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17話 ながれ流され里訪問

俺たちは現在、風に流されながら上空を飛行中だ。


最初はいきなり風が吹いて飛ばされて、どうなることかと思ったが。さすがはこの身体能力。

すぐに、体制を立て直すことができた。

まぁ、もともとバランス感覚が悪いわけではないしな。


残念ながら、美奈は自分でバランスを保てなかったらしく、おばあさんに支えられて飛んでいる。

というかこれ落ちたりしないよな?


「心配せんでも、わしの妻が風を調整してるから、落ちることはないのじゃよ」


俺の思考を読んだかのように、おじいさんが話しかけてきた。


「というか、夫婦だったんですか?」


「ああ。そういえば、お互いまだ名前を名乗っていなかったのじゃな。ワシは柴 龍神、一応シバさんと呼ばれているが、呼び捨てでも構わんよ。あっちで風を吹かせてるのが、ワシの妻で柴 暁美じゃ。よろしくな」


どうやら、シバさんが俺たちを軽くし、奥さんの方が風を吹かせることで飛んでいるらしい。


ていうか、この夫婦組んだら相当厄介じゃね?あのおじいさんに触れられたら最後、軽くされて風で吹っ飛ばされて終了だ。

戦うことがないように願おう。

まぁ、「空間隔絶」があれば触れられることはないし、風も効かないと思うが。


「俺は、神崎 清です。あっちで目を回してるのが大牧 美奈です。て言っても、俺も会ったのはゾンビが現れてからなんですけどね」


「なるほどな。まぁ、もう少しで里に着くから詳しい話は向こうでするとして、……」


「ところでさっきからちょくちょく出てくる『里』って何のことですか?」


「ああ、ワシらの住んでいるところを里と呼んでいるのじゃ。4日前ぐらいに生存者をまとめ上げて居住地区を作ったものがいてな。そこで生活しているんじゃよ」


「なるほど……」


ちなみに、ゾンビが現れたのは今日から数えてちょうど7日前。

居住地区を作るということは、安全圏を作るためにも、ゾンビを倒さなければならない。

誰か、強いスキル持ちでもいたのだろうか?


「まぁ、ワシは昨日里に合流したところじゃからな。どういう風に作られたのかは知らん」


ということはこの夫婦、それまでは自力で生き延びていたということだろうか?すごいな。

シバさんと明美さんには悪いが、二人は結構な歳に見える。少なくとも、70は超えているんじゃないか?


そんなことを考えている間にも、都会からどんどんと離れ少しずつ建物が減っていき、ついに山間部に入る。それにつれてゾンビの数も減っていき、山間部に入ってからは一匹も見当たらなくなった。


その時、俺の「空間把握」が何かを捉えた。

しかし、少し様子がおかしい。確かに「空間把握」の効果範囲のはずなのだが……。

輪郭がぼやけていて、正確な形が分からない場所がある。こんなことは初めてだ。


俺の視覚でその空間を見ても、ただただ森が続いているようにしか見えない。

だが、俺の「空間把握」はその場所の違和感を捉えているのだ。


俺が不思議に思って考えていると、シバさんが声をあげた。


「お、見えてきたな。あれじゃ」


シバさんが指差した方向を見る。

すると、さっきまでは森だったはずの場所でもあり、「空間把握」が違和感を捉えた場所に「里」が出現していた。


美奈にも同じ現象が起こったらしく、驚いているようだ。


そあちこちにポツポツと点在するかやぶき屋根の家。その間を縫うかのように作られた畑。苗などが所々に植えられている。

これは「里」と呼びたくなる気持ちもわかるぐらいまんま里だ。 もっとそれらしい言葉で表現するならば、「隠れ里」だろうか。


そんな中、一つイレギュラーなものがある。

「里」を厳重に囲う氷の塀だ。

上空からは正確な高さは分からないが、近くにある家よりはずっと高い。5メートルはありそうだ。


太陽の光を反射していてこちらからすると、かなり眩しい。さらに太陽が照っているにもかかわらず、まったく溶けた形跡が見られない。


さっき、金髪男がポケットから出した氷の玉。

ポケットに入れていたのなら、溶けてビショビショになっていてもおかしくはない。

さらに、この氷の塀。

どうやら、向こうに氷に関するスキルを持つ人がいるらしい。


「着いたわよ」


明美さんはそう言って、徐々に上昇気流を緩めていく。

そうして、地面に降ろされた俺たちはシバさんの手によって、体重を戻された。

再び普段通りの負荷がかかり、重力を新鮮に感じる。


「今、開けてもらうからね」


そして、明美さんがおもむろにポケットから取り出したのは、金髪男も持っていた氷玉。

それを地面に放ったかと思うと、次の瞬間それを思い切り踏みつけた。

当然氷は周りに散らばるが、ここは外なので問題ない。建物内で踏みつけた金髪男とは違うのだ。


どうやら、氷玉を割ることが一つの連絡手段なのか?だとしたら、一体どういう仕組みなのだろうか?

まぁ、100%なんかのスキルが絡んでいるのだとは思うが……。


そして、待つこと30秒ほど。

突然、氷塀の一部が溶けて人が一人通れるぐらいのスペースが出来た。


シバさんは俺たちに着いてこいと手招きし、中に入る。

シバさん、明美さん、金髪男……あ、まだ名前聞いてなかったな。その後に、美奈、俺と続いた。

そして、俺が通り終わるのを待ち構えていたかのように、そのスペースが氷で埋められる。


「では、あとは僕がやりますので、シバさん達はゆっくりお休みください」


「そうか?すまんな。ではあとは頼んだのじゃよ」


「いえいえ、迎えに来て頂いて助かりました」


金髪男はイケメンスマイルで、シバさんにそう言った後、俺らに向き直る。


「じゃあ、付いてきてくれ」


俺と美奈は黙って金髪男の後について行く。


俺たち一行が畑で種植えをしているおばさんの横を通り過ぎようと、顔を持ち上げて声をかけてきた。


「あら、マルク君。もう帰ってきてたのね。みんな心配していたのよ。さっきシバさんとこの夫婦が出て行ったから、もしかしたらと思ったけど。無事で良かったわ……」


こいつの名前、マルクっていうんだな。

まさかこんなとこで知ることになるとは。


「そう簡単にはやられませんって。だいぶ、戦うことにも慣れてきたんですし」


「ふふっ。たくましいのね。ところでそちらの子達は、新しい住人かしら?」


「ああ、ちょっと違うけどそんなもんです。彼らを見つけたので、一旦帰ってきたんですよ。またすぐに出発すると思います」


おい、俺らはここに住むなんて一言も言ってないんだが……。

というか、新しい住人が増えることを全く嫌がっていない様子だ。

食糧とかに余裕があるのだろうか?

そこまで畑も広くないようだし、そもそも今種植えをしている段階だ。備蓄食料が大量にあるのだろうか?


「あら、そうなの?くれぐれも危なくなったら帰ってくるのよ。みんな心配してるんだから」


「まぁ、危険そうだったらすぐに帰ってきますから。そう心配なさらずに」



その後も、畑や民家などを通り過ぎて行く。

時折、人とすれ違うがその度に金髪男……改めマルクは話しかけられている。人気なのだろうか?


世の中は大変なことになっているというのに、この里の中はまるで平和だ。

住民たちにも余裕が感じられ、少なくとも生きて行くのに精一杯というわけではなさそうだ。


そんな穏やかな会話を聞いているうちに当初の目的を忘れそうになる。

聞いた話から判断すると、ここに住みたいといえば住めそうな感じだ。

だが、当初の目的を忘れてはいけない。


俺は情報を手に入れるためここにきている。

決して入居するためではない。

情報を手に入れたら、再びここを出てゾンビについての手がかりを探しつつ移動する。

どうやら、この居住区にはまだ余裕があるようなので、生存者を見つけたら連れてくるぐらいのことはしてもいい。


と言うのは俺の都合だ。

美奈はここに住ませた方がいい気がしてきた。

おそらくここにいれば、当分安全に過ごせる。

そもそも、「里」の近くにはゾンビがほとんどいないし、周りは厳重に氷の檻で囲まれている。

さらにおそらく何かのスキルだろうが、ある一定距離まで近づかないと見えないようになっている。

名残惜しいが、そこは美奈が安全に過ごすとしたらここに住む方がいいだろう。

あとでお願いしてみるか?


「着いたぞ」


考え事をして歩いていると、マルクが俺たちに告げる。到着したようだ。

それは今まで何回も見てきた、普通のかやぶき屋根の家。

だがマルク曰く、この中にリーダーがいるらしい。

俺は、扉をゆっくりとスライドさせて中に入っていった。

次回は閑話となる予定です。

南校舎の話3の続きですので、時系列は少し遡ります。ご容赦ください。

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