15話 レベル持ちは向こうからやってくる
久しぶりの投稿です。遅くなり申し訳ありません。
そして久しぶりの本編です。
一応ここからは、第2章という感じなのでお付き合いいただければと思います。
(ひどいな……)
彼はそう呟いた。
それは、ビルは倒壊し人の気配もしないかつての都に対する嘆きか。
あるいは、ゾンビだらけになってしまったこの世界に対してか。
(だが、ここで終わっているのか……)
彼はその境界線に立つ。
右は、無残にも破壊された建物が目立つ。だが、左は右ほども破壊は進んでおらず、元の都の原型をとどめている。
(おそらく、意図的な破壊だろうな。ここで破壊が終わっているということは、そいつが破壊を止めたか……、あるいは死んだか……)
そもそも、破壊したやつは誰なのか。人間なのかゾンビなのか。
(人間だなんて思いたくもないな……)
この世界にゾンビが溢れてから、一週間。
残念だが、そういう人間もいることを嫌という程知らしめられてきた。
(この調子じゃこっちに生き残りはいなさそうだ……)
そう思った彼は、破壊がそれほど進んでいない左に進んでいく。
進んでいくと、彼はあることに気づく。
(ゾンビが少ない……?)
そして、彼が驚いたのはそこだけではない。
(武器ゾンビがいない……)
そりゃ、清が武器を集めるためにほとんど狩り尽くしてしまったからなのだが。
そんなことを知らない彼は、細心の注意を払いつつ進んでいく。
彼がたまに襲ってくるゾンビを切りつけながら、10分ぐらい歩いた頃だろうか。
(これは人の気配……!)
彼のスキルが人の気配を察知した。
どうやら生き残りがいたようだ、と喜ぶが彼は先程の光景を思い出す。
(あれをやったのは、この先にいるやつかもしれない。まずは、様子を見るか……)
彼はそう思い、人の気配がする建物に近づく。
彼のスキルは2人の気配を感じ取っている。
腰の剣をいつでも抜けるようにして、窓からそっと中の様子を覗く。
(ん……?)
不意に中の気配が一つ消えた、と思った瞬間。
「おい……何をしている?」
不意に真後ろから向けられた殺気。
(嘘だろ……?さっきまでそこには何の気配もなかったはず……)
彼はそう思いつつ、向けられた殺気につい反応して腰の剣を抜き、頭に振り下ろしてしまう。
この一週間で何百、何千とおこなったその行動が咄嗟に出てしまったのだ。
(やばい……。これ殺しちまう)
彼の目の前の男は、まだ何も悪いことをしていない。
彼は後ろから話しかけられただけなのだ。
彼が剣を止めようとするも、時すでに遅し。彼は思わず目を瞑る。
(あれ……?)
しかし、手に伝わった感触はまるで金属を切ろうとしたかのようなものだった。
彼は、それに驚き目を開ける。
彼が思い切り振り下ろしたはずの剣は、男の人差し指と中指に挟むようにして受け止められていた。
「まさか、いきなり切り掛かってくるとはな。覚悟はできてるよな?」
(嘘だろ、剣を素手なんて……)
そんな思考をしている最中、気づけば男の拳は彼の顔の目前まで迫っていた。
レベルアップによって強化されたその拳は、彼の意識を容易に刈り取った。
☆☆☆
それは俺がいつもの如く、朝食の乾パンを食べている時だった。
いい加減非常食も飽きてきたんだが……。
それ以外の食べ物といえば、賞味期限切れだったり、腐っていたりするから食べられるものは中々見つからない。
まぁとにかく、そうやっていつもの朝食を摂っていた時だ。
俺の半径5kmの探知範囲に誰かが入ってきた。
時折、出会ったゾンビと戦ったりしているので、おそらく人間だと思われる。
ふむ、得物は剣か。
それにしても、ゾンビを相手に怖がる様子もなく、頭を切りつけて倒している。
だいぶ戦い慣れしているな。そして、間違いなくレベルアップの恩恵を受けているであろう動きだ。
まぁ、どんなやつか分からないし様子を見るか。
俺は、床とそいつの上空の空間を繋いだ。
「美奈、そこにいるやつ見えるか」
「えっ、なんで床に穴が!? あ、そういえば清さんはなんでもありでしたね」
「その納得の仕方はどうかと思うが……。まぁ、そこにいるやつを鑑定してみてくれ」
俺は床に見えている男を指差して言う。
空間把握では、色が見えない。ただどんな形のものがあるかが分かるだけだ。
だから、その男を見たのはこれが初めてだ。
まぁ、顔の作りは空間把握でも分かるのである程度想像はついていたが。
どうやら純粋な日本人ではないみたいで、髪は染めたとは思えない自然な金髪をしている。
ハーフか外国人なのだろう。
「清さん、どうやらレベル5らしいです」
「そうか。やはりレベル持ちか」
5なら美奈よりは低いな。
だけど、スキルがなんなのかはわからない以上、油断するべきじゃないだろう。
「悪い奴じゃないといいんだが」
「どうなんでしょうね?見た感じ外国人ぽいですけど」
まさか日本語通じないとかないよな。
俺は英語なんてあまり話せないから、その場合本格的に困る。
「まぁ、とりあえずもう少し様子を見るか」
「そうですね」
そう言って俺たちは朝食を再開する。
ふとした瞬間に男が上を見たら、床の穴に気付かれる恐れがあるので消しておいた。
味気ない乾パンを食べながら、あの金髪男について思いを巡らす。
まずは、友好的に情報の共有を行いたいところだ。
もし戦いになってもレベル5ならば、勝てるだろう。
そんなことを考えていると、金髪男の方に動きがあった。
完全に俺たちのいる建物の方向を見て、どんどん近づいてくる。
どうしようか?
でも向こうから来るのなら、とりあえず様子を見るか。
「美奈、あの金髪男が近づいてきた。とりあえず、いつも通りにしていてくれ」
「金髪男って……。とりあえず普通に朝食たべとけばいいんですよね?」
「ああ、それでいい」
それにしてもどうやら、金髪男の目的は俺たちのいる建物で間違いないようだ。
おそらく、俺と同じように周囲の状況を知ることのできるスキルでもあるのだろう。
ちょっと待てよ、それだとヤバくないか?
もし金髪男のスキルも「空間支配」なら、もし、「絶対切断」みたいなものを使われたら。
防ぎようがない。
いつの間にか、金髪男は建物前にたどり着いて中を覗こうとしている。
これは、先に仕掛けていくしかないだろう。
美奈を空間隔絶で守り、俺は金髪男の背後に転移する。
「おい……何をしている?」
まずは、話しかけてみる。
すると、男は驚いたように振り返り腰の剣に手をかける。
そして、俺の頭に振り下ろしてきた。
というか、いきなり襲ってくるんだな。
どういうつもりなのか。
だが、咄嗟に手にかけたのが剣だということは、少なくとも「絶対切断」などは使えないはず。
俺は、手を「空間隔絶」で覆って剣を受け止める。
美奈を助けた時にも使った方法だ。
端からは剣を素手で受け止めたかのように見えるだろう。
さて、いきなり切り掛かってくるとはどういうことなのだろうか。
「まさか、いきなり切り掛かってくるとはな。覚悟はできてるよな?」
金髪男は俺に剣を受け止められたことに驚いている。
まぁ、殺すつもりはない。いろいろ聞きたいこともある。
俺が受け止めた剣には、大した力はこもってなかった。
なぜそう言えるかというと、「空間把握」で相手の筋肉の動きを見ていたのだ。
剣を振り下ろすだけの動作に、不要な力が入っていた。
おそらく、切る直前で剣を止めようとしたのだろう。
ということで、気絶させるだけにしておこう。
俺は一気に間合いまで踏み込み、金髪男のイケメンフェイスに拳を叩き込んだ。
拳は、顔にめり込み男は宙を舞った。
そして、何メートルか先の地面に叩きつけられたが、動く気配はない。
どうやら意識はないようだ。
ていうかこれ死んでないよね?
もちろん加減はしたが、もし骨が折れたぐらいであれば、レベル5だし寝れば治るだろう。
俺は、金髪男の近くまで歩き顔を覗き込む。
まぁ、俺に殴られたことで少し腫れているが。
その優しげな瞳と整った鼻や口は、どこからどうみてもイケメンだ。
さぞ、モテることだろう、ちくしょ〜。
ともかく、とりあえず建物の中に入れるか。
俺は「転移」使って、金髪男とともに中に入る。
「清さん、急に消えてどこ行ってたんですか?ていうか、その男の人さっき見た人じゃないですか」
急に現れた俺と金髪男に驚いた美奈が聞いてきた。
「ああ、窓から覗こうとしていたから声をかけたらいきなり切り掛かってきてな。とにかく、目が覚めたら尋問開始だな」
「尋問って……。あまりひどいことはしないでくださいね?」
「まぁ、それは返答次第だな。とにかく、この男の目が覚めるまで待ってるしかないな」
俺はそう言って、男を空間隔絶の檻に閉じ込める。
せっかく片付けて綺麗にした事務所で暴れられては困るからな。
まぁ、不要なものは適当に外に飛ばしだけなんだが。
さて、これからのことを考えるか。
俺たちと同じようにレベルを上げて限界を超えた存在……、レベル持ちとでも呼ぼうか。
レベル持ちということは、すなわちレベル上げのために積極的に外に出ている可能性が高い。
なぜなら一旦レベルが上がって仕舞えば、身体能力が上がり、レベル1のゾンビぐらいなら楽に倒せるからだ。
こんな世界になってしまった以上、レベルのことを知ればレベルを上げておきたいと思うのは当然だろう。
それもこれも、ゾンビへの恐怖心や殺すことへの拒否感を克服できればの話だが……。
とにかく、積極的に外に出ているレベル持ちとの情報共有がしたいわけだ。
無論、俺のスキルのことなどは隠させてもらうが……。
まぁ、そういうことでこれからレベル持ちを探そうかと思っていたのだが……。
まさか向こうからやってきてくれるとは。
ちょうど、美奈の特訓も終わったところだし、運命かもしれないな。
「清さん。この人、目が覚めたみたいです」
おう、いろいろ考えていたら思いの外時間が過ぎたらしい。
さて、尋問を始めるとするか。




