12話 武器
朝、目が覚めると隣で寝ていたはずの清さんがいなかった。
周りを探したが、手紙のようなものはない。
今度こそ見捨てられたのだろうか。
昨日はあんなことを言ってくれたけど、本当は足手まといに思われていたのかもしれない。
清さんは何でもできる。
私を最初に助けてくれた時もそうだ。
私が偶然逃げ込めた廃墟には食糧がなかったし、外に取りに行く勇気もなかった。
運良くゾンビを倒せたおかげで、レベルアップすることができたものの、それでも槍ゾンビに追い回される羽目になってしまった。
そんな時、助けてくれたのが清さんだ。
颯爽と現れて、槍ゾンビを倒した清さんはすごくカッコ良かった。
黒装束を着たゾンビが襲ってきた時もそうだ。
鑑定の情報があったから油断せず勝てた、と言ってくれているが鑑定の情報が無くても勝っていただろう。
今食べている食糧も、清さんがどこかで探して取ってきてくれたものだ。
結局、全部清さんに助けられている。
私は何の役にも立っていないのだ。
これじゃあ、見捨てられても仕方ない。
だから、清さんがいなくなるのも当然だ。
そう自分に言い聞かせ、朝食を食べる。
ダメだ……。
やっぱり心細い。
「ただいま〜」
聞き覚えのある能天気な声を聞いた私は、急いで振り返る。
それが清さんだとわかると、思わず抱きついていた。
☆☆☆
今日もいつもと同じ時間に目が覚める。
もちろん、学校へ行くのに起きていた時間だ。
こんな状況になっても、体に刻み込まれた目覚まし時計は問題無く機能しているようだ。
隣の美奈はまだ寝ている。
相変わらずうなされているが。
今日やることは美奈の特訓だ。
できれば、2日目に戦った斧ゾンビぐらいは一人で倒せるようになってもらいたい。
美奈は俺みたいに攻撃に使えるスキルではないので、武器も探す必要がある。
美奈のレベリングに合わせて、レベルアップについての検証もしたい。
突然に現れたこのステータスのシステムには、まだまだ謎が多いのだ。
ともかく、美奈が起きる前に武器を探しておきたい。
どんな武器がいいだろうか。
遠距離武器だと、銃や弓などが思い浮かぶがあまり得策ではないだろう。
銃弾や矢を安定して手に入れられない以上、弾数に限りがあるというのは痛い。
それに、これらの武器はレベルアップによって上がった身体能力を生かしにくい。
そうなると近距離武器か。
ゾンビに近づいて戦うというのは、なかなか難しいものだ。
目の前に明確な殺意があると、最初のうちは戦いづらい。
ましてや美奈は女の子だ。
だが、ずっと俺が守れるとも限らない。
これから生きていく上で、最低限の力は身につけてもらいたい。
さて、近距離武器ならどんなものがいいのだろうか。
そこらへんは美奈に聞いて決めた方がいいな。
とりあえず、出来るだけ多くの種類の武器を調達して、選んでもらうことにしよう。
☆☆☆
というわけで、今俺がいるのは新しい住処から10kmほど離れた場所だ。
二回転移したから、間違っていないと思う、多分。
お目当のゾンビがいたので倒す。
これくらいのゾンビならば、空間支配に頼らずとも殺せる。
そのゾンビとはもちろん武器ゾンビのことだ。
俺の考察ではある一定レベルに達したゾンビはほとんどが武器を持っている。
どこから入手しているのかは知らないが。
例外として、レベルが高そうでも拳で戦っている奴もいた。
生前は格闘家か何かだったのかもしれない。
とにかく、今のゾンビで三つ目だ。
今、揃っているのは槍、剣、鎌だ。
剣はシンプルなロングソードといったところか。
普通の人なら片手で振り回すのは難しいかもしれないが美奈はレベル3、十分に人外だ。
問題はないだろう。
鎌は、草を刈るために使われるような小さな鎌ではなく、サイスのようなものだ。
大鎌と言った方がいいかもしれない。
今集まっているのはそんなところだ。
武器を一旦、住処に置いてからまた武器ゾンビを探す。
日を追うごとに確実に数が増えている。
海外でも同じことが起こっているならば、そのうち海を渡ってえげつないゾンビがくる可能性もある。
ともかく、今はそんなことを考えてもしょうがない。
その後、ひたすら武器ゾンビから武器を奪い続ける。
こうして集まった武器を、事務所の前に並べて見てみた。
剣が一番多い。
逆に、1日目に遭遇した斧なんかはだいぶレアらしく、これだけ探しても見つからなかった。
さて、この中に美奈の気にいる武器はあるだろうか?
まぁ、聞いてみないと分からないな。
俺は、並べてあった武器と一緒に事務所の中に「転移」した。
「ただいま〜」
それと同時に、腹に衝撃を感じる。
強化された身体能力のおかげで吹っ飛ばされず済んだが、普通の人なら無事では済まないだろう。
ていうか俺、美奈に抱きつかれているのか。
まぁ、悪い気はしない。
でも、いきなりどうしたのだろうか?
「朝起きたら、清さんがいなくて不安で不安で。わたしを置いてどっか行ったんだと思っちゃったじゃないですか!」
昨日、あれほど言ったはずなのにうまく伝わってなかったらしい。
まぁ、俺がいなくなったらまた一人になってしまうし、不安なんだろう。
「昨日も言ったけど、美奈を見捨てる気なんてないから安心しろ」
そう言いつつ、俺は手を美奈の頭の上にポンと乗せて、優しく撫でてやる。
美奈は気持ちよさそうにしていたが、しばらく
経って我に帰ったのか、急に飛び上がって顔を赤らめた。
「あ……その、急に抱きついたりしてごめんなさい……」
別に構わない。むしろご褒美だと思う。
とりあえず、美奈はいつの間にか起きていて先に朝食を食べていたらしい。
その途中で俺が帰ってきたわけか。
「とりあえず、朝食を先に済ましてしまおう」
「はいぃっ……」
まだ、顔が赤い。
こりゃ、復活するまで時間が掛かりそうだな。
朝食が終わり、美奈も復活した。
俺は、ゾンビから奪った武器を床に置いていく。
「さぁ、好きなものを選んでくれ」
だいぶ離れたところまで探しに行ったおかげか、随分と多くの種類の武器を集めることができた。
もう、小さい武器屋なんかを開けるレベルだ。
美奈が武器を物色していく。
多すぎる武器にどれを選んでいいのかわからなくなっているようだ。
「これにします」
ん?
どうやら、気になる武器が見つかったらしい。
少し借りて見てみると、どうやら剣らしい。
といっても普通の剣というわけではなく、剣身はとても細く先が尖っている。
細剣?刃が付いているわけではない。
完全に突くことに特化した武器のようだ。
いわゆるレイピアというやつか。
持ち手は、独特の形をしているがうまく手になじむように作られている。
まぁ、あまり重い剣も使いにくいだろう。
「よし、武器も決まったことだし早速レベルを上げに行くぞ」




