閑話 南校舎の話2
「さて、みんなもわかってると思うけど。僕たちの持ってきた非常食はこの昼食で最後だ。二日前に話したこと……皆、よく考えてくれたと思う」
八岩先生は意を決したようにそれに続けた。
「ゾンビと戦うという奴は、俺についてこい!下の教室で作戦会議を行う。戦わない奴は、3階で待機だ」
「ついてこないからといって、見捨てるなんてことはしないから、本当に戦う覚悟が出来た子だけついてきて」
先生たちはそういうと、教室を出て階段を下り始めた。
もちろん俺の答えは決まっている。
「幹也、いくぞ!」
「うん!」
迷わず先生の後に続き、階段を下りる。
八岩先生はどんどん階段を下りていく。
臼井先生の方はついてくる生徒が気になるらしく、後ろをチラチラと見てくる。
まあ、何人ついて来ようが関係ない。
清は一人で戦ったんだから。
☆☆☆
「さて、戦うという奴はこれで全員か?」
2階の、階段を降りてすぐの教室に集まった人たちを見て、八岩先生が言った。
改めて俺も教室を見回す。
全部で集まった生徒は4人だけ。14人中4人だ。
俺と幹也以外の二人は、校章を見るに高1の男子。
まあ、俺たちと先生の4人だけっていうよりマシだ。
「一応、今の状況を言わせてもらうよ」
臼井先生はそう言って、一度咳払いをする。
「体育館から校舎に逃げてきた際、この学校の生徒からも多くの被害が出た。その証拠に窓の外をうろつくゾンビは、ほとんどが制服を着ている」
八岩先生がそれに続ける。
「つまり、相手取るゾンビのほとんどは元生徒。友達だったやつを相手にすることもあるだろ。そんな時にお前らは、躊躇せずに戦えるか?」
「無理だというのなら、今からでも遅くはない。3階に戻って欲しい」
そんな言葉で戻るようならここには来ていない。
他の3人も同じ考えのようで動く気配はない。
数十秒ほどの沈黙。それを破り、八岩先生が口を開いた。
「お前らの決断には感謝する」
「じゃあ、作戦会議といこうか」
臼井先生はそう言って、前の黒板に書き始めた。
「まずは、今ゾンビについて分かってることを整理しようか」
ゾンビ。
特徴としては、人間の形をしているが肌は緑色。彷徨っているが、人間を見つけると噛みつきにくる。
噛まれると肌が変色し始めて、染まり終わるまでの個人差はあるが、染まり切るとその人もゾンビになる。
痛みを感じない。
人間なら致命傷になるケガでもピンピンしている。
みんなで分かっている情報を出し合った結果、出たのはこれくらいだ。
「問題はどうやって倒すかだな」
腕を組んで唸っている八岩先生に、
高1の男子の片割れが口を開いた。
「人間だったら即死するようなところを、狙うしかないんじゃないでしょうか?」
「即死ってことは、頭か心臓かな」
今、臼井先生言ったことは、半分正解で半分間違いだ。
清曰く、心臓を突き刺してもゾンビは何ともなかったそうだ。
これはうまく頭を狙うよう誘導しないとな。
「心臓を狙ってもし何ともなかった場合、リスクが大きすぎます。頭を狙えば倒せなかったとしても、感覚器官を奪うことが出来るので、狙うなら頭じゃないでしょうか?」
「まあ、和の言うとおり頭を狙った方が確実かもしれんな」
心臓を狙うには何かを突き刺すしかないが、頭を狙うなら鈍器という選択肢もある。
「とりあえず、ゾンビを倒すときは頭を狙ってみることにしよう。みんなもそれでいいね?」
生徒たちは俺も含め、うんうんとうなづく。
とりあえず、頭を狙う方向に固まったようなので良しとする。
「次は、武器についてだね」
「お前らは剣道部員だったよな?竹刀は持ってないのか?」
八岩先生が一年男子を指差して尋ねた。
こいつら剣道部員だったのか。
だから、戦うということに志願できたのかもしれないな。
いや、関係ないか。競技と殺し合いは全然違うだろうし。
「あ、俺たちの教室に置いてあります」
「ならお前らは竹刀を使え。慣れてるものの方がいいだろう」
「鍵を渡すから取りに行ってきて」
一年は返事をし、マスターキーを受け取ると竹刀を取りに行った。
幸いにして、二人の教室はこの南校舎の二階にあるようだ。
さて、問題は俺たちの武器をどうするかだ。
清のように箒を折って槍みたいにしてもいいんだがな。
「とりあえず、さっきこの教室の荷物を探したら、金属バットが二本出てきた。使わせてもらおう」
そう言って臼井先生は、金属バットを二本取り出した。
「ということは、あと二つ武器があればいいわけだな。他の教室も探してみるか」
☆☆☆
というわけで今、俺と幹也そして八岩先生で教室をまわっているところだ。
テニスラケットは結構見つかるのだが、武器としては微妙だ。
金属バットは残念ながら、あの二本以外に見つかっていない。
出来ればある程度長いものの方がいい。
あまりゾンビに近づきたくないし、向こうの攻撃は食らった時点で負けだ。
やはり清の考えた箒槍は、武器として優秀なのかもしれない。
もし武器になりそうなものが見つからなければ、先生に提案しようと思う。
さて、いろいろまわってきたが、最後は俺たちのホームルーム教室だ。
ちなみに、清の使っていた箒槍はゴミ箱に隠した。
とはいえ、他で特に武器になりそうなものがないことはこの二日で分かっている。
やはり、箒槍を提案するしかないようだな。
「これで最後の教室か。なかなか見つからないな」
「先生、箒ならどうでしょう?」
「箒?確かにある程度のリーチはあるが……。それで殴ったところでゾンビには効かないだろう」
「先を折ってカッターで尖らせて、槍みたいに出来ないですかね。」
「なるほどな……」
俺の意見について考えているのだろう。
腕を組み、下を向いて唸っている。
八岩先生が何かを考えるときの癖だ。
そして、顔を上げて
「他に武器になりそうなものも無いし、それで行くか」
俺たちは掃除用具入れから箒を二本取り出した。
「じゃあ、戻るぞ。多分あいつらも戻ってきているだろう」
そう言って、八岩先生は教室を出た。
「あ、そうだ」
俺はゴミ箱から清の使っていた箒槍を取り出した。
清のいた証拠を残さないために、ゴミ箱に隠しておいたのだ。
そして、柄の端っこ少し折ってポケットに入れた。
そうしたのは何となくだが、脱出に成功した清の使っていたものだから、お守り代わりにはなるんじゃないだろうか?
「和、何してるの〜?早く行くよ」
「ああ、今行く」
幹也が待っていたので、俺も急いで教室を出た。
俺たちが戻ると、高1男子は竹刀で素振りをしていた。
頭上から振り下ろされた竹刀が、風を切り、床ギリギリでピタッと止められる。
剣道部なので当たり前だが、とても様になっていた。
「あ、帰ってきたね。いい武器は見つかったかい?」
「ああ、武器になりそうなもんが見つからなかったから、箒を槍に改造しようと思うんだが」
「なるほどね……」
臼井先生は少し思案するように俯いた。
「とりあえず、誰がどの武器を使うか決めないとね。剣道部の二人は竹刀で決定だけど、あとの四人の武器配分をどうするか……」
金属バットが二本、そしてまだ作っていないが箒槍が二本。
武器はこの四つで決定だろう。
これらを俺と幹也と先生二人で分けなければならない。
さて、どう分けたものか。
金属バットは箒に比べ、リーチは短い。
さらに先端で攻撃する箒槍とは違い、側面で殴るバットはゾンビにより近づいて戦う必要がある。
箒槍の方は、リーチが長めでゾンビの間合いの外からの攻撃が可能だ。
だが、清が言うには目を狙わないと脳を貫くことは難しいらしい。
リーチは短いが当てやすい金属バット。
リーチは長いが当てにくい箒槍。
俺がいろいろ考えていると、臼井先生が口を開いた。
「金属バットの威力は振る力に左右されるから、比較的力のある人向けだね」
「だったら、俺と和が使うか。俺は体育教師だし、和も運動部だろう。ある程度の筋力はあるはずだ」
俺は、サッカー部だから腕の筋肉があるとは限らないんだが……。
まあ帰宅部の幹也より筋肉はあるだろう。
「それでいいですよ」
「僕も、それで構わない。さて、早速槍を作らないと」
それもそうだ。
できるだけ、お腹が空かないうちに戦った方がいい。
俺たちは、生徒の筆箱から回収したカッターを取り出し、槍を作り始めた。




