16話 金髪男、迎えを呼ぶ
16話 金髪男、迎えを呼ぶ
どうやら、金髪男が目覚めたようだ。
気が付いた後、少しボーっとしてからキョロキョロと周りを見回すようにして、状況を飲み込んだらしい。
「俺をどうする気だ?」
「どうもこうも何もしないさ。俺は情報共有というか協力関係結びたいだけだ。敵対するつもりはない。まぁ、お前次第だけどな」
どうやら、意識ははっきりしているようだ。
金髪男は俺を睨みつけるように見てから、口を開く。
それにしても日本語に堪能なようで本当に良かった。
「こんなとこに閉じ込めておいて敵対しないってか。どうやってるのかは知らねえが、この透明の壁はお前のものなんだろう?」
金髪男の周りには空間隔絶の檻を展開している。
もちろん持っていた剣も没収済みだ。
「さぁな。というか、いきなり切り掛かってきたやつを、野放しにするわけにはいかんだろ」
「それについては悪いとは思っているが、こんな世界になっちまって俺も気が張っているんだ。いきなり、背後に来られるとつい反応してしまうのは仕方ないだろう?」
なるほど。確かに法もほぼ意味のないものとなった今、いきなり襲いかかられることもある。
そんな中、背後を取られるというのは想像以上の恐怖を感じるのだろうか。
少しはゾンビだらけの世界に慣れたかとは思ったが、まだまだ甘いところがあったのかもな。
「それもそうだな。じゃあ、この件については一旦お互い水に流すということでいいか?」
協力関係を結ぶ以上、こういう軋轢は邪魔になるからな。
「ああ。仕方ないな。ところで、情報共有とか言っていたがどういうことだ?」
「もちろんゾンビについてだ。まだまだわからないことが多すぎる。あとは、ステータスのシステムについてだな」
「なるほど。俺たちも、似たような疑問を抱えている。とりあえず、この拘束を解いてくれないか?落ち着いて話もできやしない」
「あ、悪かったな」
そういって、俺は檻を解除する。
いざとなれば「空間隔絶」で守れるし、大丈夫だろう。
「話をするなら場所を変えよう。俺たちが住んでいるところがある。そこに行こう」
「俺たち?」
「ああ、助かった人たちで集まって住んでいるところがあるんだ。そういうことなら、俺と話すよりそこにいるリーダーと話したほうがいい」
「なるほど、だが俺たち部外者を連れて行ってもいいのか?」
会ったばかりの俺たちを、自分たちの生活圏に、そう簡単に入れるものか?、と思ったが。
「そもそも俺が出てきたのは、この都会の様子を見るためと、生きている人がいたら連れてくるためだからな。それにうちのリーダーは、俺とは比べものにならないくらい強いし、他にも手練れはたくさんいる。部外者2人入れたところでどうにもならんさ」
俺たち2人が暴れたところで、制圧できる自信があるってことか。
まぁ、俺はそんな気はないがもう少し警戒したほうがいいのではないか?
正直、「空間隔絶」で守りつつ、「絶対切断」で切っていくスタイルは、どれだけ人数がいても負ける気がしない。
まぁ、俺は暴れる気はないからいいんだが。
「なるほど、じゃあ案内を頼めるか?」
「よし、分かった」
金髪男が、……ってそういえばまだこいつの名前聞いてなかったな。
まぁ、いいかこいつの住処とやらについてから聞くとしよう。
金髪男はズボンのポケットから、ピンポン球ほどの大きさの小さな球体を取り出した。
透き通っていて朝日を反射して輝くそれは、とても綺麗だ。
水晶だろうか?
「なんだそれは?」
「まぁ、見てりゃわかるさ」
金髪男はそう言って、その水晶のようなものを床に放り、思い切り足で踏んづける。
レベル5の脚力で踏んづけられたそれは、バリッという音ともに割れて、床に散らばる。
散らばった破片が少しずつとけて、床を濡らした。
「もしかして氷だったのか?」
「ああ、そうだ。迎えが来るから、少し待っててくれ」
「ところで……」
「ん、どうした?」
「床を濡らされては困るんだが?」
「えっ?」
「ここは俺たちの住処だぞ」
「あっ……」
破片は方々に散らばり、どんどんと溶け出して、それぞれの場所で小さな水溜りを形成している。
もしかするとスキルが絡んでいるのか?
氷の玉はピンポン球ぐらいの大きさだったはずなのに、考えられないくらいの水が溶け出している。
「拭け」
俺は、そいつの頭上に雑巾を転移させた。
☆☆☆
「ところで迎えは、あとどれくらいで来るんでしょうね?」
「さぁな、あいつはあと5分ぐらいで来ると言っていたが……」
金髪男は、あちこちに出来た水溜りを雑巾で拭いてまわり、外で絞ってくるという作業を繰り返している。
「こいつが拭き終わるのと、どっちが早いのやら」
「本当に手伝わなくてもいいんでしょうか?」
「いいだろ別に。あいつが場所考えずに氷割ったせいだ。自業自得だろ」
まぁ、強化された身体能力のおかげで、掃除ぐらいではあまり疲れないようになったからな。
本当は奥にモップがあったことは秘密だ。
さてと、本当に迎えが来るのか半信半疑だったのだが、たった今、俺の「空間把握」が高速で飛行する2人組を捉えた。
いったいどんなスキルなのやら。
あのスピードならば、じきに着くだろう。
「あれ?清さん、この音は何でしょう?」
「ああ、どうやら迎えが来たようだな」
それにしても、もう着くというのにスピードを落とす気配がない。このままだと通り過ぎてしまうんじゃなかろうか。
「うわ!すごい風……」
その時、掃除のために開けていたドアから、大型台風並みの風が入り込んできた。
事務所に積んであった書類が宙を舞った。
まぁ、すぐに「転移」で元に戻し、「空間隔絶」で抑えたが。
金髪男は外に降り立った2人に近づく。
1人は、地味な服を着込んだたれ目のおばさんだ。
中年太りをしているわけでもなく、上品な印象を受ける。昔は美人だったのだろうか。
もう1人は、柔道着を着たおじいさん。
精悍な顔つきで、道着の隙間から洗練されて引き締まった身体が見え隠れしている。
武闘家なのだろうか?
だとしたら滅茶苦茶強そうだ。
金髪男はその2人に話しかける。
「ありがとうございます。本当に連絡が行くかどうか半信半疑でしたが、うまくいったようですね」
半信半疑だったのかよ!?
「うまくいったようならなによりじゃな。それより、今回呼んだのはそちらの2人さんのことか?」
「少し情報交換がしたいらしいので、里に連れて行こうかと」
「ならすぐに出発しよう。そこの2人、こっちに来てくれんか」
言われるがまま、俺たちも外に出る。
「ちと、この能力は面倒でな。触れている相手にしか使えないのじゃ」
そして、おじいさんは俺の肩、美奈の肩と順番に触れていく。
「いったい何を……、おわ!?」
したんですか?と言おうとして、急に俺たちの周りに上昇気流が発生した。
しかし、たかが風、どうにかなるわけではないと思っていたが。
「浮いてる?」
俺たちは上昇気流に乗せられて、凧の如く浮き上がっていた。
このぐらいの風で人が浮きあがるはずがない。
「わしの能力で、お前さんらの重さを軽くしたのじゃ」
「じゃあ、飛ばすわね」
おばさんがそう言って、手を振り上げる。
そして、突風が吹き荒れる。
普通の人でも吹き飛ばされそうな強い風。
俺たちはなす術もなく、飛ばされていった。
段落の字下げを忘れてました。申し訳ないです……
2016.10.4
《さて、今のところ金髪男に知られてる能力は「転移」だけだ。》
この辺りを削除しました。
すいません…。「空間隔絶」の檻も使ってましたね。矛盾していたようです。




