飛ばせば攻撃にも使えそうだし、壁を作れば防御もできる。
強力なスキルだな。
「作るときに溶けないように念じておけば放っておいても溶けないし、何かの衝撃で壊れれば分かるようになってるわ」
「じゃあ、この里を囲む塀もアリシアさんが作ったんですか?」
「確か、美奈ちゃんと言ったわね?そうよ。ここは元々集落があったんだけど、私が氷で囲って住処にしたの」
その後も里についての話が続いた。
現在住んでいるのは元々ここに住んでいた人がほとんどだが、都会から逃げてきた人もいるらしい。シバさんなどがその一人だ。
「アリシアさんも都会から逃げてきたんですよね?」
「そうね、弟のマルクと一緒にゾンビを倒してレベルを上げながら移動して、この集落に辿り着いたの」
アリシアはマルクの姉だったらしい。
仕事の都合でもう8年ほど日本に住んでいるため、日本語も流暢だ。
この集落を見つけた時にはもう少しでゾンビに襲われるかという時で、氷支配を使って集落を救ったことで、ここのリーダー的なものをやっているそうだ。
「とは言っても、実際住民をまとめているのは私じゃないけどね」
アリシアはあくまで意見を出しているに過ぎないが、その意見を中心にこの里は動いているわけで、実質リーダーと言っても差し支えない。
集落からゾンビを追い払って安全圏を確保した後は、住民たちにレベルの存在を話し、護衛をつけつつゾンビを倒させたそうだ。
その結果、レベル3で皆何らかのスキルを覚えたらしい。
確か俺が空間把握を覚えたのも、レベル3だった気がする。
「そしたら、便利なスキルを覚えたひとがいたのよ」
大多数の人は、少し足が速くなったり、遠くのものが見えるようになったりするだけのスキルだったのだが、そんな中、有用なスキルを覚えた住人がいた。
それが「成長促進」だ。
「最初は、レベルが上がりやすくなるスキルだと思ったんだけどね」
確かに、俺も最初はそう思うかもしれない。
その人がスキルを覚えた次の日の朝、まだ栽培途中だった作物が全て収穫可能になっていたことで、植物の成長を促進するスキルなのだと気づいたらしい。
範囲はまだ不明だが、少なくとも集落全部は効果範囲に入るようだ。
「おかげで種を植えたら、次の日には収穫できるから、食糧は大丈夫ってわけ」
この状況ではこの上なく便利な能力だ。
戦闘には使えそうにないが食糧を安定して供給できるというのは強い。
雑草も一緒に伸びてしまうのが欠点らしいが、食糧の安定供給に比べれば、些細な問題だろう。
「あとは『隠密』ってスキルを覚えた人がいたから、里全体にかけてもらったわ」
それで、空間把握の反応がぼやけていたわけだな。
「どう?ここはゾンビも入ってこないし、食糧にだって余裕があるわ。この上なく安全な場所よ。二人が住むと言うのなら歓迎するわ」
確かに、氷の塀で守られてる上に空間把握でも捉えきれないような隠密スキルもかけられている。
さらに、食糧も豊富とくればこれ以上ない条件だ。
だが……
「どうして、そんなに俺たちをここに住ませたがるんだ?」
「親切心ということじゃ納得いただけないのかしら?」
確かにアリシアとは出会ったばかりだが、人が良さそうな印象を受けた。
ゾンビに襲われそうになっていた集落を救ったこともそうだし、何より見ず知らずの俺たちにここまで語ってくれた。
親切心もあるのは事実だろう。
だが、それだけではない。
何もかもが未知の状況で、住民たちのレベルを上げさせて有用そうなスキルを探すと言う選択を取り、見事に成功させた奴が親切心だけで住民を増やすはずがない。
俺はアリシアの目を真っ直ぐ見続けた。
しばらくして、根負けしたようにアリシアが口を開いた。
「もうゾンビが現れてから7日経つわ。それだけの間、ゾンビから生き残っていると言うことは、貴方達も何か強力なスキルを持っているのではないかしら?」
図星を突かれて一瞬面食らうが、どうにか表情には出さないようにする。
確かに、俺の『空間支配』は強力だ。
それこそ、『氷支配』やシバさんの体重操作だったり、明美さんの風を操る能力とは次元が違う。
絶対的な攻撃と防御、さらに機動力。
少なくとも戦闘に関しては負ける気がしない。
美奈のスキルはこれからが楽しみなスキルだ。
今は人のレベルを見ることしかできないが、俺のスキルのように進化して、人のステータスやスキルを見ることもできるようになるかもしれない。
「そのスキルを使って里のために協力してもらおうと言う打算があるのは否定しないわ。まあ、今すぐ結論が出ないと言うのなら少し考えてもいいから、今日はここに泊まって明日には結論を出してくれる?」
「分かった。少し考えさせてくれ」
「じゃあ、そういうことで。マルク」
ドアのすぐ外で待機していたマルクが入ってきた。
「話は終わったようだから、寝床に案内してやるよ」
そう言うマルクに俺と美奈は付いていく。
さっき種を植えていた畑を見るが、まだ芽すら出ていない。本当に明日の朝には収穫できるように育つのだろうか?
スキルとは不思議なものである。
「ほら、ここだよ」
かやぶき屋根の民家が二件並んでいる。
一方は俺で、もう一方は美奈のだろうか。
まぁ、当然だな。今までは何か近くで寝るような流れあったが、よく考えればそれは問題である。
「ありがとう」
マルクにお礼を言い、民家に入ろうとドアに手をかける。
「おい、君はこっちの家だよ」
マルクの声に振り向くと美奈が俺に着いて同じ家に入ろうとしていた。
「でも昨日までは清さんと……「転移!」」
美奈が爆弾発言をしそうだったので、慌てて民家の中に転移させて、ドアを空間隔絶で守る。
事情を説明すれば納得してもらえると思うが、話がややこしくなるから、美奈には黙っててもらおう。
「あれ?どこに行ったんだ?」
「多分、久しぶりの安全な寝床だから早く寝たかったんだろう。じゃあ、おやすみ!」
「お、おい!」
俺も逃げるように民家に駆け込む。もちろん、美奈を転移させたのとは別の民家だ。
勢いでおやすみなんて言ったが、まだ5時頃だな。
まぁ、いいや。久しぶりに寝床らしい寝床で寝られるんだから、美奈も早く寝たいはずだ。うん
久しぶりの投稿なので文章がおかしかったり、全話との繋がりがちゃんとなってるか不安ですが、ご容赦ください。




