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8話 帰還

 何か、すごく悲しい夢を見た気がするけど、内容はよく思い出せないな。

 目が覚めると、毛布が少し重い気がした。

 まだ、光に慣れていない目をこすりながら、隣のソファに目をやる。

 あれ、神崎さんがいない。

 もしかしたら、早起きして外に朝ごはんを取りに行ったのかも。


「さてと」


 私は立ち上がって、隅に避けてあった机を寄せる。


「なんだろう?これ」


 机には、コピー用紙がたたんで置いてあった。

 開くと、神崎さんからの手紙のようだ。


『突然いなくなってごめんな。ちょっと、親友の様子を見に行ってくる。いつ戻るかはわからない。

 PS. これから周りのゾンビがもっと強くなると思う。怖いと思うが、美奈もゾンビと戦ってレベルを上げておいてくれ。』


 神崎さんいなくなっちゃったのか……

 よし!

 寂しいけど、親友のためなら仕方ないよね。

 それより、私も神崎さんみたいにレベルを上げないと。



 ☆☆☆


「ハァ〜…………」


 美奈は大丈夫かな。


 正直、まだ中学生の女の子を一人にするのは気が引けた。

 ましてやこの状況だ。


(なんか嫌な予感がするんだよな……)


 もう、ゾンビが現れてから4日目だ。

 そう4日目。日本でいうと4は縁起の悪い数字だ。

「4」が「死」を連想させるからだ。

 まぁ、俺はそんなことは信じちゃいないが、何が起こってもおかしくはないのがこの世界だ。


「空間把握」の範囲は、転移の繰り返しで半径約5kmまで広がった。

 行きとは違い捜索なしで行くので、一時間ほどで着くはずだ。

 まぁ、転移しながら「空間把握」の範囲に入った、ちょっと強いゾンビを「絶対切断」で殺したりしているので、もう少しかかるのだが。

 たぶん、あと10分ぐらいだ。


 とりあえず、今回の遠征ではレベルアップ済みの人を一人見つけることができた。

 美奈は悪い人ではなかったが、もし力を得て、悪いことをする奴が出てきたら厄介だ。

 ステータスのことを広めるのは最低限にしよう。

 今の世界に法など通用しない。


 道中では、前より、武器を持ったゾンビに頻繁に出会う。

 出会うと言っても、「空間把握」の範囲に入ったら即、殺しているので、直接出会うことはないのだが。

 やはり日を追うごとに、ゾンビがレベルアップを果たしてきている。

 そうした、ゾンビを殺しているのだが、レベルは一向に上がらない。

 レベルが高くなるほど、必要経験値が高くなるのか、武器ゾンビごときではもうレベルアップしないのか。

 まぁ、最悪勝てないゾンビが出てきても、「転移」で逃げればいいから強くなる必要はあまりないのだが……


 ちょうど、半分ぐらいきたところで無人のスーパーを見つけたので朝食をとる。

 美奈が起きる前に出てきたかったので、まだ食べていなかったのだ。

 避難民がいるスーパーやコンビニは、ちょくちょく見かけるが、そこから食べ物をもらうのは、さすがに申し訳ない。


 腹ごしらえも終わったことだし、すぐに出発する。

 黙々と「転移」を繰り返す。

 ここ最近「空間把握」の伸びが悪くなってきた。

 範囲は5kmが上限なのか。

 まぁ、5kmでも十分なのだが、成長がないということは、俺の楽しみが一つ減るということでもある。

 成長といえば、転移の時にいちいち目的地に通じた穴を通るのがめんどくさいので、俺のいる空間と目的地の空間を入れ替えることでも、転移に成功した。

 これなら、戦闘でも「転移」を使えそうだ。


(そろそろかな)


 見慣れた風景になってきた。

 学校までもうすぐだろう。

 そのあと数度転移を繰り返し学校に着く。


「空間把握」を使い、体育館の様子を伺う。


(!?)


 体育館を「空間把握」で見ると、あの鋼鉄のドアが全て開け放たれていて、体育館の中にはゾンビが何体かさまよっている。

 どうやら、生徒たちは北校舎と南校舎に分かれて避難したらしい。

 南校舎に、親友たちが避難していることを知り安堵する。


 どうやら南校舎は、防火扉で一階を隔離できたらしく、とりあえず二、三階は安全なようだ。

 しかし、北校舎は一階の隔離が間に合わなかったらしく、生徒たちは三階に避難しているようである。


(とりあえず話を聞くか…)


 体育館のドアが破壊されておらず、開け放たれているということは、中の生徒たちが自分から外に出たということである。

 まだ、一週間も経っておらず、食糧も十分に残っているはずだ。

 なのに、なぜこんなことになっているのか。

 調べる必要がある。



 和が、トイレの個室に入った隙に俺も転移でそこに現れる。

 この能力は、あまり知られたくない。


「うわっ!?清じゃないか生きてたのか!?」


「頼むから静かにしてくれ。そして、人を勝手に殺すな。」


「おう……。悪い、」


 いきなり現れた俺に驚いたようだが、ここで声を上げられては、誰かが駆けつけてくるかもしれない。

 それは困る。


「いきなりで悪いが、話したいことがあるから、幹也もここに呼んできてくれないか」


「OK、分かった。分かったが…トイレしたいから一旦出て行ってくれないか?」


「あ……悪い、」


 そういえば、和はトイレしにここへ来たんだったな。

 一旦転移で外へ出て行く。

 結構なゾンビがうろついている。

 そのほとんどが、元生徒だったのかこの学校の制服を着ている。


(ほんと、どうしてこうなったんだろうな……)


 まぁ、それも含めて話をしようか。


 トイレをし終わった、和が幹也を呼んできたようだ。

 個室に入ったので、再び転移で現れる。


 驚いた顔の幹也と、一回目で慣れたのか動じない和。


「話したいことはいっぱいあると思うが、とりあえず場所を変えよう」


 俺は、2人を巻き込んで「転移」を使い南校舎一階の閉まっている教室に移動する。


 さぁ、事情を聞こうか。


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